ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「あなたは本当に面白い旅人さんね。
ねぇ…あなたの探してる人がこの世界に来ていたら……そして、私と同じことを考えたなら、今、この世界はどうなっていたかしら?」

「間違いなくこの風景はなかっただろう。
……もちろん、腕の良い仕立て屋もな…」

ミアリの見守る前で、アズラエルの彫りの深い横顔が憂いを含んだものに変わった。



「そう…それは困るわ。
……それで……あなたは、その人を憎んでるの?」

「憎む、か…そういう時期もあっただろうな。
奴には、言い尽せない程の事をされてきたからな。
だが……今は、そんな気持ちはなくなってしまったよ。」

「じゃあ、どういう気持ちなの?」

アズラエルはゆっくりと頭を沈めると、何かを考えるように目を瞑り、少しの間を置いて首を振った。



「私は、どんなことをしても奴を止めなければならない。
それには感情も理由もなにもいらない。
……奴は君とは違うから。」



「ミアリ!」



詳しい事情を聞かなくとも、ミアリにはアズラエルの探す相手がとても危険な者だということが容易に感じ取ることが出来た。
二人の間には、おそらく語りきれない程の複雑な確執があることも…
それがわかるだけにすぐには言葉を紡げなかったミアリの名が、不意に呼ばれた。



「クレイだわ。」

小さく手を振ったクレイは、ミアリが見知らぬ男と一緒にいることで、少し戸窓っているように見えた。



「……そういうことか…君の闇が温かったのは、彼のせいなんだな。
では、そろそろ私は退散することにしよう。
君と話せて楽しかったよ、ミアリ。」

「私もよ…そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわ。」

アズラエルは、少し俯いて穏やかに笑う。



「私は、名もない旅人だよ。」

「そう…」

ミアリは、アズラエルの前に片手を差し出し、アズラエルはその華奢な手を握り返した。



「……クレイより大きな手だわ。」

アズラエルは、黙って頷き、ミアリが瞬きをする間も与えず、空気の中に掻き消えた。


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