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「げっっ!」
石に目を移すと、石の中で手を振る男の姿があった。
ジュリアンは、まぶたをこすり、もう一度見てみたが、間違いない。
やはり男は石の中で微笑みながら片手を振っている。
『あれで良かったか?』
音もなく男が石の中から現れた。
「お、おまえ……ほ、本当に…石の精?!」
『信じられないのも無理はない…人間から見れば不思議なことなのだろうな。』
「当たり前だ!
石から変な男が飛び出てくりゃあ誰だって度肝を抜かれちまうぜ!」
『女の方が良かったのか?』
「そりゃあ…いや…そんなこと言ってるんじゃない!
石の中から出て来ること自体がいけないんだ!」
『そんなことを言うな…
数千年ぶりに月の光を浴びたのだ。
出てきたくなるのも当然ではないか。』
「おまえ、そんなに長い間、埋まってたのか?!」
『そうだな。詳しい年月はわからんが、石の成育具合から考えて、間違いなく、数千年は経ってるだろうな。』
「数千年?!……それにしては、おまえ、若くないか?」
ジュリアンは、男の姿をじろじろと見つめた。
『このくらいが相応だ。
おまえは石の寿命を知っているのか?
私はまだ数千年しか経ってないからこういう姿が自然なのだ。』
男は、ジュリアンには二十歳そこそこの若者に見えた。
それも、見れば見るほど美しい…
息を飲むような美少年だ。
「ま、まぁ…確かに、石のパワーは永久だなんてことも言うけどな…
数千歳なんて聞くと、仙人みたいな爺さんを思い浮かべてしまうぜ」
『仙人?どんな感じのものだ?
爺さんとは老人のことだな。
その方が良ければ、そういう姿にするが…』
「いや…そのままで良い…」
『そうか。何か希望があれば遠慮するな。
出来ることは何でもやってやる。』
自分より年下に見える男にそんなことを言われ、ジュリアンは小さな不快感を感じた。
「なぜだ?なんでそんなことをしてくれるってんだ?」
『なぜ?おかしなことを言うもんだ。
私はエレスチャルだぞ。
そしておまえは持ち主だ。
持ち主の願いを叶えてやりたいと思うのは石として当然のことではないか。
しかも、おまえは私を冷たい土の中から掘り出してくれたのだからな。
言ってみれば恩人でもあるわけだ。』
「なるほどな!
しかし、それならもっと…」
『どちらが良い?』
「え?」
男はジュリアンの話もろくに聞かず、いきなり握り締めた両手を前に差し出した。
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