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「奈央、お母さんの腰の具合は大丈夫?」
「え、う、うん…まぁ、ぼちぼち…」
やっぱり俊だと思った。
彼の話すことは、いつも私の家族ことから始まった。
「あぁ、良い香り。
あれ?奈央もアールグレイだなんて珍しいね。
ついに紅茶の魅力に気付いた?」
「そうじゃないけど……今日は、ちょっと…ね。」
いつもと変わらない他愛ない会話…
彼の笑顔も少しも変わらない……切なさに胸が詰まる。
「俊…私……」
「どうしたの?」
「う、うん……」
ずっと言いたかった言葉…
『私も、俊のところに行きたい』
いつも心の底にあった想い。
でも、言ったら俊はきっと悲しむ…
いや、怒るかもしれない。
だけど、俊の顔を見たらどうしても良いたくなって、どうしようかと迷いつつ、私は残りの紅茶を飲み干した。
「あ……」
俊の顔が急に強張ったものに変わった。
「どうしたの?」
「一緒にいられるのは……飲み物を一杯飲み干すまでなんだ。」
「えっ!?」
「奈央…僕はずっと君の傍にいるからね。
どんな時だっていつも一緒だ。
君がもういいって思うまでずっとね。」
俊はそう言って唐突に立ち上がった。
「ま、待って、俊……」
「ごめんね、奈央……
でも、忘れないで…今言ったことを信じて……ずっと愛してる……」
そう言うと、俊は私の方を振り向くことなく店を出て行った。
「待って!」
私は彼を追った。
扉を開けると、外はまた真っ白な霧に覆いつくされていて、俊の姿はどこにも見えない。
それでも、私は彼を追いかけ、やみくもにあたりを走りまわった。
彼の名を叫びながら……
(あ……)
何かにつまづき、私は無様に倒れこんだ。
膝を強かに打ち付けたけど、その痛みよりも心の方がもっとずっと痛かった。
せっかく会えたと思ったのに、たったあれだけで終わりだなんて酷い!
痛くて苦しくてたまらず、私はその場に座り込んだまま、大きな声で泣き続けた。
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