ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



(どうやら見当違いだったようだ。
ここの傷は癒えかけている…)



小高い丘の上から見下ろす風景は、自分のしていることさえも忘れさせてしまう程、平和でのどかなものだった。



(間違いない…確かに、ここにとてつもなく大きな動きを感じた。
だが、これは奴の仕業ではない…
奴の仕業なら、今、ここがこれほど平和でいられる筈がない。)



「まぁ、珍しい旅人さんだこと……」

「誰だ!」

不意にかけられた声に、アズラエルは険しい顔つきで声の主を振り返る。
そこに立っていたのは、しなやかな布のスカートと長い髪を風になびかせる美しい少女だった。



「ごめんなさい。
別に驚かせるつもりじゃなかったのよ。
ここは、旅人さえもめったに通らないから、ただほんの少し好奇心がうずいただけなの。
それに、あなたは…」

少女は一応謝罪はしたが、その顔に特に悪びれた様子は浮かんではいなかった。
ただ、なぜだか口にしかけた最後の言葉をはっきりと言おうとはしなかった。



「……私に気付かれることなく背後を取ることが出来、その上、私の正体を見抜いたのが君のようは年若い少女だとは意外だな。
もしや……ご同類ということか?
……しかし…」

アズラエルは、小首を傾げ目の前の美しい少女を訝しげにみつめる。



「そんなにみつめないで。
あなたの視線は、まるで突き刺さるようだわ。」

「あ……あぁ、すまない。
奇妙なことに、私には君が何者なのかわからなくてな。
……こんなことは初めてだ。」

そう言いながら、アズラエルは苦笑した。



「私は…ただのミアリ・クロリア。
それ以外の何者でもないわ。」

まるで独り言のようにそう呟いた少女の鳶色の瞳は、とても強い意思を感じさせるものだった。



「なるほど……ミアリ……君だったのか。
この世界をあれほど大きくかきまわしたのは…」

そう言うと、アズラエルは得心したように軽く何度も頷く。




「……あなたは、なんでも知ってるのね。
いつから見ていたの?」

アズラエルはゆっくりと首を振る。



「ここに来たのはつい最近だ。
だから、詳しいことはなにも知らない。
もちろん、見てもいない。
……ただ、ここでとても大きな動きがあったこと…
そして、この地は瀕死の重傷を負ったが、その傷は少しずつ癒えようとしていることはわかった。
私は、ある者を探してこの世界にやって来たのだ。
ここを動かしたのがそやつではないかと……だが、すぐに違うとわかった。
奴はここには来ていない…」


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