「あんた、大丈夫か?」

顔を上げると、霧はすっかり晴れていて、お母さんと同じくらいの年代のおばさん達が私のことを心配そうにみつめてた。



「えらい派手に転んだんやな。」

「山田さん、バンドエイド持ってへんか?」

「その前に消毒せんでええんかな?」

おばさん達は、私のひざのことでなにか勝手にしゃべってる。



(あ…ここは……)



少し離れたところに、バス停が見えた。
紅葉を見に来た私がバスを降りたのは確かにこの場所だ。



「まぁまぁ、えらい涙やな。
そんな痛かったんか?」

おばさんがそう言いながら、ハンカチで私の頬の涙を拭ってくれた。



「家の人に連絡したろか?」

「い、いえ…私、一人旅なので……」

「あちゃー、そら困ったな。
ひとりで歩けるか?」

「あ、はい、大丈夫です。」

おばさん達は親切に、私をホテルまで送り届けてくれた。



ホテルに戻ると、私はすぐにあのへんの地図を調べた。
喫茶・待ち合わせを探すためだ。
しかし、そんな喫茶店はどこにもなく、ホテルの人に訊ねてもそんな喫茶店は知らないと言われた。



夜が更け、ベッドに横になって、私はもう一度あの店のことを思いおこした。



あれは夢だったのだろうか?
夢にしてはあまりにも現実感があった。
あの紅茶の香り、俊の手の温もりは今でもはっきりと思い出せる。



「俊…本当に傍にいるの?」

その問いかけに、何の返事もなかった。



だけど、私にはなぜだかそのことが信じられた。
すぐ傍で、にこにこしながら頷いている俊の笑顔が頭に浮かんだ。



「俊…私、信じるよ。
だって、あなたは嘘吐く人じゃなかったもんね。」

そう言うだけで涙がこぼれた。



(俊……私、紅茶が好きになれそうだよ…
またいつか一緒に飲みに行きたいね…)



〜fin.


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