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「っく…!」
がきぃんと大きな音が、暗く静かな渓谷に響き渡る。度々出る魔物にルークたちは苦戦していた。特に実践をそれほど積んでいないルークは気配に疎く、神経を集中させていると急襲に耐えられず、させていないとそれはそれで魔物に見つかりやすくなってしまい、二人とも随分疲弊していた。
「…すまないな」
「え?」
「俺がいることで君にはだいぶ迷惑をかけている。本当に…申し訳ない」
戦闘が終わり、一休みしているところでルークはティアに頭を下げた。大体魔物に見つかって戦闘になってしまう原因はほとんどルークのせいで、できるだけ避けながら行こう、と言ったのも自分。いくら戦闘に慣れていない、実践を積んでないとはいえ、確実にティアの足を引っ張っていることは自分でも理解していた。ルークはそれが気がかりでしょうがなかった。
「そんなことないわ。だいたい私の軽率な行動であなたをここに連れてきてしまったんだもの…あなたは必ず無事に家まで送り届けるわ。それが償いになるとは思っていないけれど…」
「いや、そんなことはない。自覚しているだけでも十分だと俺は思う。それに君はまだ若い。そこから学ぶものもあるんじゃないのか」
そう言うと、ティアはきょとんとしたかと思うとフフッと笑い出した。怪訝な顔で彼女を見返すと、ごめんなさいと軽く謝りつつもまだ笑っていた。
「おかしな人ね…あなただってまだ若いじゃない」
そう言われてみると。そうだった。いくら転生していたとはいえ、身体的には17歳。十分若い。精神的にはもう30をすぎているので、そのことをうっかり忘れてしまう。そうだな、とティアに返しながら今更だがお互いに自己紹介をしていないことに気がついた。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな」
「ああ、そういえばそうね。ティア・グランツよ。神託の盾騎士団に所属しているわ」
「ルーク・フォン・ファブレだ。よろしく頼む」
そう言ってお互いに握手をする。なんだか妙に照れくさいい気持ちになったが、相手も同じようで少し顔が赤くなっていた。その様子を見て微笑ましく思いながら、手をつないだまま「では、行こうか」と言って歩き出した。
周りに注意しながら歩いていると、わずかな明かりが見えた。
「出口よ」
「…ようやくか」
ゲームだと数分もかからないので完全に舐めていた…現実はやはり厳しいな…
そう思いながら額の汗を拭う。自分の服を見直してみると、泥や草で汚れていた。汗もずいぶんかいたから、多分一度洗わないととまずい。でも予備の服があるわけでもない。どうしたものか、と一人で悩んでいると、草むらをがさがさとかき分ける音がした。
「誰か来るわ」
来る影は魔物のものではなく人のものだった。来る人物が誰だかは知っているが、万が一の場合に備えて武器を構え、影に向かって走り出す。
「うわっ」
影は悲鳴を出して歩みを止めた。原作通りの展開にホッとしつつ、影に歩み寄る。「ま、まさか漆黒の翼か?!」という言葉に「いいえ違います」と返すと相手は俺たちが二人組であることを確認して胸をなでおろした。
「驚かせてしまったようですみません。我々は迷ってここへたどり着いたのですが…あなたは?」
「俺は辻馬車の馭者だよ。この近くで馬車の車輪がいかれちまってね。水瓶が倒れて飲み水がなくなったんで、ここまで汲みに来たのさ」
そう言いながら手にもったバケツを見せる男。ティアは馬車と聞いて、顔を明るくさせた。
「その馬車は首都へも行きますか?」
「ああ、もちろんだ。終点は首都だよ」
「ルーク、乗せてもらいましょう。私たち土地勘がないので、お願いできますか?」
「かまわないが…一人1万2千ガルドになる。持ち合わせはあるのかい?」
「…なかなかの値段だな…」
1万2千となると、電車で例えると東京から新大阪くらいまでだったはず。中々遠い、とここでもまた実感した。だが…
「首都、とはどこでしょうか」
「え?」
ティアが驚いた表情で俺を見る。もともと知っていたのもあるが、地図でも既に大体の地形を確認済みだ。馭者は何を当たり前のことを、というような表情をしつつも「それはもちろんマルクト帝国の首都、偉大なピオニー九世陛下のおわすグランコクマさ」と誇らしげに答えた。ティアの表情は暗くなっていった。
「ど、どうしましょう…!」
「…グランコクマに行くのは確かにまずいが…ちょっと待ってくれ。
すみません、俺たち少々用事があってバチカルに向かっているんです。どういけばいいでしょうか」
「そうなのか。キムラスカへ行くならローテルロー橋を渡らずに、街道を南へ下って行けばいいぞ]
だいぶ歩くけどな、と付け加えた声を聞きながら、ティアに話しかける。
「俺たちは戦闘で思った以上に疲弊している。グミや食料もそんなにないし、一度補給しないとまずい。一度、ここに近い町に向かって体を休めたほうがいい」
そう言うと納得してくれたのか、ティアは軽く頷き馭者に「では一番近い町までお願いできますか?」と早速交渉を始めた。その姿を見ながら、ひっそりため息をつく。
嘘ではない。体が内から悲鳴を上げている。足も、今はほとんど気力で立っているようなものだ。でも、でも。ここでこのままキムラスカへ帰れば――――。そう思ってしまう。でもその考えもすぐに打ち消された。どうせここで原作をねじ曲げても、ヴァンは必ず自分の計画を実行する。そういう男だ、あれは。
一度空を見上げた。夜空に星があふれるほど輝いている。それが俺には眩しくて、身を閉じて無理やり暗くした。
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だいぶ長くなった…orz
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