(正解……だったかな?)



雪はほとんど止んだとはいえ、さすがに寒い。
でも、そのおかげで、動物園は人が少なかった。
家族連れやカップルも皆無じゃないけど、かなり少ない。
なんといっても、テンションの高い奴がいないのが良かった。



そんなの当たり前だ。
凍える程寒くて、どんよりとした鉛色の空…こんな日にどうやったらテンションが上がるってんだ!?
私も今朝は一瞬、予定を変更しようかと思ったくらいだもの。
でも、昨年の悪夢を繰り返さないために、無理矢理に気合いを入れて家を出て来た。



(……大成功とまでは言えないけど……ま、こんなもんか。)



動物は嫌いじゃないけど、沈んだ心が癒されるほど、大好きってわけでもない。
滅多に来ない動物園は、懐かしさもあってちょっとは気が紛れたものの、やっぱり楽しいって思える程のものではなかった。
まぁ、そこまでの期待もしてなかったから、良いといえば良いんだけど……



(あ……)



「あんた達、こんなところでのんびりしてて良いの?」



私は檻の前で立ち止まり、中の動物に声をかけた。
立派な角を生やした大柄の動物…そう、となかいだ。



「あれ?あんた達…
鼻が赤い奴、いないじゃないのよ!
もしかして、あんた達…ただの鹿じゃないの!?」



『鹿ととなかいの区別もつかないのかよ、ばーか。』

「えっ!?」

不意に聞こえた声に私はあたりを見渡した。
だけど、誰もいない……
どこかに隠れてるのかと思ってけっこうじっくり見てみたけれど、あたりには人の姿はどこにもなかった。



『どこ見てんだ、阿呆。そんなとこ探したって無駄だ。
こっちだってば。』

「ど、どこに隠れてんのよ!」

『だから、おまえの目の前だって!』

「目の前…?」

顔の向きをもとに戻せば、いつの間にか一頭のとなかいが私のすぐ傍に近寄って来てて……


そいつが、突然歯をむき出した。



「え……」



も、もしかして、それって…笑顔のつもり……?



私は反射的にひきつった笑みを浮かべた。



「あの…今の…その……
あんたじゃないよね?」



馬鹿馬鹿しいとは思いつつ、一応、となかいにそんなことを訊ねてみた。



『気付くの遅いってば!』



「あは……はは……ははは……」



この異常な事態に私は混乱しすぎて、不自然な笑い声をあげるしかなかった。


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