140、兄と弟


烈火に包まれた一帯はごうごうと音を立て、陽炎を作っている。
対峙するのは奇しくも炎から生まれる煙の能力を持つスモーカー大佐。不敵に笑みを描く火拳に鋭い双眸を殊更に尖らせて、紫煙を吐いた。

「……どけ」
「退くわけには…いかねェな」

含み笑いのまま続けたエースは、火をさらに放出させて、自分とスモーカーの間に大きな壁を作った。ぶわっと肌をかすめる熱風に海兵たちはどよめく。

「貴様が麦わらの兄弟だったとはな…」

低くこぼし、スモーカーは両手を煙に巻いた。
濁った白がもくもくと地を這い、炎の壁を壊す。けれど、火から生まれる煙というこの二つの能力は相殺されることもなく、互いを押し合うように蠢き、次第には絡みつくのだ。

「“ホワイト・スパーク”!!」

自身に煙を巻き、エースのもとへと突っ込む。
もくもくと立ち昇る煙に炎がぶつかり、焦熱がナノハナを包み込む。煙が飲み込む作用もあり、被害に及ぶまでもは行かないが、人々は悲鳴をあげて建物の中へと逃げ込んだ。
その声が聞こえたのか、エースはぐんと宙に飛ぶ。瞬時に追うようにスモーカーも高く浮き、お互い炎と煙でぶつかりあう。遠のくものに人々はほっとして表に姿を出し、不思議そうにその二人を見上げていた。

少し離れた場所では「な、なんだありゃあ…!」「火事か?」「いいや、ただの家事じゃねェ!」と慌てふためく声が響いている。凡そ一キロ先に浮かぶ炎と煙の渦。摩訶不思議な光景に、クルーたちも足を止めて振り返った。

「一体なにが起こってるんだ?」
「炎と煙の戦いってとこか?」
「ぶつかりあうだけで攻撃が効かないのね」

絡み合ったまま減ることのないオレンジと灰は、中の激しさを表すようにさらにボウンと勢いを放った。キョトンと瞳を丸めるチョッパーにウソップとアリエラもこくりと息を呑んで上方を見る。

「あいつ、メラメラの実を食ったって言ってたよな」
「クエッ…」
「それにしてもルフィ本当? さっきの人があんたの兄さんだなんて」
「ああ、エースって言うんだ」
「…まァ別に兄貴がいることに驚きゃしねェがよ。何でこの“偉大なる航路”にいるんだ?」
「エースは海賊なんだ!」

ルフィは東の海にいて、兄ということはエースも元はそこにいるはずで。特に偉大なる航路は突入するだけでも困難で死に至る確率の方が高いのに、なぜ彼とここアラバスタで再会できたのか。不可解な点をゾロが問うと、ルフィはニカっと白い歯を見せた。

「おれよりも3年早くワンピースを狙って出航したんだ」
「「ええっ…」」

兄弟揃って同じ夢を持ち同じ海賊になっただなんて。感心に驚愕に、いろんな想いをそれぞれ抱き声をこぼしたが、立ち止まっている暇はない。ナミが誰よりも先に我に返って、まばたきを繰り返した。

「みんな! とにかく早く船に戻りましょ! 追っ手がくる前に逃げるのよ!」
「はァい、ナミすわぁん

エースが止めてくれているうちに再びクルーは海岸目掛けて走り出した。

「しっかしこんなところで出会うとは思わなかったなあ!」
「すごい偶然ね。よかったわね、ルフィくん!」
「おう!」

にししっと笑う先頭のルフィの前に伸びる道は、建物を中央に挟み、二手に別れている。どちらが海岸にたどり着くのだろう。「うわっ、道が別れてるぞ!」ウソップの戸惑いが響くが、航海士であり地理に慥かなナミがすぐさま「左よ!」と判断を下した。

「みんなもいい? 左を行くのよ!」
「ああっ、もうナミさんとならどちらでもッ!」
「もういいエロコック!」
「うふふっ、サンジくんったら」

こんな時まで、とくすくす笑いながら隣を走るアリエラにサンジは何も言えなくって笑みを浮かべて誤魔化した。アリエラを前にすると、どうしてこういうことが言えなくなるのだろう。むず痒さに下唇を噛み締めているうちに、海岸へと出た。

だけれど、その間。ルフィはナミの指示に従わず──というか聞いていなく──、右を選び突っ走っている。注意深いゾロは恋を患うサンジと彼に笑顔を見せているアリエラのことを、サンジはアリエラのことを気にしていたこともあるし、みんなも必死だからルフィが消えたことに気が付かなかった。

チョッパーが垂らしてくれたロープを使ってメリー号に乗り込む。

「早く荷物を積んで! すぐに出航するのよ!」
「急げッ!!」

ナミの指示に従いながら、大慌てで荷物を積み上げ、帆を張り、錨を持ち上げて、メリー号をゆらゆら揺蕩わせるまで仕上げて、ものの3分で出航準備を整え終えた。
自分の仕事をしつつも、不思議そうにみんなを見つめていたチョッパーが、船尾から甲板へ続く階段を降りているビビにちょこちょこ歩み寄った。

「なあ、今着いたばかりなのにもう出航するのか?」
「ええ。この町に着いたのは必要な物資の調達のためだから。ここからは船で川を遡り、アラバスタの中陸に進むの」
「次の町はなんて言うの? ビビちゃん」
「緑の町、エルマルよ」
「緑の町、素敵ね!」
「おれ、緑いっぱいの土地を見てみてェ!」

キラキラと目を輝かせているアリエラとチョッパーに、ビビはくすりと笑い階段を降り切った。
錨をあげて、帆を張って、ゆらゆらゆりかごのように揺れる船は何度体験しても心地が良くて、空気をいっぱい肺に送りたくなる。

「準備は整ったわね? それじゃ、ビビの言う通りに川を遡りましょう」
「おう!」

キッチンへと飛び込んだウソップが、舵を握りしめたままコクンと頷くが…。
ここでみんな違和感を抱いた。

「ん…?」
「…しかし……」
「あれ…?」
「まあ…、」
「……っ、」
「なァんか、ひとり足りねェ気がするな」
「足りないわね、約一名…」

それぞれが呆れや戸惑いの吐息をこぼすと、舵を強く握りしめたウソップがぽつりとこぼすと、両腰に手を置いてナミが同調した。しばらく船内に沈黙が流れる。

そして──。

「…あんの…バカッ!!」

剣士の怒りの声が砂漠の海の空を劈いた。


   ◇ ◇ ◇


その頃、ルフィはナノハナの港付近の路地にいて困ったように首を傾げていた。

「おかしいなあ……なんでおれしかいねェんだ?」

樽の上にどかっとあぐらをかいて、腕を組んで考えるポーズをとってもその答えはどこからも浮き出てこない。

「あいつら、どこ行ったんだ?」

辺りをくるりと見回してみると、頭上でふわっと影が動いた。
太陽が遮られ、視界が少し暗くなったところで懐かしい声があたまの上にぽつりと落ちた。

「まったくこれじゃ逃してやった意味がまるでねェな」
「んっ…あ!」
「よう」
「エース!!」

オレンジ色のハットを押さえて口角を持ち上げる姿は、最後別れの船出の頃よりも大きくなっていて、男らしい逞しさに「エースは海賊になったんだ」とじわじわ実感を抱いて、ルフィの胸を高鳴らせた。
まだ、最終的なものはお互い叶えていないけれど、幼い頃から願っていた夢を一部叶えたのだ。

屋根の上から飛び降りて、ルフィの前に立つとエースは「久しぶりだな、ルフィ」と笑みを描き、ルフィもにしっと笑う。

「久しぶりだな、エース」
「アハハハハハッ」
「ヒヒヒッ」

声はあの日よりも少し低くなって、背は高くなったけれど、見せる表情や言葉遣いは変わらない。懐かしい笑い声を聞きながら、ルフィは立ち上がる。そうして、どちらともなく空いた樽の上に肘をつけると、がしっと手を握り締めあう。

「ヒヒッ、何年ぶりだっけ?」
「さあな…が、ルフィ。相変わらずマイペースなのはガキの頃と変わっちゃいねェな」
「うっ、エースもな。悪魔の実を食ってたのはびっくりしたけど、それ以外は同じだ」

再会した途端に腕相撲をはじめるのは二人とも、昔から常に競い合っていた証拠だ。
お互いがいたからここまで強くなれたことに感謝をしながらも、ルフィは全力で力をこめてエースの腕を傾けていく。

「エースが畑に忍び込んでスイカを100個食って口からタネを鉄砲みてェに飛ばして逃げた時さ…、」
「それはおれじゃねェ。お前の話だ…っ、」

今度はエースが本気を出し、ルフィの腕を傾ける。ぶるぶる震わせながら全力を拳に込めて、次はルフィが続ける。

「…で、でっかいたんこぶここに作ったろ!」
「そいつもお前だ。おれは見て笑ってた」
「ぬっ…ぬなああああっ!」
「ふぬう…っ、ヘヘヘヘッ」
「ううっうううっ」

お互いに顔を真っ赤にして歯を食いしばり、最大限の力をこめたところで樽は割れて中の水が溢れ出した。足にかかるそれが心地よく、一気に熱を冷ましていく。
お互いに手を握ったまま、胸の前に持ち上げてフッと笑った。

「どっちだって同じだ」
「ああ」
「懐かしいなあ」

繋いでいた手を離して、左手でハイタッチをするとエースはしゃがみ込み、自分のリュックに手を伸ばす。

「しかし…仲間はお前を捜してるんじゃねェのか?」
「ああ。けど、エース。なんでこの国にいるんだ?」
「あっ、何だ? お前、ドラムでおれの伝言聞いたわけじゃねェのか?」
「ドラムで?」
「ああ、いいさ。別に大した問題じゃねェから。おれはちょっと野暮用でこのあたりの海まで来たんでな。お前に一目会っておこうと思ってよ」
「野暮用?」

取り出したスキットルのキャップを開き、カラカラになった喉に水を流していく。
ひとしきり飲んだところで、口を腕でぬぐい頷く。

「おれは今白ひげ海賊団にいるんだが、」
「うあっとと…、白ひげ海賊団?」
「こいつは白ひげ海賊団のマークさ。おれの誇りだ」
「へえ」

ルフィにスキットルを投げ渡すと、エースは彼に背を向けて親指でマークをさした。
ごくごく飲みながらそれを見つめるルフィを少し見つめて、そして口を開く。

「ルフィ。お前、白ひげ海賊団に来ねェか? もちろん、仲間も一緒にだ」
「イヤだ」
「フッハハハハハ。ハア、だろうな。言ってみただけだ。白ひげはおれの知る中で最高の海賊さ。おれはあの男を海賊王にならさせてやりてェ。ルフィ、お前じゃなくてな」
「いいさ。だったら戦えばいいんだ。おれが海賊王になる」

まっすぐ貫くような瞳に、エースは嬉しそうにまばたきを繰り返した。
ほんっとガキの頃から変わってねェな。そういうところがこいつのいいとこなんだが。
こうした挑発的な言葉も、自分自身への固い信頼があるからこそ笑顔で弾くことができる。
変わらない大きな姿に満足げに鼻を鳴らすと、ルフィは手に持っていたボトルをもう一度ぐびぐびあおる。すぐに離すかと思いきや、いつまでも喉に通し続けるからエースはムッときてたれ目を尖らせた。

「だああっコラ! 全部飲むんじゃねェ、ルフィ!」

兄の怒りを煽るように仰け反って、ルフィは水をすっからかんに飲み干した。
まあ、また買えばいい。と持ち直し、エースは地面に投げていたリュックの紐を片腕に通して歩きはじめた。それに追うようにルフィも小走りで彼の隣に歩み寄る。


その頃、船長捜しをしていたクルーは──…。

「でも、いいのか? ルフィがいないのに船出しても」
「港はすぐに海軍の手が回るわ。まず、どこかに隠れなきゃ」

チョッパーの不思議そうな声にナミが双眼鏡で辺りを見渡しながら、こくんと頷いた。
あのまま、ナノハナの港付近で揺蕩っているわけにもいかずに、メリー号はすうっと大海原に漕ぎ出していた。少しだけ島から離れて、でも海岸からはこの船がよく見えるようにウソップが慎重に舵をきってくれている。

「この先に入江があるはずよ」
「誰もいないといいわね」
「ほとぼりを待ってルフィを捜すとするか…」
「ったく、いつもいつもあいつのせいでこんな騒ぎに」
「ハア…頼りになる船長だぜ…」

ビビの案内のもと、ゆらゆら気持ちよさそうに前を進んでいるメリー号だけれど、その上では不満げなため息があちこちにこぼれている。サンジとウソップのボヤきに同調するように、ゾロもやれやれと首を振って、岸の方に目を向けた。



「とにかくお前の仲間を捜そう。海軍に見つかるといちいち面倒だしな」
「あいつら船に戻ったのかもしんねェな」
「船はどの港に泊めた?」
「それが全然思い出せねェんだな…」
「おめえな……。海賊団の船長なら自分の船をどこに泊めたか覚えてるもんだよ、普通」
「アハハハッ、まあ気にすんな」
「相変わらずだな…」

能天気なルフィにため息をこぼしながらも、こういうところも変わっちゃいねェと胸のうちでぼやく。仲間は苦労してんだろうなあ、と思ったところで、疑問が浮かびルフィの草履をふと見つめる。

「ところで、お前の仲間はどんな奴らなんだ?」
「世界一の剣豪になりてェ剣士。いつも腹巻きしてんだ。航海士は地図とみかんとお金が好きだ。それからめっちゃくちゃ料理の上手ェコックに、めっちゃくちゃ絵の上手ェ芸術家。あっ、そうだ。ウソつきも乗ってっぞ。それからトナカイだ」
「そりゃまた随分バラエティにこだわったな」
「今は王女とカルガモも仲間だ」
「おお」
「みんなえれェ面白ェぞ!」
「まっ、お前が一番面白ェんじゃねェかとおれは思うけどな」

天然で何をしでかすか分からない船長。きっと船の上はいつも大賑わいなのだろう。あまりの突拍子のない行動にクルーが嘆いている姿も鮮明に浮かぶ。それは、ある意味海賊らしくってなるほどなあ。と頷いた。

「しかし、たった数人の海賊団とはお前らしい」
「あとは音楽家がほしいなあ。芸術家のアリエラってやつがよくハープを弾いたり歌ったりしてるんだけどよ、上手いけどなあ。もっと本格的な海賊っぽい音楽家が必要なんだ」
「ふうん…音楽家ねえ」

こいつ、昔から宴が好きだったなあ。と幼き日を追憶しながらしばらく歩いていると、路地から開けた海岸に出た。途中、ビリオンズと名乗る男たちに対火拳のエースへの敵襲を喰らったが、ルフィとエースが力を合わせれば造作もない敵で、瞬時に片付けてしまったのだ。

目の前に広がる青い海には、見覚えのある羊船が浮かんでいてルフィは「あっ」と驚嘆を吐いた。

「あんなところに!」
「あの船か?」
「おう! おーーい、ここだあ! みんなァ!」

ぶんぶん手を振り大声を響かせるルフィは気づいていないが、さっき攻撃を仕掛けてきた残党がまたもやじりじり背後に詰め寄ってきていたのだ。しつけェな、とこぼしたエースが「ルフィ、お前は先に…」とちらりと弟に視線を流したが、仲間に声を送っている彼はこちらに一切の注意を向けていなくって、「聞いちゃいねェな」と笑った。

ルフィの声は、潮騒に飲まれてみんなの耳には届いていない。
だけれど、見張り台に上って注意深く観察していたナミの双眼鏡に大きく手を振っているその姿が飛び込んで、「あっ」と声をあげた。

「いたっ! ルフィよ、ルフィを見つけたわ!」
「わっ、ルフィくんいたの!?」
「あ…こりゃ間違いねェぜ、アリエラちゃん。あのバカ面は……お?」

ウソップから借りた双眼鏡でサンジも船長を確認し、アリエラに貸そうとしたところ。ルフィが大きく動きを見せたため手を止めてじっと見張る。
両腕をぶんぶん振るって、ぐーーんと伸ばす素振りが確認できたと思った瞬間にはすぐ目の前の欄干に船長の手があって。

「やべェ! 逃げろ、アリエラちゃん!」
「へっ、きゃあッ!」
「うッ、」
「ただいま!! にしししッ」

アリエラに注意を投げた瞬間、ルフィはもう勢いつけてこちらに飛んできていて、サンジとアリエラを激しく押し倒しつつ帰船した。
にんまりと太陽のような笑みを浮かべるルフィに悪気はないのはわかるけれど、体はジンジン痛みを覚えて、衝撃に頭はくらくらする。
「サンジさん! アリエラさん!」ビビの悲鳴が海上に響き、「おめェなあ」と呆れながらみんなが駆け寄ってくる足音が倒れた二人の身体に伝わってくる。

むくりと体を起こしたサンジは、自分よりもまずすぐにアリエラの状態を確認し、すっと手を伸ばした。

「アリエラちゃん、大丈夫かい!?」
「う、うん…大丈夫。からだをぶつけただけなの」
「痛ェところはねェか? ああっ、こんな小せェ身体を強くぶつけちまって…。そばにいたのに守れなくてごめんな」
「そんな、やめてよサンジくん。あなたが謝ることじゃないわ。 ルフィくんが悪いのよ!」
「あははっ、悪ィな」

申し訳なさそうに謝るサンジにアリエラの心はずきりと痛んだ。
彼はどうしてそこまで優しいのだろう。今のはどうしようもないことだったし、何よりサンジは一切悪くないのに。へにょっと眉を下げていはいるけれど、顔をあげてくれたことにホッとしたアリエラは、ルフィを睨みつけながら立ち上がった。

「もうっ、ルフィくん! そんな無理矢理帰ってこないでよ!」
「いや、だってよ…」
「だってもクソもねェ!! てめェルフィ! アリエラちゃんが怪我しちまってたらどうしてくれんだ、一遍オロすぞコラァッ!!」
「そうよ、ルフィ。どれだけ迷惑かけたと思ってんの? 少しは船長として自覚しなさい!」
「反省って言葉をまるで知らねェぜ、こいつ……。アリエラちゃんに怪我がなかったからよかったものの、次やったら蹴り飛ばすからなルフィ」
「は、はーい…ごめんなさい」

コックと航海士からぎろりとした鋭い目を向けられて、ルフィはしゅんと肩をすぼめた。
素直に謝ったところでふっと兄の姿を思い出した。ここまでドタバタだったから完全に忘れていたけれど、そういえば…。

「エースどこ行っちまったんだ?」

すっと立ち上がり、辺りをキョロキョロしてみるけれど、飛び込んでくるのは青い煌めきばかりで、よく目立つオレンジ色のハットはどこにも見当たらない。

「兄貴と一緒だったのか?」
「置いてきて大丈夫かよ、ルフィ」
「そうだわ、助けていただいたからお礼を言いたかったの。お兄様は大丈夫なの?」
「うーん、大丈夫! エースは強ェから」

眉を上げたゾロに続き、ウソップとアリエラも不安そうに船長に目を向けるが、彼はけらりと笑って欄干の上に足をつけしゃがみこんだ。
不思議そうに瞳を揺らしたチョッパーが「あいつ、強ェのか?」と問うと、ルフィは嬉しそうにこっくりと頷く。

「ああ! 昔はメラメラの実を食ってなかったけど、それでもおれは負けてた。一度も勝ったことねェんだ。だからとにかく強ェぞ、エースは!」
「ルフィが一度も!?」
「すげェ!」
「生身の人間にあんたが敵わなかったの!?」
「やっぱ怪物の兄は大怪物だなァ…」

驚愕に目を丸めるナミとチョッパーの隣で呆れや感心まじりに紫煙を吐くサンジにアリエラもうん、と何度も首を縦に振っている。
だって、ルフィよりも強い人間をこれまでに見たことがない。彼は悪魔の実の能力者だとはいえ、ゴムゴムの実はアリエラやスモーカーのように何か特殊なものを生む力を持たず、チョッパーのようにからだの自由を与えられる能力に属するため、ほぼほぼ自分で身につけた武術で戦闘を操っている。
それで東の海で最高金額であり最強の男となり、偉大なる航路に船を浮かべたのだから、ルフィが一度も勝ったことのないエースは言語を絶するほど強いのだろう。

ウソップやチョッパーが、その格好のイメージから野蛮的なことを想像してぶるりとからだを震わせている。

「そ、そんなに強ェのか…ルフィの兄ちゃんは」
「そうさ。おれなんかもう負け負けだった! でも今戦ったらおれが勝つね、あはははッ!」
「それも根拠のねェ話なんだろ?」

腕を組んで自信満々に笑い声を響かせるルフィに、ゾロは眉根を寄せて咎めると同時に一瞬ふわりと熱い風がクルーの肌を撫でた。
この感じは…。
ついさっき、身に受けた熱だ。と誰もがハッとしたところ、船の下からオレンジの炎がぶわっと揺れた。

「お前が誰に勝つって?」
「「あっ!」」
「おおっ」

ルフィが腰掛けている欄干の隣に足をつけるのは、不服そうな笑みを浮かべたエースだった。
みんなの短い叫びと弟の驚いた声に、「よう」と笑みを優しく変えて白い歯を見せた。


TO BE CONTINUED アニメ95話







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