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「橋が出来たらすごく行き来が楽になったな。」
フレイザーは渡りきった橋を見て、満足げに頷く。
「そうだな。
それはそうと…その願い石でエリオットのためになにをしてやるつもりなんだ?」
「さぁな、それはこれから皆と相談だな。
ところで、ジェイコブさん……もしかしたら、おばあさんのことが好きなんじゃないか?
だから、一生、結婚しなかったとか……」
「えーーっ!?でも、爺さんがあのおばあさんと知り合ったのは子供の頃で、しかも一緒にいたのは少しの間なんだろ?」
「そうらしいな。
でも、俺にはなんとなくそんな気がするんだ。」
*
それから、エレのケーキは嫌がらせをする者もなくなり、順調に売れ続けた。
サンドラの家の台所には、ダルシャのおかげで新しいオーブンも設えられた。
ジェイコブは、なかなか昔の勘が戻らないと嘆きながらも、真面目にパン作りに取り組み、その一方でサンドラとイリヤは新しいケーキの開発を始めた。
すべてが良い方向に流れ始めた中、エリオットとの別れだけが、サンドラの胸を痛めた。
「おばあさん、今までいろいろとありがとう。
元気でいてね。
ジェイコブさん、イリヤ…おばあさんのことを頼んだよ。」
「あぁ、任せておきな!」
「偉そうに良く言うよ。
私は、あんた達に心配なんてされなくても大丈夫だよ。
また、エリオットに会うために元気で長生きするんだからね。」
「おばあさん……」
サンドラとエリオットはひしと強く抱き合う。
ただ願い石の情報を聞き出すために、渋々やって来たこの家で、エリオットとサンドラの間にはいつの間にか強い絆が生まれていた。
「エリオット、本当にありがとうよ。
あんたのおかげで、私は生き直すことが出来た。
残された人生を、食いのないように生き抜くからね。」
耳元で小さな声で囁くサンドラに、エリオットは何度も頷く。
「じゃあね、おばあさん。」
「エリオット……また、ここに遊びに来てよね!
僕、待ってるから!」
イリヤはエリオットの手を握り締めた。
「うん、必ず来るよ!」
名残惜しい気持ちを無理に振り払い、エリオットは橋の上を駆け出した。
「元気でね〜!」
「エリオット、ありがとう〜!」
背中から聞こえる声にも振り返らず、エリオットは走り続けた。
一度立ち止まったら……振り返ってしまったら、なおさら別れが辛くなる。
だから、エリオットは振り返ることもなく、フレイザーとジャックの待つ町のはずれを目指して走り続けた。
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