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まさか、物置きにそんなものがあるとは思えないけれど、万一ということだってある。
何かの偶然でたまたま紛れこんだのかもしれない。
僕は、扉に近付き、南京錠に力を込めて揺さぶった。
何度か揺さぶった後、南京錠は僕の力で扉の一部と共にもぎ取られた。



ランプを手に扉を開くと、そこはほぼ予想された通りの狭い部屋だった。



「ひっ!」



部屋の奥に置かれたものがランプの明かりで照らし出され、それを見て僕は足がすくみ、僕の喉からはおかしな声が発せられた。



(ま…まさか……)



固まった足をゆっくりと前に出し、僕は恐る恐るそれに近付いた。
一瞬、柩のように思われたそれは、良く見ればただの木の箱だ。
その形状が、ちょうど柩と似ていたから早合点をしてしまった。
僕はほっと胸を撫で下ろした。
こんな所に、柩があるはずがないじゃないか。
何を考えてるんだ、僕は…

箱に近付き、僕はまるでもう臆病だったあの頃とは違うんだということを証明するかのように、その蓋を開いた。



「う…うわぁ…!」



その中をのぞいた途端、僕は無様にひっくり返って尻餅を着いた。
僕の鼓動は、速度を増した。
なぜならば、そこには若い女性が眠って……



「お……脅かすなよ!」



僕は手の平で床を叩き付けた。
まるで柩のような箱の中に眠っていたのは、女性ではなく人形だった。
そのことがわかった時、僕は、思わず声をあげて笑った。
当たり前じゃないか。
こんな所に女性の遺体があるはずがない。
ここにあるのは明らかに人形…
しかし、まるで成人の女性と同じくらいの大きさがある異常に大きな人形だ。
こんな暗い所にあったにも関わらず、その人形のドレスは色褪せ、生地が痛んでいた。
おそらく、相当、古い人形なのだろう。
僕はランプを手に持ち、人形を照らし出した。



(……綺麗だ……)



陶器で造られたその顔はすすけていたが、とても美しい顔立ちをしていた。
目を閉じてはいたが、まるで、今にも起き上がって話し出しそうな生命の息吹を感じるとても不思議な人形だった。


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