105、“分かっていた”


「うああ…っ、」
「フフフフ…」
「てめェ、なにを!?」

どんどん足元に蝋を流されて、立ってられなくなったブロギーは前から倒れてしまった。
倒れてもなお、反抗を見せてMr.3をひどく睨みつける。だが、動けなくては巨人も畏怖の対象ではない。Mr.3は笑い声をこぼしながらゆっくりと瞼を持ち上げた。

「なにって? これだから品のない連中は…。作品を作るのに決まっているだガネ」

意志を頭に向けると、3の上先端にぼっと炎が灯った。もう足はほとんど埋まっているのに、まだまだ蝋を流す気だ。そうブロギーは思ったが、Mr.3はブロギーを放置して前の開けた地に大量の蝋を流していくのだった。


「うう…ッ、」
「大人しくしなさい! 本当にバロックワークスの追手から逃げきれると思ってるの?」

ブロギーたちから少し離れた場所。ドリーの住処でビビはあっけなく敵二人に捕まってしまった。逃げられないようにミス・バレンタインに手首を掴まれ動けない。身長もそこまで変わらなく、華奢だというのにどこにそんな力があるのか。ビビは下唇を噛んで怒りを押し込めた。
ここで暴れれば、ルフィやウソップにもまた被害が及ぶかもしれない。

ボムボムとキロキロを受けたウソップは首から下を土に埋められたまま気絶をしていて、ルフィはピンピンしているが相変わらず巨大岩の下敷きに。カルーもボロボロのまま意識を失っている。
茶色の虹彩を揺らしてビビは彼らを見つめた。自分のせいだ…そんな悔やみが喉の奥から熱く上がってくる。

「さすがの3000万ベリーの賞金首もあれじゃあね〜」
「ウイスキーピークでのお礼ができて嬉しいぜ。こういったデリケートな問題に海賊風情が突っ込むんじゃねェよ。てめェの仲間の剣士と金髪女も捕獲済みだ」
「ゾロとアリエラを捕まえた…? じゃあ、お前斬られるぞ」

ぴくりと指を動かし、じっとりした目を向けるルフィの反応にMr.5はゆっくりと眉を持ち上げた。動転すると思いきや、挑発するような態度を取るのだから。

「ほお。まだ口が聞けるのか。このおれの顔面に受けておいて」
「こんなもん効くか! お前らぶっ飛ばしてやる!」

ペッとMr.5の足元に唾を吐くと、彼はますます眉と瞳を尖らせた。
「呆れた」心底乾いた高い声が彼の後ろで響く。Mr.5の広い額に浮かんだ青い血管がぴくりと動き、足元に爆弾を貯めていく。何度も何度もルフィの顔を蹴り、その度に爆発を起こし、ルフィの周りは真っ黒な煙がもくもくと立ち上る。灰を含んだ黒からうっすらのぞいたルフィの手はぴくりともしないで、力を失ったように柔らかく地面につけているだけ。

「ああ…っ、ルフィさん!」

あのルフィが力尽きてしまうなんて。そりゃあ、相手は爆弾男だ。いくらゴム人間でも敵うわけが──。苦い思いが胸の内側でトグロ巻く。ビビは瞳を伏せて、苦味を口の中で飼い慣らしながら彼らから目を逸らした。

「キャハハ!」
「行くぞ、ミス・バレンタイン」
「ええ」

ビビの腕を掴んだままミス・バレンタインはルフィたちに背を向けた。強制的にビビも彼らから離れることになり、苦しみながら胸の中で彼らの名をなぞるように零すことしかできなかった。


「うおおお!!」
「やめとけやめとけ。私の蝋の硬度は鉄の硬度に匹敵する。巨人族のバカなんて一度捕まえたらなんの意味もない。要は頭を使わないと何も真正面から向き合えるはずはない」

フフフ…と笑いながら、Mr.3はブロギーの手のひらをも固めていく。

「勝利によって油断したなあ。赤鬼のブロギーよ! フフフ、そう睨んでくれるな。怖くて敵わん」

そう言っている口元は卑しく歪んでいる。何が鉄の硬度だ。何が怖いだ。腹の底から真っ赤なマグマが昇ってくるのを感じるが、それを吐き出す術は今は持っていない。

「よかったじゃないか。長い長い決闘の決着がついたのだ。誇りとか懸けて1世紀戦ってきたのだろ? 勝利の味はまた格別なものではないのかね? 例え、それが人の加勢による賜物であっても……違うカネ?」
「貴様…! まさか…ッ、」
「だが、しかし。最後の勝者は私だ! 知っているカネ? かつてお前達二人にかかっていた賞金は合わせて2億ベリー。この話はまだ生きている」
「貴様……!!」
「長く眠っていた宝を見つけた気分だガネ」

ナッハッハッハ。卑劣な笑い声が大地の空気を揺らす。
ブロギーはうつ伏せのままじっとりと射抜くようにMr.3をねめつけることしかできない。こんな小僧相手に反撃ができないなんて、決闘のけの字も知らない小僧にドリーが──。
脳裏を過るのは、一合目での違和感。一瞬、悲痛そうに表情を顰めた親友の顔。

「それが狙いだったのね、Mr.3!!」
「連れてきたわよ」
「我が社の裏切り者をな」

苦い思考に飛び込んできた凛とした声にハッとして双眸を流すと、そこには水色の髪を束ねた少女。ビビがいてブロギーは目を丸める。また新たな人間だ。奴らに拘束されているということは、ウソップたちの仲間だろうか。
ケタケタ笑っていたMr.3はピタリと動きを止めてゆっくり振り返る。

「遅いぞ。待ちくたびれたじゃないか」
「やり方が汚すぎるわよ、Mr.3! ドリーさんの酒に爆弾を仕込むなんて!!」
「酒…? おれが渡した酒にか?」

4つもらった樽をふたつドリーに分け、自分はもう全部空にしたのだが身体に何の異変もない。
『ガババババ! ドリーよ、久しぶりの酒は格別だったろう?」
『あァ。神の味がした』
ふと思い出すあの時の会話。神の味、あれはそういう意味だったのか…。どくんと鼓動が大きくなり、喉に込み上げてくる熱いものをグッと飲み込む。

「そうだったのか…ドリー!」
「…せっかくのタネを明かしやがって小娘よ! だが、まあいい。もう何もすることもできんのだしな」

怒りに下唇を噛み締めているビビにMr.3はゆるく口角を持ち上げ、両隣に立っていたMr.5ペアに言葉なき合図を送る。「“キャンドルロック”!」ぼっと髪の先端を燃やし、目にも止まらぬ速さで蝋を溶かしてビビの足元に液体を飛ばす。瞬間にジャンプして避けたMr.5ペアは被害を受けることはなかったが、足にくらったビビはバランスを崩して倒れてしまった。
どろりと絡みつく白は、絡み付いた瞬間に凝固してビビの足を拘束する。

「ううッ、」
「フフフッ…Mr.5! 剣士と女二人をここへ。始めるぞ…“特大キャンドルセット”!!」

了解を得た二人は、茂みの奥へと引き返していく。それを見送ると、Mr.3は髪の毛をこれまでとは比にならないほどにぼうぼうと燃やし、激流している川のように激しく開けた地に蝋を送り込む。
ビビもブロギーも目を見開かせ、固唾を飲んで見張っていると、Mr.3の意のままに流された蝋は次第に形成を成し、巨大なオブジェを作り上げた。細い棒状に支えられたジャックオランタンのような姿をした巨大な屋根部の上には10本の巨大な蝋燭が火を揺らしていて、ジャックオランタンの下は人が数人立てるほどの広さのある土台となっている。その下にはまた二つの支えである土台があり、そのオブジェの見た目はケーキのようなものだった。

「…これがMr.3の能力!」
「なんと……」

ビビもブロギーも神業に位置するものに心底驚き、息も止めていると背後から複数人の足音が忍び寄ってきた。次いで、「連れてきたぜ」と低い声が任務を告げる。

「ッ!」
「きゃあっ」
「あうッ!」

声に続き、地に放り投げられたのは腕を後ろで拘束されたゾロとアリエラ、そしてナミだ。
罠に仕掛けられた三人は逃げる隙もなく、仲間の姿をした蝋によって動けなくされてしまった。いくらゾロでも腕が使えなくては攻撃できず、アリエラにも無茶をさせたくないためと大人しく連れてこられたわけだが…。

「いたたあ…ちょっとあなた乱暴すぎるわよ! 私とナミはレディなの」
「フン…口の減らねェ女だな」

そのアリエラはさっきからMr.5に対して食ってかかっている。

「この程度の奴にコケにされたなんて、自分に腹が立つぜ」
「…ッ、」
「きゃ、ゾロから足を下ろしなさい!」

膝を折ったままうつ伏せになっていたゾロの顔に足を乗せて、ウイスキーピークでの腹いせをぶつける。直に殴られたのはルフィではなくゾロだったから、立場が逆転したMr.5の口角は自然と上がっていた。アリエラにまた噛みつかれるが、今度こそ無視をする。
彼女に手を出すと、この足下の男が豹変してしまいそうで。何となく、そんなことを察したのだ。

「…フン。君らは弱いんだからしょうがないガネ」
「…何だと?」
「いいや、何でも。早くキャンドルにセットしたまえ」

位が少し上だからって、任務を失敗したことがないからって。
コキを使うMr.3にMr.5もミス・バレンタインもひどく癪だがそれは事実だからぐうの音も出ない。不愉快そうに表情を歪めながら、地に転がる海賊に視線を落とす。

「って、何なのあれ!?」
「ケーキみたいだわ」
「ナミさん、アリエラさん…Mr.ブシドー!」

ゆっくりと振り返ったビビは、瞼を落として揺れる声をこぼした。
ここに連れてこられてすぐに地に伏せられたため、ビビがいることに気がつかなかった三人はギョッとする。ゾロは踏まれて顔を上げられないため、声のみでの判別だが。

「ビビちゃん、どうしてあなたが!?」
「ルフィと一緒じゃなかったの?!」
「ええ…それが…」
「麦わらならこのおれが仕末した。簡単な仕事だったな」
「…お前がルフィを?」

視線だけを上に向けてみると、ほくそ笑んでいるMr.5が映ってゾロは嘲笑うように口角を持ち上げた。それがまた癪に触れたMr.5が足に力を込めると、Mr.3が「やめたまえ!」と声を荒げ渋々力を緩める。

「ふうん…」
「え…、な…なあに?」

咎めた後、Mr.3は隣のアリエラを舐めるように全身を見つめてほう…とため息をこぼした。
メガネの奥を細めてにたりと笑う。その間、ナミに「あんたの知り合い?」と尋ねられたアリエラは険しい表情のまま首をふった。

「緩くウェーブのかかった金髪に煌めく碧眼…その美貌。170センチ弱の身長に健康的な肉体……全て一致するガネ。探していたよ、絶世の美女エトワール」
「……!」
「え、なんでアリエラのこと…!」

顔写真を新聞などに載せたことはない。容姿は口から伝播していたかもしれないが、名も何も公表していないから特定に至るまではそうそういかない。エトワールの時は髪を結い上げているし、メイクだって濃くして布をたっぷり使ったドレスを身に着け煌びやかにしている。雰囲気も喋り方も声のトーンも振る舞いも。全て演じていたから気づかれる恐れはなかったのだが──。

「まさか、裏切り者の王女と共に巨人と千両役者エトワールが釣れるとは…今回は大豊作だガネ」
「何のことかしら」
「とぼけるな。いくら振る舞いや着こなしを変えたって隠せまい。その美貌と華だけはな……世の宝だと言われているエトワール…お目にかかれて光栄だガネ。そして、私の美しき作品にできるなんて……ナハハッ」
「作品…?」
「さあ、キャンドルにセットを! 粗暴に扱うな。私の大切な作品なんだ」

作品、一体何のことだろうか。
別にエトワールだってことバレても構わないが、それで仲間を巻き込むのは避けたいものだ。だけど、反抗する間もなくビビを交えた4人はこのキャンドルサービスの上に並ばされることとなった。

「こんな気分なんだろうな。ケーキに刺さった蝋燭ってのは」
「なにあれ…上で回ってるのは何?」
「ハロウィンのカボチャみたいね〜。ジャックオランタン」

向かって左からビビ、ゾロ、アリエラ、ナミと順に並ばされた彼らはまだこのセットがなんの意味を為すのか理解していないために呑気につぶやいた。これをどう作ったのかしら? 足の感覚からすると蝋みたいね。芸術家であるアリエラはこのオブジェに興味が湧いたようで、上の蝋燭から下のワッフルのような台までじいっと見回している。

「それにしても、動かないわ。足」
「そりゃあ動かねェだろ。何たって敵だぜ」
「私たち、どうなっちゃうのかしら?」

顔を持ち上げたアリエラも小首を傾げてみる。足首まで蝋で埋められていて、抜こうとしてもびくともしない。ゾロは刀を抜いて真っ白な土台を刺してみるが弾かれてしまった。

「チッ、硬ェな」
「ゾロの刀でもダメなの?」
「あァ。この態勢じゃ力も入らねェし、どうにもできねェ」
「まあ…。私はどうかしら」

右手を開き、生まれた数枚の金薔薇の花びらを打ちつけてみるが、光の衝撃波を与えても少し欠けるだけで終わってしまった。

「アリエラでもダメか」
「勢いあるように見えたけど」
「…う〜ん、ダメだわ。私にもっと力があればいいんだけど…ダメねぇ。もっと鍛えなくっちゃ」

己のてのひらをそっと見つめる。何の傷もない、まっさらは海を何も知らないやわこい手。
何だか悔しくて下唇をグッと噛む。この海賊が蔓延る世界、レディの嗜みとしてしっかりと戦闘の術は身につけたのだけど驚くほどに手も足も出ないのだ。
「仕方ないわよ、アリエラ」優しいナミの声が左鼓膜をくすぐった。もどかしい気持ちを覚えながら、こくんと頷くと頭上でごうん、と重たい音が鳴った。

「え、なあに?」
「何か降ってきたわ!」

このセットの上に立たされてから一言も発さなかったビビが、ギョッとして上擦った声を上げた。
ひらひらと空…いや、ジャックオランタンの上から降ってくるのは真っ白な雪。天候を操る能力じゃなくては、とても雪を降らせられる気温ではない。アリエラがそっと手のひらを前に差し出す。細い指先に触れた儚い白は、ひんやりともせず、雪のように溶けることなくお行儀良く指先で鎮座している。

「これ何かしら、雪じゃないわ」
「え、じゃあ何?」

ぽつん、とつぶやいたアリエラに驚いてナミが訊ねると、セットの前で腕を組み眺めていたMr.3が高笑いを響かせた。

「味わうがいい、キャンドルサービス! キミらの頭上から降るそれは次第に蝋人形に変えていく…。私の造形技術を持ってしても到達できない完全なる人の造形! それも、この世を揺るがすほどのエトワール付きの…」
「蝋人形!? ちょっと待ってよ、」
「まさに文字通り、魂を込めた蝋人形! 美術家の名の下に死んでくれたまえ!」
「いやよ、そんなの!」
「美術家ですって?」

ぴくりと指先を動かしてアリエラはMr.3を見下ろす。
不敵な笑みを浮かべている彼は、あの人たちそっくりだ。人を最高傑作だと呼び、美貌が全てなあの人たち。人の魂を奪ってそれを美術だなんて称することに、同じ芸術家のアリエラはひどく不快に映った。芸術には規定がないためさまざまな作品が存在しているが、規定はなくとも人としての線を超えてはいけない。人を傷つけたり殺めたり奪ったり、そんなものただの犯罪だ。

「このまま私たちを蝋人形にして一生の自由を奪う気なのね! そんなもの、ただの殺人だわ! 二度と美術家なんて言わないで!」
「そう怒るな、エトワール。まあ、最も。怒った顔も美しいが作品にするにはやはり笑顔でないとな。フフフ…」
「……っ」

メガネの奥の瞳を光らせ、軽く足らい笑うMr.3が憎たらしい。
ぎゅうっと拳を作り彼めがけて攻撃を仕掛けたくなったが、こんなことをしたらナミたちに迷惑がかかってしまう。きっと蝋人形にされるスピードを上げられて、考える隙もなく自由は奪われるだろう。耐えることは慣れている。取り繕うことには慣れている。
大きく息を吐いて、アリエラは怒りを消失させた。

「…放っとけ、あんな奴。お前が何言おうと聞く耳持たねェよ」
「うん…、」
「苛立つ気持ちは分かるがな」

ちらりとゾロを見上げると、彼はこんな状況でも気高く前を見据えていた。
ナミとビビも焦りながらこの窮地を脱出する方法を探している。そうだわ、今すべきことは咎めることじゃない。どうにか回避する方法を探さなくては。

「ブロギーさん! 黙ってないで暴れてよ!」

ビビの懇願が乾いた空気に弾けた。キャンドルセットの隣でうつ伏せのまま手足を固められてるブロギーは見慣れぬ娘を瞥見し、また瞳をくうに戻した。

「しかし。でけェ人間がいるもんだな」
「まあ、素敵! 私、巨人族さんに初めて出会ったわ」

バタバタしていて周りに注意を払えなかった。ビビの呼びかけでようやく気がついたゾロとアリエラは一目見た時かなり驚いた素振りを見せたが、一瞬で飲み込んで今度は感心している。

「ブロギーさん!」
「そいつに何を言っても無駄だガネ。やっと気づいたのだ。相手が傷を負っていることを見抜くこともできずに100年間も戦い続けてきた親友ドリーを自らの手で斬り、勝ち誇り、涙まで流したてめェは間抜けさ。あるいは友のために泣いたのか? ハハハハッ! いずれにせよ、取り返しはつかないのさ、バカめ!」
「……分かっていた」

ボソリとこぼされた低音にMr.3もゾロたちも視線をブロギーに向ける。
うつ伏せになっても尚、褪せない強さ、誇り、気高さを持って元凶を射すくめた。胸のうちから燃え上がるのは憤怒。脳裏をよぎるのは、さっきの決闘でのドリーの姿。

「そんなことは…分かっていた。一合目を打ち合った瞬間からドリーが何かを隠していることくらい」
「ん〜? 分かっていただと? 嘘をつけ! なら何故戦いをやめなかった? あの豪快な斬りっぷりには同情のカケラもなかったじゃないか!」

静かな地帯にケタケタと卑劣な笑い声が響き渡る。空気が変に揺さぶられた。
本当に、本当に。誇りも気高さも何も分かっていない男だ。ブロギーは歯をぎりっと鳴らして大きな口を開いた。

「決闘のけの字も知らねェ小僧に涙のワケなど分かるものか! お前らに何が分かる? 弱ってることを隠し尚、戦おうとする戦士に恥をかかせろと…そうまでして決闘を望む戦士に情けなどかけられるものか!!」
「うわ!」

巨人族の大声は鼓膜をひどく揺らす。Mr.3は大袈裟に反応を示し、数歩後ずさった。

「そして理由がわかった。分かったからにはおれの手で決着をつける! 親友ドリーへのこれが礼儀というものだ!!」

100年の決闘。親友のこと。汚す者。さまざまな想いが交差した怒り、悲しみ、その全てを腕に込めた。鉄に匹敵する硬度を持つ蝋を込めた力だけで割り砕き、片腕の自由を取り戻す。
もし、両腕両足の自由を取り戻されたら…。頭脳では勝るかもしれないが、力では圧倒的に不利だ。一瞬にして敗北してしまう。その未来が脳裏をよぎって、Mr.3は慌てふためき数メートル距離を取る。
だが、全て壊される前にMr.5がブロギーの顔に爆弾を仕掛け、爆ぜた。直にくらった彼は、呻きをあげて、地に手と顔をつける。伸びた指先はピクリともしないで、呻きも途絶えた。

「「ブロギーさん!!」」

ナミたち三人は瞳を丸めながら叫ぶが、彼の耳には届かない。ふわりと立ち登る爆煙が視界の邪魔をする。

「まさか、私たちがあげたお酒に爆弾が仕掛けられてたなんて…」
「なんて卑怯な人たちなの!? よくそんなことができるわね、根っから腐っているわ!」
「……」

腕を組んでじっとMr.3を見つめていたゾロも思うことがあるようで、上がっていた眉はさらに尖を潜めてゆく。

「ガタガタうるせェ怪物だぜ」

それぞれがのぼる熱を感じているなか、爆煙から抜け出てきたMr.5が恐ろしいほどに冷たい顔をしてやれやれと首を振っていた。

TO BE CONTINUED
原作121、74



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