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「無駄に広い部屋だな。」
ラスターはきょろきょろと部屋の中を見渡しながら、どこか不満げな声でそう言った。
「この町の宿屋は、他の町と比べてみんなとても立派だね。」
「私、特別室のある宿屋なんて初めてだわ。」
「私は最初はどこの宿屋にもあるものだと思っていた。」
ダルシャのその言葉と同時に、ラスターの舌打ちが響いた。
「それにしてもダルシャ、有名なんだな。」
「当然よ。ダルシャの一族のことは、このあたりまでは十分に響き渡ってるわ。」
「でも、ダルシャはイグラシアの出身だろ?
こんな遠くまで知れわたってるなんて、すごいじゃないか。」
「遠くって……
フレイザー、何を言っている。
ペルージャはイグラシアの隣の大陸だぞ。」
「え……?」
ダルシャに言われた言葉の意味をフレイザーは、今一度、考えた。
そして、いくつもの大陸を移動しながら、いつの間にか、この世界をほぼ一周していたことに彼はようやく気がついた。
「そうだったのか。
ここはイグラシアの隣。
フーリシアとは反対側の大陸なんだな。」
「その通りだ。」
フレイザーは心の底から得心したように、何度も頷く。
「それにしても、リュシーさんが再婚なんてびっくりね!」
「なんだよ、セリナもその人のこと知ってるのか?」
「ラスター、何を言ってるの?
リュシーさんは魔物の森の近くの……
あ、あなた、あの時、貴族の家には泊まりたくないとか言って、来なかったのね。」
「あぁ……あの屋敷の……」
ラスターは、関心なさそうに小さく頷いた。
「あの時は、再婚する素振りなんて少しもなかったが……」
「あ!そうだ!
あれからリュシーさんはダルシャのお父さんに会いに行っただろ?
もしかして、お父さんが誰か良い人を紹介したんじゃないか?」
「父上が……?
そりゃあまぁ、そうしたい気持ちはあるだろうが、叔母上がそれを受け入れるというのがなんとも……」
その時、扉がノックされた。
愛想笑いと共に入ってきたのは宿の主人だった。
「ダルシャ様、大変お待たせ致しました。
リュシー様のことを聞いて参りました。」
「それはすまなかったな。」
「いえいえ。このくらいのこと……ですが、残念なことにあまり詳しいことはわからなかったのです。
わかっているのは、お相手の方の体調が良くないということくらいでして……」
宿の主人は申し訳なさそうに俯いた。
「体調が…?」
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