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「エリオット、元気出せよ。」
「大丈夫だよ。
ボクはこの通り、元気だから。」
フレイザーの気遣いに、エリオットは精一杯の作り笑顔を浮かべて見せた。
六人は、街道をゆっくりと歩き、隣町に着いたのは太陽が沈みかけた頃だった。
「今夜は、この町に泊まろう。」
六人は、最初に目についた宿に入って思い思いに寛ぎ、やがて、夕食の席でまた顔を合わせた。
「今回の主役、エリオットに乾杯しよう!」
ダルシャの掛け声で、皆はグラスを合わせる。
グラスのぶつかる乾いた音が、食堂の中に心地良く響いた。
「でも、本当はおばあさんのことを聞きこんで来てくれたジャックのおかげなんだよ。」
「俺は、何も……」
「そうだったな。
君があの話を聞きこんでいなかったら、きっとエリオットもあの町に留まることはなかっただろう。
ありがとう、ジャック。」
ジャックは恥ずかしそうに小さく頷いた。
「しかし、鉛の箱に入れられ、しかも沼の底に埋められていたなんて、考えてもみなかったな。」
「そうね…まさかそんなこと、考えてもみなかったから、あの時、あのおばあさんの話をないがしろにしていたら、ここでの願い石はみつめられなかったわね。
それに、魔法使いが願いをかけたら死んでしまうなんて、聞いたこともなかった。
良かったわ。
エリオットが今まで願い石を使わなくて……」
「その話が本当かどうかは、おばあさんのお母さんも確かめたわけじゃないらしいけど……」
「馬鹿なことを言うな!
確かめるようなことして、命を落としたらどうすんだ!
取り返しがつかないんだぞ!」
エリオットを見据えながら、ラスターが感情的な声でそう言った。
「……そ、そうだね。ごめん……」
「この願い石はエリオットのために使ってほしいって……おばあさんのたっての望みだから、そうして良いか?」
「あぁ、もちろんだ。
それはエリオットのために使おう。
皆もそれで良いな?」
ダルシャの言葉に、皆、黙って頷く。
「そ、そんな……ボクは良いよ。
他の誰かに……」
「そうさせてもらえよ。」
「そうよ。私はもう願いは叶えてもらったし、ラスターも一度願いをかけたし、後は……」
そう言いながら、セリナはジャックの顔をみつめた。
「……俺はもう叶えたい願いはないから。」
「あれ?おまえ、男になりたいって言ってたんじゃないのか?」
「それなら……もう良いんだ。」
「なんでだよ?」
しつこく質問を重ねるラスターに、ジャックは言った。
「もう男にはならなくて良いんだ。
……詳しいことは、また明日にでも話すよ。」
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