「それじゃあ、お願いします。
まぁ、客なんて多分来ないとは思いますから、奥で寛いでて下さい。」

「いってらっしゃい!」

ピエールとヴェールは、市場へと出掛けた。
今回は、早めに旅立ちたいとレヴが考えていたことは知っていのだが、皆のために何か作ってやりたいというピエールの好意を無にすることも出来ない。
やはり、二〜三日はここに滞在することになるんだろうな…と、ぼんやり考えながら、ジネットは店番をしていた。

ピエールの店にお客が来ているのを誰も見たことはない。
ピエールがさっき言ったようにここで店番なんてしなくても良いのかもしれないが、部屋にいても特にすることはない。
それならば…と、ジネットは店の奥の小さなカウンターに座っていることにした。



(ピエールさん、生活費は大丈夫なのかしら?)

そんなことをふと考え、余計な詮索だと頭を振った。

その時、ジネットの物想いをかき消すように一人の男性が店に入ってきた。

男は店のものには目もくれず、まっすぐにジネットの元へと進んで来る。



(……まさか、強盗なんかじゃないわよね…!?)

男からどこかしら不穏な雰囲気を感じとったジネットは、不安になりながらもまっすぐに男の顔を見据えていた。



「ちょっと買ってほしいものがあるんだが…」

男は低い声でそう呟き、ポケットから小さな箱を取り出した。



「すみません、お客さん。
今、ここのご主人はでかけてまして、私は店番をしているものなのです。
お売りするのなら良いのですが、私には目利きは出来ませんし、ご主人が戻られるまでお待ちいけないでしょうか?」

男は眉間に皺を寄せ、舌打ちをした。



「そうだ!
なら、あんたが買ってくれないか?」

「無理です。私はお金なんて持ってません。」

「そんなこと言わずに、見るだけでも見てくれよ!」

男が小さな蓋を開けると、そこには輝きを放つ大きな赤い宝石の指輪があった。



(まぁ…!
なんて綺麗な宝石なのかしら…
それにとても大きいわ!
こないだのパーティでもこんな大きなものを付けていた人はいなかったわ。)

男はジネットの心の中を見透かしたかのように声をかけた。



「な、見事なもんだろう?
こんな大きなルビーなんてめったにお目にかかれやしないぜ。
しかも、ほら、真ん中に十字が入ってるだろう?
こいつはめったにお目にかかれないような素晴らしいルビーだぜ!」

「ルビー?
これはルビーなんですか?
では、なおさら私には手が出ませんわ。
ルビーはとてもお高い宝石なんですよね?
しかも、そんな素晴らしいルビーなんて…」


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