君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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げほ、ごほごほ、はっくしゅん!


「あーもうこれは完璧あれだな…」



ピピピと鳴った体温計を見ながら私は深い溜め息をついた。



今週の始め辺りから咳をするようになり、ひどい頭痛に悩まされ、週末の今日熱を計れば38度。これを風邪と呼ばずになんと呼ぶ。病院へ行こうにも、身体が重くて動けない。でもインフルエンザだったら困るからいかなくちゃまずい。邪魔をするようで申し訳ないが、仕事をしているであろう親友に電話した。










「インフルエンザではありません。普通の風邪ですね。2、3日安静にしていれば治りますよー」




お薬処方しておきますので、忘れずに飲んでくださいね〜というお決まりの言葉にはーいと軽く返事をして診察室から出る。



「どうだった?」


「ただの風邪だって。安静にしていればすぐ治るってさ」



病院まで連れてきてくれた柚布子にありがとうと礼をいいながら、車へ向かう。


「あーでもどうしよう」


「何が?」


「吉田さんにうつすかもしれないし、治るまでどうしようかなってね」



曲がりにもプロのスポーツ選手の彼に風邪をうつすことなんて絶対できない。自分の体ごと、治るまでどこかに隔離させないと。



「んーじゃあ私ん家来る?どうせ一人暮らしだし」


「でも柚布子にうつすのもまずいし安めのビジネスホテルにでも泊まるわ」


「…それじゃ治るもんも治らないわよ」


「大丈夫だいじょーぶ。薬飲んで寝ればすぐ治るって!」



カラカラ笑う私を送ってくれたは最後まで心配してくれて仕事へ戻っていった。…いい友人を持ったもんだ。朝昼夜一回ずつメールするように言われたのは母さんみたいだけど。


家に戻ったらまず換気をしながら掃除を始めた。そしてとりあえず今日の夕御飯を作っておくことにした。いつも以上に入念に手を洗い、作業に取りかかる。お肉が食べたいと言っていたからチキンのバジルソースがけを作ろうと思ったけど、まだ昼すぎだ。食べる頃には確実に冷めてしまう。だから温められるようにチキンのトマト煮にした。コトコトと煮込んでいる間に付け合わせを作って冷蔵庫にしまう。


「まあこんなもんかな」



更に弱火でコトコトコトコト。テーブルの上に皿を置き、夕飯の仕度を整え、コンロの火を消した。そして押し入れからトランクを取りだし、3日分の着替えを入れる。2日で治したいところだけど念のため。そして吉田さんに手紙を書く。


「えー…風邪を引いたので…」


しばらくホテルに籠って治します、と書いてふと思う。これ逆に心配させないか?あの人が心配してくれるのかは分からないけど、普通この文面見たら心配する。そう考え、書き途中の手紙をぐしゃりと丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。



「…あ、じゃあオーソドックスに」



さらさらとペンを進め、書き上げた一枚。



ジーノさんへ
急に出張に行くことになりました。
二三日で帰ってきますが、私がいなくても偏食等はせず、三食きっちり食べてくださいね。
鍋にチキンのトマト煮を作っておいたので、暖めて食べてください。冷蔵庫にサラダとデザートもあります。


羽村佳奈




…可愛さの欠片もないな。むしろ母親が子供宛に書いたように見える。まあいいやと紙を畳み、リビングの机の上に置いておく。
薬を飲んで少ししたあと、少し楽になった身体とトランクを連れて家を出た。




□■□■□■




いつもの練習を終えて家路に着く。今日の夕食は何だろうか、と考えながら車を走らせていると、ふと佳奈が甘いものが食べたいと漏らしていたことを思いだし、馴染みのパティスリーに足をのばした。


「ありがとうございました」



店員の声を背中に店を出た。手に持った箱の中にはフルーツのタルトとレアチーズケーキ。佳奈が生クリームを使ったケーキが苦手なことをジーノは知っていた。


「(佳奈と食後に食べよう)」



佳奈は喜ぶだろうか。心なしか軽くなる足取り、早くなる鼓動。この感覚は何だろうか、と疑問に思いつつも、早く家に帰りたいという気持ちが強く、車の速度を少し早めた。





「…あれ?」


ドアを開けようとすると、鍵がかかっていることに気づいた。どこかに買い物にでも行っているのかも知れない。がちゃりと鍵をあけ、家に入る。ただいま、と決まり文句を言っても帰ってくる声はない。それに少し寂しさを感じつつも、暗い部屋に明かりを灯す。すると机の上に一通の手紙が置いてあった。ジーノさんへ、と書かれたこの文字は佳奈の筆跡だ。手紙を取り出して読む。そして読んだ後にもう一度封筒に戻して、キッチンにある鍋を火にかけた。冷蔵庫からサラダとデザートを取りだし、パンを適当に切る。温まったメインディッシュを皿に入れ、一人で食べ始めた。



どれもいつものように美味しかったが、なにかが足りないような気がした。



寂しい、なんて



「…ジーノさん、ちゃんと食べてるかな…っくしゅ!」








風邪引いてるのにホテルに泊まるのは普通に迷惑なのに書いてる間気づいた←


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