毎日、毎日、ジネットはそんな他愛のないことをノートに書き列ねていた。
洗濯や掃除をし、散歩をし、日記を書いたり編み物をしてみたり…
気が付けば、ジネットがここに来てもう一ヶ月が過ぎていた。

一日はあっという間に過ぎ去っていくが、単調な日々は退屈でもあった。
ある日、ジネットは、不意に思いついて持ってきた服をあれこれ着替え、久しぶりに化粧をしてみた。
その時、ふと頭に浮かんだものがあった。



(……確か、あれも持ってきたはず…
あ、あった…!)

ジネットは、ポーチの中にずっとしまっていた小さな箱を取り出す。

蓋を開けると、そこには、十字の輝きを放つ大きな赤い石の指輪があった。



(…素敵!やっぱりこの石、すごく綺麗だわ!!
とてもガラス玉には見えない。
そうだ!ここにいる時だけ、これを付けていよう!
これは皆の前では付けられないんだもの…)



ジネットは、レヴからもらったルビーの指輪をはずし、その指輪とつけ変えた。

まるで女王のように存在感を主張するその赤い石に、ジネットはうっとりと見とれた。
自分の指で輝くその指輪は、とても喜んでいるように思える。



(ごめんなさいね。ずっとつけられなくて…
あなたもきっと箱の中から出られて嬉しいのね…)

鏡の前で着飾ってはしゃぐジネットは、これからも幸せな日々が続くことを信じていた…



それから十日程した頃、なんとなく身体のだるさを覚えた。
出産前には体調が崩れることもあることをディサから聞いていた。
そういう場合に飲む薬草のこともちゃんと知っている。



(頑張らなくっちゃ!
あと少しなんだから…)

それからも体調の悪い日が続いた。
薬草は飲んでいるのだが、症状は一向によくならないどころか、むしろ、だんだん悪化してきているように思えた。



(もしかしたら、風邪でもひいたのかしら…
体調管理はしっかりやってたつもりなのに…
赤ちゃんは大丈夫かしら…?)

緊急の場合にも狼煙をあげて知らせることにはなっていたが、今までそんな事態になった妊婦は誰一人としていないことを聞いていた。
ちょっとしたことで、急を知らせたりしたらみっともない。
ディサにも叱られるだろうし、ヴェールにも恥をかかせることになる。



(……がんばらなくっちゃ…
森の民の女は、皆、こういうことに耐えてきたんだから…
あと一ヶ月…一ヶ月なんてあっという間だわ…!)

自分を奮い起たせるようにジネットは自分自身にそう言い聞かせた。



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