「らっしゃい、らっしゃい!」

「たこやき、焼き立てですよ〜」

「ご主人様、お待ちしてます〜!」



あぁ、失敗した。
友人に誘われて、隣の高校の学園祭に来たものの、どこもとにかく騒がしくて、俺は頭痛が悪化するのを感じてた。
こういうはっきりしないお天気の日は、いつも頭が痛むんだ。
最初から断れば良かったのに、俺も暇だったからつい行くなんて答えてしまって…
でも、さすがに限界だ。
騒がしい声が俺の頭を刺激する。
先に帰るって言おうと思って、さっきから友人を探してるんだが、はぐれてしまってなかなかみつからない。



(あれ…?)



端っこの教室の前を通り過ぎようとした時、そこが妙に静まり返っていることに気がついた。
ほのかに香るお香と何かの香り…
なんとなく興味を惹かれて、教室をのぞいたら、そこにいた女子と目があった。



「どうぞ…」

遠慮がちにかけられた声に、俺はつい反射的に足を踏み入れていた。



「あなたが今日初めてのお客様です。」

女子は嬉しそうにそういうと、俺を机に座るよう促した。
机の上には、すずりと墨と白い紙。



「ご自由に書いてくださいね。」

よく見ると、紙の下にはお手本が敷かれていた。
これは、写経だ…
難しい漢字だらけのお手本を見て、ようやく俺は気が付いた。
それとお香の香りに交じっていたのが墨の香りだということにも気が付いた。
どうやら、書道部の模擬店のようだ。
おかしなところに迷い込んでしまったと思いながらも、この静かな空間は心地よかった。
俺は使い慣れない筆を手にし、その穂先に墨を付けた。
さすがに筆は使いにくい。
画数の多い漢字を書くにはとても不向きだ。



(あ…)



雑念が入ったせいか、墨が垂れてしまった。



「気にせず、書いてくださいね。」

「は、はい。」



俺は無心にお手本をなぞり書いた。
少し進むと、なんだか妙に気持ちが落ち着き、筆が進んだ。
集中すると、文字を書く手もさらに滑らかになり、早く書けるようになった。
一枚目を書き終えると、とても清々しい気分になっていた。
女子がさっと二枚目をセットしてくれる。



何の音も聞こえない。
ここは静かだとはいえ、構内の喧騒はそれなりにあるはずなのに、集中するとそんなものは聞こえなくなっていた。



「やった!完成だ!」



二枚目を書き終え、日付けを書き入れるとたまらないほどの充実感を感じた。



「お疲れさまでした。」

微笑む女子に、さらに気持ちが和む。



「俺、こんなの初めてやったんですけど、なんか良いですね。」

「気持ちが落ち着くでしょう?」

「はい、すごく落ち着きました。」

気が付けばさっきまでの頭痛さえ消え失せていた。



それからも俺と彼女の会話ははずみ…



「じゃあ、また連絡するね。」

「うん、今日はありがとう。」

数時間後、俺は暗くなった空を見上げながら、校舎を出た。

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