君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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「さあ着いたぞ、エンゲーブだ。キムラスカに向かうならかうならここから南にあるカイツールの検問所へ向かうといい。気をつけてな」

「ええ、どうもありがとうございました」


馬車から降り見渡せば目に入るのは広大な田畑、大きな風車。いかにも農村という風景が広がっていた。ぶうぶうと鳴く声の方を目を向ければ、うさぎとぶたを組み合わせたような丸々肥えたブウサギがいた。実際に見るのは初めてだったので、妙な感動を覚えた。つぶらな瞳がなんともかわいらしい。ちょっと触ってみたいな…と考えてそっと近づこうとすると「ルーク?」とティアの声にはっとして振り返る。


「どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない。なんだ?」


苦笑いしながら話をそらす。


「検問所って…旅券がないと通れないわよね」

「ああ…俺の名を言っても顔が知れ渡ってるわけではないから門前払いを食らうことが目に見えているしな…」

「う〜ん、困ったわ…」


一人悩んでいるティアには申し訳ないが、最終的に通れることを知っている俺はこのことに関しては結構楽観的に考えていた。


「とりあえず出発の準備と今日の宿の確保をしよう。カイツールまでまだまだかかるだろうし、ここでじっと考えていてもしょうがない」

そういうとティアも納得してくれたようで、俺が食料ティアが宿の手配をしようということに決まった。
ティアと分かれて広場のほうへ向かう。そこでは市場が開かれており、活気あふれる声や人であふれていた。色々と目移りしながら必要なものを買っていると山のように積まれたリンゴを見つけた。その中から自分がおいしそうだと思ったものを二つ選び、店主に支払いをしようとしたとき「ルーク」とティアの声が聞こえたので、声のほうに振り向いた。

「ああ、もう宿の予約終わったのか?」

「ええ。…でもなにかあったみたいなの。宿の近くに人だかりができてるのよ」

「人だかり?なんだろう、ちょっと聞いてみようか。すみません、これ二ついただけますか?」

「おお、毎度あり!兄ちゃん別嬪な彼女さんだなぁ!よし一個おまけしてやるよ!」

「あ、ありがとございます」

ははは、と笑いながら袋に入ったリンゴを受け取る。隣のティアの耳は真っ赤だった。







宿は広場のすぐ隣にあった。その前には村の男たちで人だかりが出来ており、みな一様に渋い顔をしていた。


「なにがあったのかしら」

「結構深刻そうだな」


口ではそう言いながら、実情はきっちり知っている。農業で家計を支えている彼らにとって食料は何よりも大切なものだろう。


「話を聞いている限りだと食料泥棒がでたみたいだな」

「ええ、そうみたいね」

宿の前で話し合っているので入れるに入れず、結局立ち聞きのような形で彼らが離れるのを待つことにした。


「北の方で火事があってからずっと続いてるな。まさかあの辺に脱走兵でも隠れてて、食うに困って……」

「いや、漆黒の翼の仕業ってことも考えられるぞ」

「漆黒の翼って…」


ティアがふと呟いた言葉にそこにいる全員がぐるりとこっちを向いた。


「姉ちゃん、漆黒の翼についてなにか知ってるのか?」

「え、いえその…」


俺は急に話を振られて焦っているティアをかばうように立ち口を開いた。


「私たちはローテルロー橋付近でマルクト軍が漆黒の翼を追っているのを見ました。彼らは橋を爆破してそのまま逃げてしまいましたから、仮に漆黒の翼が犯人だとしても皆さんで捕まえるのは難しいと思います。失礼ながら、お話を聞いている限りではそれは断続的に起きているようですね。ここは役人に伝えたほうが早期解決になるのではないでしょうか」


そうすらすらと話すと皆一様に唖然とした表情をしていた。…しまった、怒らせてしまっただろうか。


「…部外者が軽々しく口を出して申し訳ありません」


内心汗をかきながらそういうと、「いやいや、そういうわけじゃないんだ!」という言葉が返ってきた。


「…この村では食料が何よりも価値があるものだ。それを何度も盗まれて、いらいらしていて頭に血が上ってたんだな…」

「ああ、そうだなァ。何度も起こってるのにそれが防げなかったなら兄ちゃんの言うとおり、とっとと役人に頼んだほうがよかったのかもな…」

「…大切なものが何度も盗まれれば皆怒りもしますし、その犯人を自分たちの力で捕まえたいと思うでしょう。それが普通だと思いますよ。…私は当事者ではないのでこういうことが言えるのかもしれません。なんにせよ、早く犯人が見つかることを祈っています」

「それでもありがとうな兄ちゃん。お、そういえばローズさんちに偉い軍人さんがきてるんじゃなかったか?」


一人がそういうとそういえばそうだったような…と声が上がった。とりあえずローズさんに伝えに行こう、と話はまとまった様で男たちはその場で散り散りになった。


「ルーク…あなたってすごいわね」


一息ついた所でティアが声をかけてきた。


「なにが?」

「話を聞いてるだけでそこまで分析していたなんて…」


ティアは驚きに満ちた声でそう言ったが、俺は素直に喜べなかった。別に分析していたわけじゃない。この犯人も知っているし、この後起こることも知っている。結果がわかっているからあんなに軽々しく言えたんだ。

「…そうでもないよ。さ、宿に入ろう。疲れただろ?」


そう行って話を打ち切った。ティアもそれについて深く追求するつもりもないようで、そうねと言いながら宿に入った。


「分析…か」


これから起こることを知っているから、それに伴ってでてくる危険を回避するために物事を分析する。それはなんのためだろうか。世のため人のため自分のため?それとも…―――のため?そう一人自問自答しても答えは出ない。「ルーク?」ティアが呼んでいる。


「今行くよ」


そう言いながらまだ問答を続けている自分の心に蓋をした。



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自分でも何かいてるのかよくわからなくなってきました()


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