君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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「困ったわ…」

「?どうした、ティア」

「それが…今もっている額では足りないのよ…」

「あ…」


それもそのはずだ。俺は軟禁されていたから持っていないし、ティアも最低限度の額しかもっていないのだろう。魔物を倒して獲たガルドもほんのわずか。いくら一番近いエンゲーブまでといっても二人分だとそれなりにかかるんだろうな。一人で色々考えていると隣にいたティアが一瞬寂しげな顔をした後首に提げていたペンダントをはずそうとしているのを見て、はっと思い出しその手を止めた。


「ど、どうしたのルーク」

「…それをどうする気だ?」

「…仕方ないわ。確かにあなたの言うとおり、体を休めないと私たちは途中で力尽きてしまう。歩いていく体力もないし…馬車に乗らなければ…」

「でもそれは大切なものなんだろう?」


そういうとティアは俯き、ペンダントをぎゅっと握り締めた。その様子を見ながら俺は右手の人差し指につけていた指輪をとった。金のシンプルなものだが、二人分の馬車代としては十分だと思う。


「すみません、ガルドが足りそうに無いのでこれでも良いでしょうか」

「ん?おお、こいつはたいした代物だ!これだけでセントビナーまでは軽く行けるぞ。釣りを出すことはできないが、本当にいいのか?」

「ええ、かまいません」

「よしきた。それじゃ早速のんな!」


馭者は思わぬ収穫に満面の笑みで乗車を促した。


「さあティア行こう」

「ちょ、ちょっと待ってルーク!あれは…」

「別に…装飾品の一つだよ。一応貴族だからな。特に思い入れもないし、ティアが気にしなくてもいい」


そう言いながら馬車のあるほうへ歩き出す。ティアはいまいち納得していない様子だったが、それでも俺の後についてきた。

辻馬車に揺られながら一晩を過ごした。よほど疲れていたんだろう。馬車の揺れをものともせずに眠ることができた。ふと目を覚まし窓の外を覗き見ると明らんだ空が見えた。ティアはまだ眠っていた。いつもは大人びている彼女も、寝顔は年相応だった。着ていた上着をティアにそっとかけて、もう一度窓の外を眺めた。青い空、緑の草原、広い平野。地球とは違う世界。こうも改めてみるのは初めてだった。これがオールドランド。俺の生きる世界。…彼女が、守りたい世界。ふと彼女の顔を思い出し、横で眠るティアの顔をもう一度見た。どこか似ている顔立ちに懐かしさを覚えながら、もう一眠りすることにした。


次に目を覚ましたら、もう日は高く昇っていた。


「おはようルーク。よく眠っていたわ。よほど疲れていたのね」

「ああ、おはようティア。そうだな…一度は起きたけどどうにも眠くて…」


つい二度寝をしてしまった、という言葉は突然起きた大きな音にかき消された。


「なに?!」

ティアとともに窓から外を覗き見るとその瞬間一台の馬車がものすごい勢いで自分たちの乗る馬車を通り過ぎていった。あまりの勢いに呆気をとられていると巨大な陸上装甲艦が見えた。砲台の照準は通り過ぎた馬車だろうが、この状態でいれば確実に巻き添えを食らう。

「あれは…」

「軍が盗賊を追ってるんだ!ほら、あんたたちと勘違いした漆黒の翼だよ!」


グラフィックでも何度も見たその装甲艦は間近で見るとあ、当たり前だが非常に大きく、荘厳だった。


『そこの辻馬車!道を空けなさい!巻き込まれますよ!』


装甲艦から聞こえたアナウンスに馭者は慌てて馬車を逸らして急停止した。その横を轟音を立てながら装甲艦――タルタロスは走り去っていった。


それから数分もたたないうちにどぉん!と大きな爆発音が聞こえた。きっと橋を爆破させたんだろう。


「驚いた!ありゃあマルクト軍の最新型陸上装甲艦タルタロスだよ!」


馭者がいささか興奮した声で言った。


「…でもどうしてこんなところまで…盗賊を追いかけているのかしら」

「さあなァ。まあ最近じゃキムラスカのやつらが戦争しかけてくるって噂が絶えないからな。警備が厳重になっているんだろうよ」


馭者はそういいながらもう一度馬車を走らせた。
戦争か…。
耳慣れない言葉が少し現実味を帯びた気がした。





+++++++
今更ですが、ルークの服装は公式とはまるっきり違う予定です。へそ出してないです。髪形も違います。もうここまでくると完璧オリキャラだなあ…いつか我が家のルークを載せるつもりです。クラスは諸事情から譜術剣士です。この理由は物語の中で明らかにする予定です。


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