エルフの里は自然に溢れたのどかな集落だった。
木と布で作られた簡単な家が点在し、当然のことながら、そこに住んでいるのは数十人のエルフ達だった。
エアロスの町できいた噂とはまるで違い、エルフ達は皆穏やかで、突然の訪問者にもとても優しくもてなした。




「噂なんてあてにならないもんだね。」

「本当だな。
まさかこんなに親切にしてもらえるなんて思ってもみなかったな。」



エルフの秘薬なるものが効いたのか、一番重症だと思われたフレイザーの体調も数日経つとほぼ元の通りに回復した。
その頃には四人もエルフ達やセリナともすっかり打ち解けていたが、セリナを探していた本当の理由は未だ話してはいなかった。



「セリナ、ちょっと良いかな?」

フレイザーとエリオットを伴なったラスターが、セリナを呼び止めた。



「なぁに、ラスター。
真剣な顔してどうしたの?」

セリナはいつもと同じように穏やかな笑顔を返す。



「実は…俺達がセリナを探してた理由なんだけど…」

「……わかってるわ…」

「えっ…!?」

「願いの石を探してるんでしょう?
そうじゃなきゃ、私なんかを探すわけないもの…」

そう言ったセリナの表情には暗い影が差した。



「そうじゃないんだ!
俺は本当は…」

ラスターはそこまで言って不意に口を閉ざした。



「セリナ…あの、実は俺達なんでかわからないけど記憶をなくしてて、それで、願いの石をみつけたら記憶が取り戻せるんじゃないかってことになって、それでラスターが…」

「おいっ!」

「そうなんだよ。
僕達のためにラスターは、セリナのことを教えてくれたんだ。
それに、セリナの行方を追ってるうちに、どうやら魔の山に迷いこんだんじゃないかってことになって、ラスターは、本当にものすごくセリナのことを心配してたんだよ!」

フレイザーとエリオットはラスターに喋らせる隙を与えず、一気にまくし立てる。



「……そうだったの…」

セリナは、そう言ったっきり、黙って遠くをみつめていた。



「ごめんよ、セリナ。
いやなら良いんだ。
俺達、地道に探してみるよ。」

「そうだね。
無理は言えないもんね。」

「……セリナ…ごめん…」



「それで…」

三人がその場を立ち去ろうとした時、セリナがぽつりと呟いた。



「セリナ、今、何か言った?」

「ええ。
それで、いつここを経つつもりなの?」

「いつって…まだ決めたわけじゃないけど…まぁ、近いうちにだな。」

「近いうち…じゃあ、急がなきゃね!」

「えっ?!」

「私もいいかげん長居しすぎたから、そろそろここを発たなきゃって思ってた所なの。
今までは一人旅だったけど、これからは四人で行けるのね!
楽しみだわ。」

「そ、それじゃあ…」

セリナはにっこりと微笑んだ。


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