「ですが、叔母様…
あの森には魔物が……」

「そうね…
もしかしたらナジュカくらいはいるかもしれないわね。」

「ナ、ナジュカ…!」

「あら、ダルシャ。
あなた、ナジュカが怖いの?」

まさかナジュカを見ると猫男に変身してしまうなどとは言えないダルシャは、少し不自然な程大きな声を出した。



「そうではありません!!
叔母様は、僕がここへ来た時におっしゃったじゃないですか。
お祖父様やお祖母様もです。
あの森は魔物の森と言って、そりゃあものすごく怖しい魔物がいるのだと。
あの森に足を踏み入れて戻って来た者はいないともおっしゃったのに、ナジュカくらいはいるかもしれないとはどういう意味ですか!?」

「だって、そうでも言わなけりゃ、あなたはきっとあの森に入ってたと思うわ。
そしたら、今頃本当にここにはいなかったかもしれないわよ。」

「なぁ、リュシー叔母さん、どういうことなんだ?
ちっとも話がわからないよ。」

「ごめんなさいね。
わかりやすく説明するわ。
実は…あの森に魔物がいるっていうのは嘘なの。」

「嘘〜〜?!」

リュシーの話を聞いていた四人の声が揃った。



「ダルシャ、あなたがここへ初めて来たのは…」

「た、確か10歳くらいじゃなかったかと思いますが…」

「そうでしょう、だから、父が考えた嘘を吐いたの。
あなたを守るために。」

「私を守る…?」

「ダルシャ…あなたも、うちの一族の共通点を受け継いでるわよね?」

「共通点?」

小首を傾げるダルシャに、リュシーは話を続けた。



「私達に伝わる悪しき遺伝…方向音痴よ…
あの森は、木々が絡み合ってとても入り組んだ森らしいわ。
それに深い谷もあるらしい。
あの頃、私はもう立派な大人だったけど、両親はそのことをとても心配してた。
あの頃の私はとても沈んでいせいもあったんでしょうね。
私は四六時中メイド達に監視されてたわ。
……あ、それでね、あなたは子供だから行ってはいけないと言えば言うほど、興味を持ってしまうかもしれない。
だから、魔物がいると言って近付けないようにしたの。」

「そんなぁ…」

ダルシャの顔からすべての緊張感が消え失せた。


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