134、仲間の印


Mr.2と遭遇してから早くも2日ほど経った今日。
メリー号はアラバスタ目前の航路をのんびりと走行中だった。凪も気候も安定し、昨日まで少し肌寒かった風が今やあたたかな初夏のようなものに変わり、ふんわりと肌を撫でてすり抜けていく。

こうして奇襲も時化も何もなく平和な航海をたのしんでいる……はずだったが。

「ああ……腹へったあっ」
「おれも、もうだめだァ
「こ、こんなにも腹が減ったのははじめてだ、おれ…」

深刻な食糧不足により一味──主にルフィたち三人組──はすっかり伸びきってしまっている。鬼の形相をしたサンジに「絶対に今日中に釣り上げろよ」と手渡された釣竿もバケツもごろんと甲板に転がっていて、とても釣りができた状態ではない。

こうなったのもルフィのせいだから、なんとかみんなの分の魚を釣り上げてもらいたいところだけれど。おなかがすきすぎて、怒鳴る気力もない。ナミとアリエラは顔を見合わせて、はあ…とため息をこぼした。

そんなこんなでしばらく船を進めていると、船尾のほうで大きな黒い影が揺らいでいるのをまず最初にゾロが気がついた。

「ん? なんだこりゃ……」

ぐうぐう眠っていたゾロの張り巡らせていた警戒の糸になにかが触れたのだ。ぱちりと目を覚まして欄干から海面をのぞいてみたところ、なんの変哲もなかった海面がぐぐぐ…と押し上げられ、巨大な海面の膨らみを作ってからざぱんと大きな水飛沫をあげて“それ”は姿をみせた。

あ…とゾロの唇から動揺の声がおちた。首を持ち上げて目視する。海面から現れた者はそれはそれは長い体長を天に伸ばして、大きな猫目をぱちぱちさせて、片手を持ち上げ招くようにひょいひょいと動かした。この見た目は完全に招き猫なのだけれど、信じられないほどに大きくって、それはメリー号に降り注いでいた陽光が遮断されるほどだ。

普段ならば。この巨大猫型海王類に「また面倒くせェのが…、」と舌打ちでもするのだけれど、今回ばかりはルフィのように目を輝かせてしまう。美味しい美味しくない食べられる食べられない。そんなもの極度の空腹を前に立ちはだかるものでもなく、ゾロは考えるまでもなく刀を抜いた。
その影に気がつき、ルフィたちも大慌てで後尾甲板に飛んでくる。

「うおおおおーーっ!! でけェええェええ!!」
「「いやああああーーーァ!!」」

すぐに目に飛び込んできた正体にルフィはまんまるな瞳にきらりとハイライトを入れて、ウソップとチョッパーは涙目で大絶叫。その叫び声に船内のどよめきはキッチンで片付けをしていたサンジの鼓膜を揺らし、肉を見つけるとすぐに腕まくりをして「逃がすんじゃねェぞ! 確実に仕留めろ!!」と先に声を投げて、後尾甲板にルフィとゾロの隣にならぶ。


「四日ぶりのメシだァァァア!!!」
「メーーーシだぁああぁ!!!」
「どう料理してくれようか、この化け猫が!!」

三人とも必死だ。すぐ近くでは大砲を持ってきたウソップが目の前にするとあまりの大きさに怯み撃沈していて、隣のチョッパーは化け猫とウソップを交互見てあわあわしている。その様子に駆けつけたアリエラは「まあ、」とあんぐり大きく口をあけて見守ることを選んだ。
化け猫も相手が飢えた海賊だと知ると大きく持ち上げた片腕を動かせずに、たらりと汗を浮かべてぱちりとまばたきをする。このまま彼らに攻撃を与えたら食われてしまう。その素振り、気配が獣相手にも伝わったらしい。

「あッ 引いたぞ!」
「おい逃げんなクソネコ!!」
「ルフィ、腕伸ばせ!」
「おう!!」

ズリズリと後退していく巨体にむかっとした三人はより腕に力をこめるのだけど──。

「あ、ビビちゃん」

その三人の後ろに立ちはだかったビビにより捕獲大作戦はあっけらかんと終了するのだった。
何を思ったのか、彼女は手にブラシを持ち男三人を薙ぎ払ったのだ。あまり前に出ちゃ危ないわ、と声をかけようとしたアリエラは、あまりの事態に目をまんまるくして、ぽかんと情けなく口を大きくあけたまま「え?」と小首をかしげた。

いちばん疑問に思うのは殴られたルフィたちだ。その細い腕のどこに筋肉質二人を含む男三人を殴り飛ばせる力があるのだろう。ひゅんと体を取られた三人は、欄干におでこをぶつけてよろけ倒れた。突然襲いかかった衝撃、痛み、そして振り返って瞳に映り込んだ人物に理解と処理が追いつかなくて、目をぱちぱちと開けたり閉じたりしている。
その間に化け猫はすー…と逃げて今広がっているの紺碧だけだ。

「……な、なにすんだよ!」
「な…、何で? ビビちゃん」
「………」
「あの子は食べちゃダメなの! アラバスタではウミネコは神聖な生き物なんだから!」
「はやく言えよ!!」

今、お部屋から出てきてウミネコの存在に気がついたビビは幼き頃から信じている象徴を狩ろうとしているルフィたちを、考える前に本能で阻止したのだろう。ようやくお腹いっぱい食べられるとワクワクしていたルフィは、つまらなさそうに表情を顰めている。

「海にはいろんな生き物がいるんだなァ
「そうよ、トニーくん。今のねこちゃんよりももっともっと大きな海王類もいるのよ」
「えええーーっ!? あれよりも大きな生き物が海にいるのか!?」
「ええ。もうたっくさんいるわよ」
「えええ…っ、」
「ふ、フン……そんなもんでビビるとはまだまだだな、チョッパーも。おれはでけェ海王類をシメたことあるんだぜ!」
「えええーーッ!? ウソップすげェッ!!」
「ウソップったら」

上半身を甲板につけておしりを天に突き出すポーズでウソップは心底震えあがっている。そのポーズからはとてもその話は信じられないのに、チョッパーは疑うこともなく憧憬の瞳を彼に向けてうっとりした。
海賊ってすげェなあ! ウソップは勇敢だなあ! すげェェ!!
そんな無垢な姿にアリエラも大の字に寝そべったままのゾロも、ゆるやかに口角を持ち上げた。

「うう……ッ、く、食いもんが逃げだああーー、」
「だ、だけど安心してルフィさん。もうすぐおなかいっぱい食べれるから」
「ホントか!?」
「ほんと。約束するわ」
「にししっ、おう! 約束だぞ!」

魅力的なことばに惹かれてルフィはすぐに涙を拭き、立ち上がった。空腹ばかりは今船内の誰もが感じているもので、“おなかいっぱい”ということばに釣られてこくりと喉を鳴らす。
彼らと同じように腹の虫を泣かせ、「おなかすいたなあ、」と眉を下げるアリエラを捉え、サンジは柔らかく微笑んだ。

「アリエラちゃん、お茶をお淹れいたしましょうか?」
「ありがとうサンジくん。でも今は大丈夫よ」
「そっか。またほしいとき遠慮なく言ってね。お茶はまだまだあるんだ」
「うん」

真新しいたばこから紫煙を揺らしながらやわらかく言葉をかけるサンジに、アリエラもなんだかほっとしてふんわり笑っていると、姿のなかったナミの足音が中央デッキからこちらに響いてくる。階段をのぼりきり、全員の姿を確認すると永久指針に目を落とした。

「風と気候がずいぶんと安定してきたわ」
「ええ。アラバスタの気候海域に入ったの。ウミネコが現れたのもその証拠」
「……後ろに見える“アレら”もアラバスタが近い証拠だろ」

ニヤリと愉快げに笑みを描いたゾロの親指がさす方向に注意を向けると、メリー号の前方でまばらに浮かぶ船が何隻も確認できた。それらの船全てにバロックワークス社のマークが掲げられていて、ビビの背中にゾワリと汗が流れる。

「船があんなに!」
「いつの間にいたのかしら、全く気がつかなかったわ」
「ぜぜぜ、全部バロックワークスのマークが入ってんじゃねェか!」
「社員たちが集まりはじめているんだわ。あれはおそらくビリオンズ。オフィサーエージェントの部下たちよ」
「敵は200人は堅いってわけだ」
「それじゃあ、番号がない人ばかりなの?」

剣呑に眉根を寄せたナミの隣できょとんと首を傾げるアリエラにビビはゆっくり頷く。彼らが集まりはじめているということは、そろそろ大きな何かが動き出すころだ。おそらく、オフィサーエージェントにも集合の手紙が届いているだろう。ギリギリの上陸になりそうで、ビビの胸は焦燥感に包まれてゆく。

「番号を持ってはいないけど、でも油断はできない。精鋭は200人…それもみんなベテランだからウイスキーピークの賞金稼ぎとはワケが違うわ」
「でしょうね。わざわざアラバスタに集めるくらいだもの」
「ひ…っ、そんな強敵がクロコダイル以外にも…!?」

喉を鳴らしたウソップは顔を真っ青に染めて立ち上がる。持ってきていた大砲の胴体をがこんっと動かして、尻尾のようにおしりから長く伸びているロープにまたがって、ルフィたち三強に縋るような眼差しを向ける。

「今のうちに攻撃するか!? 準備はできてるぜ! ───……早くやっちまえよォォ!!」
「いっぺんにぶっ飛ばしたほうが速ェって! んでもまずはメシが先だ!」
「バァカ。気にすんなよ、ウソップ。ありゃただの雑魚だ」
「そうさ。本物の標的を見失っちゃ終わりだぜ。こっちは9人しかいねェんだ」

穏やかな声とともに吐き出される紫煙は澄んだ空に立ち昇っていく。ウソップのまんまるな瞳はそれを追い、確かに。と唇を噤んだ。こっちには最強三強がいても、敵はあの数だ。ここで戦闘を仕掛ければメリー号が傷つくのは必須だろう。それは避けたいし、サンジのいう通りに人数も少ないから、ここでは上陸し国民の隠れ蓑になるのが利巧だろう。


あと一時間もしないうちにアラバスタに着くことが予想されると、上陸準備のためにクルーは一旦中央デッキに集合した。停泊用意の前にしなくてはならないことがある。それは、先日に遭遇したマネマネの実対策だ。
通りすがりのオネエだと思っていたバレリーナは実はバロックワークスの社員で、おまけにその人物に姿を変えられるマネマネの実にサンジとビビ以外は容姿を奪われたのだ。このまま何も対策もしないで前線に近づくということは、即ち死を意味する。

怪我がつきものな職種のために、海賊船には大量の包帯が積まれている。メリー号も引けをとらず立派な海賊船なために、包帯は倉庫に大量に積んであった。それをゾロが箱のまま取ってきて中央にぽんと置いた。包帯で一体何をするのだろう? 全員が不思議そうに剣士を見上げると、彼は不敵な笑みを浮かべてとある対策を仲間全員に伝えた。



「とにかくしっかり締めとけ。今回の敵は謎が多すぎる」
「なるほど」
「これがあれば仲間を疑わなくてすむってわけね」
「すごいわ、あのゾロくんがこんなことを思いつくなんて」
「どういう意味だ。アリエラ」

階段に腰を下ろしてバンダナを結ぶ要領で器用に歯を使い、ゾロは前腕に巻いた包帯をぎゅっと強く結んでいる。ゾロの持ちかけた作戦にみんな大賛成で、甲板には大量の包帯があちこち散乱していた。

ビビの包帯をナミが結び、そのナミのものをアリエラが結びながら怖い顔した剣士にぽろりとこぼしたが、彼は耳聡くぎろりとした目を向けられる。
頬をつねられる光景を思い浮かべると、ぞわりと背中に嫌な汗が流れて「うふふ」と誤魔化すと舌打ちのような音がアリエラの鼓膜をゆさぶった。先程、同じようなセリフをルフィとウソップとサンジに言われていたから、またもやにむかっとしたのだろう。

「あんまりアリエラいじめないでよ、ゾロ」
「あァ? いじめてはねェだろ」
「この子、何か思い出して真っ青になってたわよ。アリエラ、私がやってあげる」
「ありがとう、ナミ」
「ゾロに何か言われたら私に言うのよ。ぶん殴ってあげるから」
「わあっありがとうナミお姉様
「うふふ」

頼もしいナミのことばにアリエラは目を輝かせている。その様子にビビはやわらかく微笑んで、不安が吹っ飛ぶような明るい雰囲気にほっとため息をこぼした。

「しっかり締めとけよ、チョッパー。あいつはお前の毛並みすらも再現したんだ」
「うん、!」
「そんなに似ちまうのか? そのマネマネの実っつーのは」
「いやもう似るとかそんなもんじゃねェよ、まんまだ」
「おれが二人もいたの面白かったなあ! あひゃひゃ」

ウソップの声に唯一マネマネの実の力を目の当たりにしていなかったサンジはマストに寄りかかって包帯を巻きながらウソップに問うと、焦りに濡れた返事にふぅん…。と頷く。船長は相変わらず深刻さを理解していなく、思い出してはけらりと笑っているからチョッパーに「動くなよルフィ」と何度か咎められている。

「いやあ、しかし惜しいな。お前も見るべきだったぜ、サンジ。おれたちなんか肩組んで踊ったほどだ」
「おれは男のバレリーナには興味ねェ」
「それがよ、──あ、」

一切興味のなさそうにカルーの包帯を巻いてあげているサンジは、紫煙をふわりと空気にこぼす。その様子にサンジが絶対喜ぶ“あのこと”を思い出したが、彼の世界一推し ナミさんの幸せパンチのだけではなく、彼の唯一のレディ アリエラの幸せパンチをも見てしまったからむぐっと口を噤んだ。
こんなこと言ったら、事故だとはいえアリエラのを見ちまったと言ったら、蹴り殺されるかもしれない。

「あ? 何だよ」
「い、いや…なんでも」

続きをいつまで経っても言わないからサンジが問うと、ウソップは目を泳がせてぶんぶん首をふる。その仕草に不審を抱いたサンジは瞳を細めたが、追求することはない。ほっと胸を撫で下ろしたのだが──。

「ナミとアリエラの裸もそっくしだったな、ウソップ。あいつ男なのになあ」
「うぎゃあああッ! る、ルフィ、ルフィ、」
「ナミさんと……アリエラちゃんの裸…?」
「クエッ!!」

空気を読めない、いや読んだところでどうしてサンジにそれを言っちゃいけないのか理解していない、知らないルフィはおなかを押さえながらけらけら笑っている。
蘇った記憶に「もーーー! 忘れてよルフィくん!!!」と叫ぶアリエラに、つまり、察しがついてサンジは鬼の形相をカルーに向けた。あまりの怖さに毛を逆立てて主人の元に飛んでいくと、ビビは困ったように眉を下げて笑った。

「ああ、一瞬で女みてェな体になるんだ」
「ってことはだ…。つまりお前らはうちの美女二人のか、かっ、からだを見たってことか!!??」
「おう、見たぞ!」
「ルフィお前空気読めよマジで!!」
「ひっ、さ、サンジが怖ェ…っ」
「ゆるさん…っ!! 許さん…!! 許さねェェェェエエ!!! うちの大切な美女様を! ナミさんを! アリエラちゃんを! クッソォォおれも見たかった……!! いや違ェ! 野郎どもにそれを見せつけたあいつを絶対に許さん!! 見たてめェらを絶対に許さん!! うおおおぉぉおおぉお!!!」
「サンジが燃えてるぞ!」
「こ、こえェェーーっ!」
「ひいいいっ、おれたちは事故だ事故!!」
「よおしッ、決めた! そのクソバレリーナはおれが見つけて蹴っ飛ばす!! だから安心してくれ、ナミさんアリエラちゃん!」
「……説得力ないわよ、あんた」
「せっかく忘れかけていたのに……ルフィくんったらどうして覚えているのよ」

サンジの下心を知っているからほとほと呆れるけれど、でもまあアリエラのからだは本当に誰にも見せたくないでしょうから安心なのは安心ね。と考えているナミの肩をアリエラはシクシク涙で濡らしている。

「残念だったなァ、コック」
「てっ、てめェも見たのかゾロ…!! うっ……クソッ、……ッ許せねェ! やっぱりあいつ許せねェ!!」

ルフィたち三人はまだ子どもっぽいとこあるし、ウソップ以外は裸を見たところでだから、サンジの怒りもまだ最小限に済んだがゾロとなれば話は別だ。前まではルフィとチョッパー側だったのに、いやアリエラ以外の全女性のからだには今でも一切興味がないのだろうけど、そこにアリエラが含まれていたからサンジの怒りもまたふつふつと昇ってくる。

だけど、このまま彼に噛み付いたらアリエラに気付かれてしまいそうだからぐっと唇を噛んで耐え、怒りを手のひらの中で押しつぶす。ゾロは恋のライバルだからだろう。今まで感じたことのないほどの煮えたぎるような激昂が一瞬腹の底で蟠を巻いた。はあ、と紫煙と一緒に嘆声を吐くと、それにはあつい熱がこもっていた。


一瞬、船内に怒りの激しいほのおが生まれたがややあって消え去り、今度船を包み込むのは懸念だ。

「なあ…。おれはなにをすればいいんだ?」

ちょこりと可愛らしい音を立てて歩くチョッパーの小さな口からは、不安に塗りたくられたか細い疑問がこぼされた。未知なる敵、特にチョッパーはまだ海賊になったばかりなのだから恐怖を抱くのは必然だろう。近くにいたウソップが腕を組み、チョッパーに向き直る。

「できることをすればいい。それ以上はするな! 勝てない敵は逃げてよーし!」
「……お前それ、自分に言ってねェか?」
「おれにできることか……わかった!」

自分を言い聞かせているように捉えてサンジはじっとりと片目をウソップに流したが、それは尤もな意見だったのとチョッパーも目を輝かせてこくりと頷いたからそれ以上は何も言わなかった。

そうしている間にゆらゆら走り進んでいたメリー号はいよいよアラバスタの浮かぶサンディ島付近まで到達し、踊る心を飼い慣らしていたルフィが「あ!」と短く大きな声を弾けさせた。

「島が見えたぞーーー!!」
「わあ、アラバスタにきたのね!」

前方に巨大に広がる広大なアラバスタはその土地のほとんどを砂漠で占めている島だった。けれど、中央に見える首都には立派な宮殿が伺えて、その他にもあちこちに白を基調としている建物が並んでいる。人口は多いと聞くから他にも栄えている町はたくさんあるのだろう。
久しぶりに目視した故郷にビビの心は喜びを覚えた。けれど、次に募るのは大きな不安。ここから見ると建物の崩壊も目立たず、出港した日となんの変わりもなく見えるけれど、蓋を開けてみたらどうだろう──。
到着前にいらぬことまで考えてしまいそうだったから、ビビは思考をストップさせて唇を開いた。

「ナノハナという町に停めましょ。船を隠さなきゃ」
「そうね。大きな国だし王女を乗せてるし目立っちゃアウトよね」

ここからは土地に詳しいビビに引率を頼むことにして、接近してきたアラバスタを前にナミたちは全員円陣を作って船長に双眸を向けた。
国に着いたらやらなくてはならないことがたくさんある。彼女の苦しみを救い、心のそこからの笑顔を見たいとここにいる誰もが願っている。謎に包まれた挙句に七武海に君臨する男と対峙することになる。
仲間の視線とその意図に気づいたルフィは、にかっと太陽のような笑みを浮かべて胸の前にすっと包帯で巻いた左腕をまっすぐに伸ばした。

「よーし、とにかくこれから何が起こっても左腕のコレが仲間の印だ!!」

船長の力強い言葉を受け、みんなも笑顔を浮かべて左腕を突き出しグーの手を9個並べる。この拳の中にあらゆる想いが詰まっていて、ビビの胸をすうっとやわらかく溶かしていく。
この人たちがいれば、アラバスタは再び太陽を望める。そう、ビビは心の底から思った。

「じゃあ上陸するぞ、メシ屋へ!! あとアラバスタ」
「「ついでかよ!!」」

まさか、今のルフィの意気込みは全てごはんに対するものだったのか。取ってつけたような本当の目的に総勢のつっこみが砂風が吹く中に響き渡った。


TO BE CONTINUED 原作157話-92話



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