ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



とにかく、城から出来るだけ離れることが大切だ。
あの書き付けが発見されれば、すぐにでも私の捜索が始まるだろうから。
馬に乗って行けば早いけれど、そうすれば馬から私の行き先がバレてしまう。
夜明け前に城を抜け出し、ずっと歩いては来たものの、今どのあたりにいるのかも皆目見当が付かず、私は分かれ道に来て途方に暮れていた。
そうだ…こういう時、平民達は確かコインを放り投げて決めるんだということを不意に思い出す。



(あ……)



私は、お金を全く持っていない。
普段、お金を手にする機会が全くないので、城を出る時にもまるで考えつかなかったのだ。

王女という身分を隠し、しかも男のなりをしている今、一体、どうすれば良いのか。
ここは城とは違う。
食事の用意をしてくれる者もいなければ、宿に泊まるにもお金が必要なはずだ。



「どうかなさいましたか?」



背中からかけられた声は、とても澄んだ美しい声だった。
振り向くと、そこにはリュートを抱えた若い男が立っていた。



「あ……その……実は路銀を落としてしまって……」

私は、男の声色で、咄嗟に思い吐いた嘘を話した。



「路銀を…それはお困りでしょう。
少しならお助け出来ますが……」

穏やかな表情をした物腰の柔らかな男だった。



「……そなたは楽師なのですか?」

「いえ…私は気ままな旅の吟遊詩人です。」

「吟遊詩人……」

誰かに聞いたことがある。
町から町を移りながら、つまらぬ歌を歌う者だということだった。



「それでは、そなたはいろいろな町を旅しておるのだな。
このあたりで人が多く賑やかな町はどこだろうか?」

「そうですね。
私が向かっているロザンナの町は、とても大きな町ですが……そこまではだいぶ、遠いですよ。」

「では、私をその町に案内してもらえないだろうか?
礼は、後で、必ず届けさせる!」

詩人は、話を聞きながら私の顔を少しみつめていたが、やがてにっこりと微笑んだ。



「わかりました。
それでは、剣士殿、あなたをロザンナの町にお連れする間、私の身を護って下さいますか?
ロザンナまでの道程には物騒な所もありますから。」

男の癖に、守ってほしいなどとはなんと女々しい者だろうか。
見た目通りの腑抜けだと呆れたが、今はこの者にすがるしかない。
私は男の申し出を承諾した。



「剣士様、私の名はカミーユ。
どうぞよろしくお願いします。」

「私はジョッシュだ。」

握り締めた手も、まるで女のように細く華奢なものだった。


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