143、思惑


エースとの旅がしばらく続くこととなり歓喜したルフィたちは、その勢いのまま自由時間となった。
「茶でも飲むか?」と尋ねに、エースは腰を浮かせてサンジと共にラウンジへと入っていく。その後をルフィとウソップが追って、今やキッチンには賑やかなぬくもりが弾けている。

打って変わり静かになった外。
数日ぶりの満腹感にすっかり満足したゾロは、これでようやく振り切った筋トレができる。と早速服を脱ぎ捨てて、いつもながらの素振りを素振りをはじめた。

「この暑い中よくやるわよ」
「ねえ。あ、でもゾロくんのおかげでトニーくん気持ちよさそうだわあ」
「あらほんと。そっか、チョッパーは冬島育ちに毛皮があるからこの暑さ、私たちよりも堪えるよね」

船尾甲板に続く階段に寝そべったチョッパーは、ゾロがダンベルを振るたびにそよそよ吹く風になびいて幸せそう。このままうとうとしてしまいそうな船医の空気に、ナミとアリエラはお互い笑いあった。

「私はちょっと針路を確認してくるわ。アリエラ、あんたまたサンジ君のとこ行くの?」
「ええ。彼、今からお弁当を作るんですって。少しお手伝いしたくて」
「そう。アリエラが手伝ってくれてサンジ君、大喜びでしょうね」
「うふふ、そうだったらいいなあ」
「それじゃあ頼むわね、お弁当」
「うん。ナミも、頼むわねわたしたちの針路を」
「任せなさい」

ばっちりウインクをするナミのフレッシュな可愛さに胸がじいんと震える。
こんなにもウインクが似合う女の子は世界中探したってナミしかいないわ!と、どうしてか自分が得意げになってくるりと振り返ると、さっきまで少し離れた場所にいたビビの姿が消えていた。

「あら? ビビちゃんは?」
「……部屋に戻った」
「そう。ゾロくん、熱中症にならないように気をつけてね」
「あァ? 誰に言ってんだ。おれはそんなモンにはならねェよ。あのヘボコックじゃあるめェし」
「サンジくんもとっても丈夫な人よ。風邪をひいたことないんですって」
「バカなだけだろ」
「ひどい。サンジくんはバカじゃないもの」
「……」

汗水を流しながら続ける彼女との会話に凛々しい眉をそっと顰める。
ぷっくり頬を膨らませるアリエラが気に食わなくて目をそらした。何故お前がむっすりしてんだよ。そう言いかけて、口を閉じる。
顔を赤くされたり、慌てたり、そんな様子を見せられてはとてもじゃないが平然としていられるはずがなく、平静にいるにはスルーをするのがいちばんだと本能がそう察したのだ。

「またお水持ってくるわね、ゾロくん、トニーくん」
「…あァ」
「ありがとう…助かるよ」

にっこり笑い、まとめた金色の髪を揺らしてから背を向ける彼女に一瞥を投げ、ダンベルを握る手に力をこめる。
見たくないものを見てしまったのかもしれない。“それ”がエトワールだった頃の名残だとしたら、どれだけ胸をほっとさせるだろう。上がった息に誤魔化して深い溜息をこぼす。溜息というものは、小さく見えて大きなヒーリング効果を感じるとゾロははじめて思った。

「ん涼しいぞ、ゾロ
「…そうか」

陶酔した甘い声がゾロの思考をぱちんと割った。引かれるように目線を下げてみると、自分が送る風を幸せそうに受けている無垢な顔があって、ゾロの心は幾分か和やかにひいていく。

「チョッパー」
「なんだ?」
「しばらくそうしてろ」
「いいのか!? しあわせだ、おれ」
「大袈裟な奴だな」

少ししたら立ち退くから、と言っていたチョッパーをここに立ち止まらせて、ゾロは無垢な彼に少しずつ癒しをもらっていくのだった。


   ◇ ◇ ◇


「ああっ、アリエラちゃん来てくれたんだね!」
「うん。サンジくん、お弁当作るって言ってたから」
「え、弁当作りまで手伝ってくれるのか? いやそれは申し訳ねェよ」

エースにお茶を出したところで、ふわりとした春の息遣いが部屋に飛び込んできてサンジは嬉しそうに顔を持ち上げたが、彼女が口にしたことばを受けて眉を垂らした。
さっきも配膳を手伝ってもらったのに、と口にしたサンジにやわらかく笑みを浮かべてちょこちょこ近づくと、「ううっ、」とほっぺたをほんのり染めた。

「あ、アリエラちゃんもさ、お茶淹れようか。食後のコーヒー、いるだろう?」
「そうねえ、それじゃあいただこうかしら!」
「かしこまりました、レディ」

胸の前に腕をつけて綺麗にお辞儀をするサンジは、その金髪と気品も相俟って絵になる。
そんな彼にえへ、と相好を崩して食卓をぐるりと見回す。壁側の奥の席に腰を下ろしてるエースと、通路側席に並び合って座っているルフィとウソップの姿が目に映る。
ふたりの前に座るとお洋服を汚してしまいそうだわ。とすこし迷って、エースの向かいになる席を選び、アリエラもちょこんと腰を下ろした。

「ここ座ってもいい?」
「ああ。構わねェよ」
「あ、でも座ってから言うものじゃないわね」
「おれもそう思ってた」

肘をついて白い歯を見せるエースの温かな雰囲気にアリエラの心も朗らかになっていく。
兄弟顔はあまり似ていないけれど、どことなくオーラが似ているからだろうか。はじめて会うのにずっと前から知っている人のように感じて、気兼ねなくお話ができるのは。

そんなことを考えながら、テーブルの中央にぽつんといるバスケットに手を伸ばし、クッキーをひとつ摘む。すると、少し離れたところでのぼった香ばしいにおいが鼻腔をくすぐった。

「お待たせしました、アリエラちゃん」
「わあ、ありがとう!」
「アリエラちゃんの食後のコーヒーは、お砂糖なしでミルクを少量だよね」
「うん、さっすがサンジくん覚えててくれて嬉しいわ」
「そりゃあ、アリエラちゃんの好みは網羅してるからな」

くるりとした眉毛を持ち上げて幸せそうに表情を蕩かせる彼をエースはちらりと見つめ、心の中でふうんとこぼす。すぐに目の前にいるアリエラに流してみると、コーヒーの熱を無邪気にフウーと冷ましていて、こりゃ気づいてねェな。とたれ目をさらに垂らした。

「そうだ、ナミさんとビビちゃんの紅茶もお淹れしよう。暑いからフレーバーティーがいいよなあ」

棚を覗き、紅茶を吟味しているサンジの背中を見つめながらアリエラはこっくりとコーヒーを飲む。
たばこの匂いとコーヒーの匂いが混ざって溶け合うのがなんだか好きなのだ。これを飲み終わったらサンジくんのお手伝いをしなくちゃ、とご機嫌に瞳を細めると隣の席でがっしゃんと騒がしい音が響いた。

「やあ、おれがおにぎりキャプテン ウソップだ! 誰だ? お前は」
「メシだるさんだァ!!」

ふっと見やると、自分の輪郭を象ったおにぎりの中央に人差し指を突っ込み、チャームポイントの長いお鼻を再現しているウソップに反応して、巨大なおにぎりをふたつ上下にくっつけて、目には梅干し、鼻には赤いウインナー、両手にフォークをくっつけ頭にお茶碗を乗せた“メシだるさん”を作り上げたルフィは、それをどかんとテーブルに置いた。
その重たい衝撃に、綺麗に握られたおにぎりが並べられたお皿が揺れて激しい音を立てたのだろう。

「ふたりとももう17歳でしょ? 幼児でもしないわ、そんなこと」
「ハハッ違ェねェツッコミだな」

アリエラの咎めに頷き、エースは困ったような笑みを浮かべている。そしてコックさんは、テーブルの上にお米が散らばり、粘土細工のように遊ばれている光景にムッとして大きな中華鍋をふたつ手に取り、ルフィとウソップの頭の上にがつんと落とした。

「食いモノをおもちゃにするんじゃねェ!!」
「「うがッ…っ、」」
「暇なら皿でも洗ってろ! ったく、川を渡るまでに弁当の支度を済ませなくちゃならねェってのに」
「何か手伝おうか?」
「んっ?」

ご立腹な口調でシンクの前に立ち、腕まくりをするサンジにエースは穏やかな笑みを浮かべて訊ねた。寄せていた眉根を伸ばし、キョトンと顔を幼くして振り返る。

「いやあんたは一応この船の客人だからな。まあゆっくりしててくれ」
「そっか」
「ね、エースさん。とっても優しいでしょう? サンジくん」
「ああ。おれァてっきりただの女好きだと思ったが、侮れねェな。紳士ってのは」
「そうなの、サンジくんはちょっぴりエッチだけど男女問わずとっても紳士なのよ」

“ちょっぴりエッチ”とこっそりと告げるアリエラにエースは口角を持ち上げて頷く。
一見、男の子には乱暴且つ存外な行動を取ると思われるサンジだが、本当は女性だけでなく男性にもとびきり優しい一面を持っている。口の悪さに隠れているけれど、これまでにサンジの優しさに救われてきた男性も数えきれないほどいるだろう。

アリエラの褒め言葉を背中で受け止めて、とろりとした心底嬉しそうな笑みを浮かべるサンジは「大好きだなあ、この子のこと」と心の中でひっそりとこぼす。
まだふたりっきりでおしゃべりするには胸の鼓動が邪魔をするけれど、この『お手伝い』が続けばきっとアリエラに想いを告げられるほどに恋も成長するだろう。
おそらく、いやこれから絶対に彼女への想いはむくむくと膨れ上がるばかりだろうが。

 ──怖ェなあ、アリエラちゃんというレディは。

後ろに彼女がいて誰にも顔を見られない位置に立っているからこそ、アリエラにしか見せない恋の表情を浮かべて幸せを感じていると、右の方からじゃぶじゃぶと水を動かす音が聞こえてハッと意識をこちらに戻す。

瞳を流してみると、「皿でも洗ってろ!」とお尻を叩いたルフィとウソップが右端でしゃがみ混んでいて、真っ白なお皿を数枚洗っているのが目に入った。その瞬間、サンジの背筋にゾッとした嫌悪が走る。

「よいしょよいしょ」
「綺麗になあれ」
「なるかボケェ!!」
「「いでえッ!!」」
「きゃっ、びっくりした」
「おめェらそんな水で洗ってんじゃねェよッ!!」

突然サンジの怒号が響き渡って驚いたアリエラは、飲み干したコーヒーカップを少し乱暴にソーサーに戻した。
また何をしてサンジを怒らせたのか、フイっと振り返ってみると飛び込んできた光景にアリエラも口元を手で覆いわなわな震える。

なんと、ふたりが必死にお皿洗いをしていたお水は掃除用のそれだったのだ。
ところどころゴミの浮いている汚水を気にも留めず、疑問にすら抱かず、そのバケツの中に数枚お皿を突っ込みゴシゴシ洗っていたのだろう。ちゃぽんと顔を覗かせたお皿は可哀想に、バケツの中でゆらゆら揺蕩っている。

強烈な蹴りを入れられ、頭に大きなたんこぶを作っているルフィとウソップの元へ絶句したアリエラも飛んでいき、「もうっ信じられないわっ!!」と腰に挟んでいた白薔薇の鞭を抜いて、容赦なくふたりに打ちつけた。
ぱしん、といい音が鳴ってウソップは悲鳴をあげる。「ナイス! アリエラちゃん」その後ろでサンジの声が嬉々として揺れた。

「もうっ」

ジンジンズキズキする痛みが少し治ったところで、むくりと立ち上がるとむっすり柳眉を持ち上げたアリエラの顔がずいっと近づけられて、ふたりはびくっと肩を揺らす。

「このお皿もう二度と使いたくないわっ、あなたたちのせいよ!!」
「ったく…エトワール様はお嬢だな!」
「アリエラ、おまえな。そんなんじゃ海賊やってけねェぞ!」
「てめェらが粗野なだけだろうがッ! おれだって使いたくねェわ、この皿!」
「「あいでッ!!」」

アリエラに批判を飛ばしたため、もう一度サンジからの強烈な蹴りを喰らいがくっと地面に落ちていくふたり。その様子をエースはお茶を飲みながら見つめていて、ほんっとあいつは変わってねェな。と困ったような笑みを描き、苦労してるな、仲間のみんなも。とやれやれ溜息をこぼした。

「ったく…この皿、漂白して綺麗にはするがこれからはお前ら用だからな」
「別におれはこれで構わねェよ。なあ、ウソップ」
「あァ、何の問題もねェ」
「海賊相手にとやかく言うつもりもねェけどよ……衛生観念イかれてんぞ、てめェら」

たばこを咥えた唇を不愉快そうに尖らせて、サンジはそのお皿を新聞紙で包んだ。
まずはナミとビビのお茶を入れなくてはならないし、そのあとすぐお弁当作りに取り掛からなくてはならない。
この汚れた水に濡れたお皿を当面構うことができず、とりあえず放置という選択肢を取ったのだ。

「あ、サンジくん。お手伝いするわ」
「今回はこのアホたちのせいでちょっと時間がねェもんだから助かるよ」

ルフィとウソップに向けた声色とはガラリと変わった、穏やかなトーンと微笑みを浮かべるからむむむっと顰めていたアリエラの心もふっと和らいだ。
サンジくんって天使みたい。艶々サラサラな金色の毛が蓄えている天使の輪を見つめて、盛んな青年相手にそう思ってしまった。

「それじゃあ…アリエラちゃん、ナミさんとビビちゃんを呼んできてくれるかい? お茶がもうすぐ出来上がるから」
「うん、わかったわ」
「ありがとう」

濃く抽出した紅茶にたっぷりの氷を入れながらサンジはにっこり頷いた。
からんからんと氷がぶつかるひんやりとした音を聴きながら外に出ると、ぎらりとした太陽が肌を刺して反射的に目をぎゅっと瞑った。
数枚重ねて張られている薄いヴェールを剥がされたように太陽を近くに感じて、まぶたに光がじんじん滲みる。

「…でも、湿度が高くないだけマシだわ」

乾いている空気が作用して、計測する数字よりも体感は暑くなく、これは慣れたらカラッとして気持ちの良く感じるのだろう。

「このままお肌を健康的に焼きたいわ

紫外線も薄く、厳しい寒さのほこる北の海で過ごしていたアリエラの肌は白い方で、ずっと色っぽく焼きたいなあ。と思っていたからこの太陽光に祈りを捧げてしまいたくなる。
汚れを知らない白く傷のないからだを見ると、自分はなんて守られてきた存在なのだろうと痛感する。これまでずっと女学院の中で安泰と生きてきたこのからだは、海の上では不自然に浮いて見えた。

ふいっと顔を持ち上げて、階段を降り切ったところで倉庫のドアがゆっくり開かれた。
この穏やかな動作は、ビビのものだろう。

「ちょうどよかったわ、ビビちゃん」
「アリエラさん。どうかしたの?」

やはり、数秒遅れて姿を見せたのは水色の髪の毛を揺らした彼女だった。
アリエラを認めるとふわりと女神のような微笑みを浮かべて、こてりと首をかしげる。その姿はあまりにも天女で同じ女性でも思わず、ほう…っと感嘆をこぼすほどだ。

「あのね、ビビちゃん。サンジくんがお茶が入ったからキッチンにおいでって」
「ありがとう。けれど…ごめんなさい、ちょっと用事があって」
「用事?」
「ええ」

ビビは穏やかに首肯して、船首甲板に目を向ける。
気になったアリエラの視線がふとビビの手元に落ちると、水色の封筒が握られているのを確認した。何のお手紙なのか尋ねる前に綺麗なヒール音が鳴って、近づいてくる音に顔を持ち上げると、明朗な笑みを浮かべたナミが「どうしたの?」とまた可愛く首をかしげた。

「ナミさん、ちょうどよかったわ。ちょっとここで船を止めてほしいの」
「え、なんで?」
「カルーに重要な仕事をお願いするために」
「カルーに…?」
「クエっ?」

船はずっと海岸沿いを走っているため、ちょっと舵を動かしたらすぐに陸に上がれるようになっている。波も穏やかで安定しているからすぐに寄せることは可能だけれど、ナミとアリエラが同時に目線を投げた真横の陸地は、町もなければ木や水すらもない、砂と岩でできた広大な砂漠だ。

地図で見た限りでは、近くの町までまだまだ距離がある。わざわざここでカルーをおろして一体何の用事を任せるのだろうか。ふたりはキョトンと目を丸めたが、砂漠にもアラバスタの地形にも詳しいのは当然ビビの方で、ナミは「わかったわ」と頷きみんなを呼んだ。


   ◇ ◇ ◇


「カルー。ここからアルバーナの宮殿に行って父に手紙を渡してほしいの」
「クエっ!」

船をとめて、チョッパーがはしごを垂らすとゾロとエース以外のクルーが陸地に降り立ち、王女さまと向き合っているカルーの凛々しい表情をにっこりと見つめていた。
さっきまでぽかぽかお昼寝していた可愛らしい姿とは打って変わり、きりっとしている様子にビビもほっとする。

サンジがカルー用の首掛け水筒にたっぷりと氷水を入れて、背中についているポケットにビニール袋で包んだお肉の丸焼きをぎゅうっと押し込んだ。それを見て、ルフィが「いいなァ」とよだれを垂らしている。

「これにはバロックワークス社と陰謀について、私とイガラムが調べあげた全てのことを書き記してあるわ。そして、私が今生きてこのアラバスタに帰ってることも、心強い仲間たちと一緒だということも」

彼女が紡ぐことばから、手を取ってくれたことがしみじみと伝わってきてクルーは満足そうに嬉しそうに面々に笑みを浮かべている。
「できる?」というビビのたずねに、カルーはきりっと眉間に皺を寄せて鳴き声とともに敬礼を示した。

「じゃあ、父に伝えて。この国は救えるんだって!」
「クエーッ!」

肌が焼けてしまわないように緑のコートを着せてあげて、ポシェットに手紙を大事にしまいながらビビはカルーのからだをゆっくり撫でた。
おねがいね。と目尻を垂らすと、カルーは責任を持って大きくうなずいて、みんなに背を向ける。ちゅーっとお水をたっぷり口に含むと「お水は大切に飲みなさい!」とご主人様にお叱りを受けて、くえっと鳴いた。
そうして喉もしっかり潤わせると、ドタドタと可愛い足音を立てながら俊足を持つ超カルガモ カルーは瞬く間に砂漠へと入っていった。

「わあ、カルーちゃん速いわね!」
「すげェなあ
「もう見えねェぞ!」

大量の砂埃が立つほどの速度で走っていくカルーは、数分も立たないうちにすっかり姿を見えないところまで進んでしまった。
この足ならば、首都アルバーナまで一日ほどで着くだろう。とビビは踏み、目をつむり、二年間ずっと一緒に戦ってきた彼に願いを捧げる。

「…お願いね、カルー……」

その様子をじっと船の上から見つめていたエースは、ふうん…と短く唸り、この広大な砂漠の先で鎮座しているクロコダイルの姿を脳裏に浮かべた。

「王下七武海のクロコダイルがこの国にいるのは知ってたが……海賊が国取りだって? タチの悪いジョークだぜ」

呆れたような笑いをこぼし、大地にくるりと背を向けて欄干にもたれかかったエースをゾロはちらりと見やる。

「海賊が一つ所にイカリを下ろして落ち着こうってのか。まさか、国王の座に納まるつもりでもないだろうに」
「……そうだな」

クロコダイルがしているのはただの国とりなのだろうか。
海賊というものはひとつの国に興味はない。この世で最も自由な者であり、それを求めて海を彷徨っているのが海賊だ。それを思えば、やつには何かもっと大きな何かを狙っているようにも感じられて、ゾロもそっと眉間にシワを寄せた。

「よおしっ船を出すぞォ!」
「コラまだおれ乗ってねェよ!」

エースと話しているうちに、ルフィたちは船の上に戻ってきていた。
ご機嫌で明朗な船長の声が響くと、すぐさま船の下から焦燥の声が飛んできて、アリエラはくすくす笑いながら顔を覗かせた。

「おそい、ウソップ」
「ったく、周りを見てねェ船長だ」

ぎしっと音を立てて乗り上げたウソップは、はしごを引き上げてそれを丸め、隅っこに投げる。狙撃手の言葉に、にししっと笑ったルフィは悪ィ悪ィ、とへらりと手を持ち上げた。


TO BE CONTINUED 原作話-96話



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