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「はい……」

家の中から沈んだ声がして、それから少しの間を置いて扉が開いた。



「……すまないが、今うちには金がない。
足が治ったらまたすぐに働く!
だから、頼む!あと少しだけ待ってもらえないか?」

イリヤの父親と思われる男は、俯いたまま唐突に小さな声でそう話した。
男は片足に包帯を巻いている。



「あの……どなたかとお間違えになられているようです。
こちらはイリヤさんのお宅でしょうか?」

「え……?あ…あぁ、イリヤは俺の息子だが、今はここにはいない。
少し前に家を出て行って、今いる場所もわからないんだ。」

「そのことなら存じてます。
私達は、先日イリヤさんと知り合い……」

「イリヤの知り合いだったのか!……それはすまなかった。
とにかく中へ…狭いけど、そこらに座ってくれ。」

家の中に通された六人を見て、子供達は慌てて別の部屋に走り去る。
狭い居間には、子供達の衣類やおもちゃがあちこちに散乱していた。
男は、長椅子の上の衣類を無造作に放り投げ、六人をそこに座るように促した。



「それで……イリヤは元気にやってるのかい?」

「え?ええ、今、フォスターの近くの町でケーキを作られています。
けっこうな売れ行きですよ。」

腰を降ろすなり投げかけられた質問に、ダルシャは慌てて返事を返す。



「あいつがケーキを!?
あいつは昔から料理は好きだったが……へぇ…あいつがケーキをねぇ…
でも、とにかく元気で働いてるなら良かったよ。
あいつのことはずっと気になってたんだが、見ての通り、生活に終われて探しに行く余裕がなかったんだ。
しかも、悪いことに俺は最近足を怪我してしまい、行商に出られなくなってしまってな……
恥ずかしい話なんだが、今も妻が親戚の所に金を借りに行ってるんだ。
だが、そんな大金を借りられるわけもない……
俺がまた行商に出られるようになるまでにはもうしばらくかかりそうだし、全くもうどうしたら良いのか……」

イリヤの父親はそう言うと、両手で頭を抱えてうな垂れた。


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