ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



(……帰りたい)

マシューの心の中の呟きは、小さな溜め息に姿を変えて吐き出された。
小高い丘の上から頬杖を着いたマシューが眺める景色の向こう側に映るのは、ひなびた故郷の光景…
特に楽しいとも愛しいとも感じたことのなかったその町が、今は特別なものに思える理由をマシュー本人ははっきりと自覚していた。



(こんな旅、したくないんだ…!)







「えっ!そ、そんなこと急に言われても…」

「なにが急だ!
おまえがそんな年になるまでぐずぐずしてるのが悪いんだろ!
考えたら余計に行き辛くなるもんだ。
マシュー、おまえは明日、出発するんだ!
良いな!」

「ええーーーーーっっ!」



マシューの住む国では、少年達は、皆、旅に出ることが慣わしのようになっていた。
大概の者は十六〜七歳で、早い者は十四歳程になると世界を知る旅に出る。
世界とは言っても何も全世界を周るわけではないが、一度旅に出れば、余程の事がない限り、一年は戻らないのが暗黙の掟とされていた。
各町には、その町を訪れたことを証明する証書を発行してくれる「少年の家」と呼ばれる施設があり、そこは旅先で問題を抱えた少年達の手助けもしてくれる。
食事や泊まる所の世話、病気や怪我の治療等が主だが、そういう補助を受けた者はその町の証書をもらうことが出来ない。
その逆に、魔物のよく出る危険な地域の町を訪れたり、人の役に立ったことが証明されれば、色の違う特別な高ランクの証書がもらえることになっていた。
故郷に戻った時にどのランクの証書をどのくらい持っているかということで、その少年の価値は決まると言っても過言ではない。
だからこそ、少年達は少々の困難では少年の家に助けを求めることはしなかった。

マシューは、周りの友人達が旅に出ることに焦りを感じることもなく、故郷の田舎町でのんびりと日々を過ごしていた。
気が付けばマシューはもう二十三歳。
両親はそんなマシューを引け目に感じていたが、どれ程言い聞かせてもマシューのその重い腰は上がることはなかった。
旅立ちの話をする度に、マシューはのらりくらりと話をはぐらかす。
ところが、マシューの姉に縁談が持ちあがり、そこへ来て、両親の焦りは俄かにピークに達した。
この町の中だけならまだしも、相手の家族や親戚にもマシューのことがバレてしまうことは両親にとって大きな恥であり、マシューの姉にとっても傷となる。
これを機会に、両親はマシューを無理矢理に旅に出るよう追い立てた。


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