ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







「ジョッシュ…どうかしましたか?」

「あ、カミーユ…なんでもないんだ。」



その後も、何人か素敵だと感じる男達には出会ったが、皆、関心を持っているのはお金か女性のことばかり。
その度に私は落胆し、最近ではもう最初から期待さえ持てなくなっていた。



(きっと、平民の男というのは、みな、こういうものなんだ。)



やはり、最後は父上の決めたどこかの王子か貴族におさまるんだ。
でも…城を飛び出して来たことは後悔していない。
この一月程の間にも、私は今まで知らなかったことをずいぶんと知った。
それは、城で暮らすには必要のないことばかりかもしれないけれど、無知だった私にとってはきっと良いことだと思っている。



「もうじきロザンナの町に着きますよ。」

「そうか。やっとだな。」

「ただ、ここから先が少し物騒な場所ですから、気をつけねばなりません。
あ、そろそろ時間です……じゃあ、行って来ますね。」



ロザンナに行った所で、きっと何も変わらない。
そんなことはわかっているけれど、カミーユを守るという約束で、私はこれまでの一切の路銀を彼に払わせているのだから、ここで引き返すわけにはいかない。
彼をロザンナに送り届けたら、私は素直に城に戻ろう。



(……そうだ…)



私は、広場へ向かった。
カミーユともそろそろお別れだ。
土産話に、彼のつまらない歌を聞こうと思い立ったのだ。







広場には客の姿はまばらだった。
小さな町…しかも、こんな寒い日だからそれも当り前だ。

私は少し離れた木陰に身を潜め、彼の歌が始まるのを待った。



客に向かって彼は深々と一礼し、繊細な指でリュートを奏で始めた。
それは、思いがけず素晴らしい音色で…激しさの中に、切なさを感じさせる曲もさることながら、その演奏力に私は耳を奪われた。
そこへ、カミーユの声が重なる。
普段、話している時とはまるで違う大地をも揺るがすような浪々とした声だ。
その声が紡ぐのは、戦いにより離れ離れになった恋人達の悲恋の物語。
目の前に情景がありありと浮かんで来るようだった。
私はすっかり彼の歌い上げる物語の中に引きこまれ、気がつくと止まらない涙にどっぷりと沈みこんでいた。



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