再び、三人が耳を澄ますと、赤ん坊の鳴き声に似たか弱い声が三人の耳に届いた。

「確かに、なにか聞こえますが…でも…」

「なにかって、あれ…赤ん坊の泣き声じゃないかい?」

「しかし、狼煙がまだ…」

「そうだな…しかし、予期せぬ何事かがあって、それが出来ないということもないとは言えないぞ…」

「どうしましょう?
ディサさんに知らせた方が良いでしょうか?」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!
もしものことがあったらどうすんだよ!
手遅れになったらどうするんだよ!」

「しかし、もし違っていたら…」

三人は各々が戸惑いながら立ち止まる。



「……あたし、行ってくる!!」

「サリー!待て!」

「あたしは森の民じゃないから、森の民の掟は関係ないんだ。」

「待て、サリー。では、私も行こう。
ヴェール、君はここで待っていてくれ。」

二人はジネットのいる絆の家に走った。



「ジネット!ジネットはいるかい?」

ゆっくりと部屋を見てまわる二人の目に映ったものは、ベッドの上で死んだようになっているジネットと血みどろになってうごめく小さな者の姿だった。



「ジネット!!」

「サリー、産後の処理をしてくれ!
どこかに道具もあるはずだ。」

「そ、そんな!
あたし、そんなこと…」

サリーはジネットの傍らに立ちすくみ、おろおろとするばかりだ。

レヴはすぐにお産のための部屋をみつけ、道具を持ってきた。



「しっかりしろ!
君は、ディサさんに熱心にお産の話を聞いていたではないか!
早くしないと赤ん坊までが死んでしまうぞ!」

サリーはレヴの言葉にはっとしたように道具を手に持った。



「ジネットさん、ジネットさん、しっかり!!」

ジネットに声をかけ頬を叩いてみるが、ジネットの目は開かない。



「レヴ…多分、これで大丈夫だと思う…」

「そうか、よくやった!
サリー、ヴェールに連絡を、そしてディサさんを呼んで来るんだ!」

「わかった!」

レヴは赤ん坊の血を拭き、タオルでくるんで身体をさすった。
赤ん坊は生きてはいるが、弱っていることは明らかだった。



「レヴさんっ!」

「ヴェール…ジネットさんを…」

「ジネットさん!
……こ、これは一体……
ジネットさん!!しっかり!ジネットさん!!」

ヴェールはジネットの身体を抱きかかえ声をかけるが、ジネットはやはり身動きもせずにぐったりとしたままだった…



「ジネットさん、どうしてこんなことに…」

ヴェールの瞳からとめどない涙が溢れ出る…

幸せが約束されていると思っていたのに…
それなのに、今、目の前にあるものは今にも息絶えようとしているジネットとそれを抱きかかえ、泣き崩れるヴェールの姿…



(なぜ、こんなことに…)

レヴは、目の前の凄惨な現実を、どうか夢であってくれと心から願った。


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