ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







「カミーユ…今日、君の歌を聞いた。
とても素晴らしかったよ!」

「そうかい、ありがとう。」

彼はいつもと同じように静かに微笑んだ。



「君の歌を聞いていると、まるで本当にその現場を見てるような錯覚に陥ってしまったよ。
どうしてあんな風に歌えるんだい?」

「ジョッシュ…私はただ気ままに旅をしながら、人や物や場所から、記憶の欠片をもらって来るだけなんだ。
そして、その欠片が話してくれるままに、私は歌を歌う……」



彼の言ってることはよく理解出来なかった。
なのに、なぜだか不思議と胸がいっぱいになった。



「あれ…?どうかしたの?」

私が余程おかしな顔をしていたのか、カミーユは、リュートを磨く手を留めて私をみつめた。

そういえば、よく見ると彼のリュートは細工も美しく良い物のようだ。
今まで、毎晩彼がリュートを磨くのを見ていたのに、関心がなかったから、そんなことにも気付かなかった。



「それは、ずいぶん高価なものみたいだね。」

「これは…私のことをこの世界でただ一人理解してくれた人が、私に贈ってくれたものなんだ。
その人の…形見なんだ。」

「形見……」

だから、彼は毎晩あんなに丁寧にリュートを磨いていたのか……
彼の優しさのようなものを改めて感じたような気がした。







「おい、兄ちゃん達…金と値打ちのあるもんを全部置いていきな。
そしたら、痛い目に合うことないぜ。」



ロザンナに続く道の手前には、深くて広い森があった。
そこでは、しょっちゅう追い剥ぎの被害が出ているとのことだったが、私達も運悪くその賊と出くわしてしまったのだ。
そんな者は私の剣で…と、最初は考えていたが、相手は二十名近くもおり、しかも、今まで出会ったことのないような凶悪な面構えをしている者ばかりだった。
そういう者達が、骨まで切れてしまいそうな刃物を持って笑っている姿はまるで地獄の悪魔のようで、私は心からの恐怖を感じてしまった。




「……私が奴らをひきつけておきますから、あなたはその隙にお逃げなさい。」

小さな声で囁かれた言葉に私は耳を疑った。



「馬鹿な…!
私はあなたを守るために……」

「つべこべ言ってないで早く…早く逃げるのです。」

そう言うと、カミーユはリュートを大袈裟に抱き抱え、大きな声を上げた。



「このリュートだけは絶対に渡せない!
これは、バルルッサの作ったリュートなんだから!」

バルルッサというのは、神の手を持つと言われる名工だ。
彼の作った楽器は、当然とんでもない値段がする。
おいはぎ達の目がカミーユに釘付けになり、じわじわとにじり寄る音が無気味に響いた。



「ジョッシュ!逃げるんだ!」

その声を合図に私は駆け出した。
逃げちゃだめだと思うのに、その場から離れたくてたまらなかった。
あんな者達を相手にしたら、私が敵うはずがない。
私は振り返ることもしなかった。
ただ、命懸けで森の中を走り続けた。
誰か、助けてと心の中で叫びながら……





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