君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



   8





悪化したぜこんちくしょい。



ホテルに泊まり始めた初日はちゃんと休んだ。二日目。大丈夫だろうと思って始めた仕事がうっかりはかどってしまい、気付けば夜中の三時を廻っていた。急いで寝たものの、時すでに遅しで翌日起きて熱を測ると昨日よりも上がっている。その上頭も酷く痛い。重い体を引きずりながら、薬や冷えぴた、携帯などを手の届く範囲に置き、もう一度布団に潜り込む。うーん…あと一日で治るかな。そう思いながら目を閉じた。









…なにか聞こえる。なんだろううるさいなあ。この音を止めなくちゃ。手当たりしだいに手を動かし、音源を探す。ああ、携帯か。そう思ってのろのろと体を起こし、再び携帯を探し、手に取る。柚布子だ。



「…もしもーし」

「あんたねぇ!起きてるなら電話でないさいよ!心配したじゃないの!」


柚布子の大きな声に思わず受話器から耳を話した。ふと時計を見ると午後九時。寝始めたのが午前十一時。約半日寝ていたことになる。


「ちょっと佳奈、聞いてんの!?」

「ごめ…寝てた。熱あがちゃって…」


そう言うと柚布子はぴたりと声を出すのをやめた。あ、いかん、嫌な予感がする。


「あんた…まぁさか仕事やって悪化させてんじゃないでしょうねぇ…?」

「…あ、あはははは…」

「…笑ってごまかすなぁー!」


そしてその後十数分柚布子のお説教を受けた。…ごめん柚布子、そんでありがとう。




「今熱どれくらいなの?」

「あ、ちょっと待って…今測る」


もそもそと体温計を取り、脇に当てる。相変わらず頭は痛いけど、寝る前ほどじゃない。ほどなくしてなった体温計を見ると、確かに低くはなっていた。それでも若干高い。


「…まだちょっと熱あるね…」

「まったくしょうがないわね。私今から行くわ。文句は言わせないわよ」


そう言われてしまっては何も言えない。電話を切ったあと、私は柚布子が来るまでおとなしく布団をかぶっていることにした。






ほどなくして現れた柚布子に再びお説教を喰らった。そのあとわざわざ作って持ってきてくれたお粥とむいてくれたりんごを食べた。


「あーおいしい…そういえば昨日殆ど食べてなかったんだよねー」

「あんた…ジーノの体調には気を遣うのに、自分がおろそかになっちゃ意味ないでしょう。そういえば彼にはなんて言ったの?」

「…返す言葉もありまへん…。あーんとね、二三日出張いってきますって手紙書いた」

「まぁよく回るお口…じゃなくて手ね。でももう三日目でしょ。明日帰らないとまずいんじゃないの?」

「…て、そうじゃん!でも治ってないし!あーどうしよどうしよ!」


柚布子に言われて重大なことに気づく。完治していないから家に帰るわけにはいかない。でも帰らないとまずい。あー頭が上手く回らない。あ、そういえばここのホテル明日の朝六時にチェックアウトだよ。明日までに治んなかったらどうしよう。
一人あたふたしている私に、冷静な声で柚布子は言った。


「おとなしく帰れ」

「……ええええ!だから吉田さんにうつしちゃまずいんだって!」

「風邪はそんな簡単にうつらない。予防とかしっかりしてれば。見たところ熱もわりと下がったみたいだし、食欲もあるから確実に回復に向かってるわ。後は家で安静にしてればそれで良し。ジーノにはうがい手洗いを徹底させればどってことないわよ」

「うえええ…でもそれしかないかぁ」


そうそう、女ならとっとと腹決めなさい、と男前な発言をする柚布子に負け、私は明日帰ることにした。…吉田さんには出張先で風邪ひいたことにしとこう。
来てくれた柚布子を失礼ながらもベットから見送り、もう一度布団に潜り込む。そして布団の中で丸一日放っておいたケータイをチェック。見ると柚布子から着信やメールがあわせて五十件ほど来ていた。ああこりゃ心配もするし、怒るよなあ…。そっと再び心の中でお礼と謝罪をつぶやきながら同僚から仕事の進み具合のメールなどもチェックする。十数分でチェックも一段落付き、さあ寝ようと思っている矢先に携帯が光った。メールだ。誰からだろうと見ると、吉田さんからだった。そういえばもう三日もあってないのか。遠征やらなにやらで出かけてて、一週間あわないこともざらにあったし今更寂しいとかない…ないはずなんだけどこのメールが妙に嬉しいのはなんでだ。
早くなった鼓動を抑えながらメールを読む。



20XX/1128 22:38
Frm:吉田さん
Sub:

やぁ。もう寝てしまったかな?
二三日と書いてあって今日帰ってこなかったから
明日帰ってくるんだろうね
何時ごろ帰ってくるんだい?迎えに行くよ




その文を読みながら、頬が緩んでいくのが自分でもわかった。どうしよう、すごい嬉しい。何度も読み返しながらふと気がついた。チェックアウトが六時。ここからマンションまでせいぜい車で二、三十分。…始発で帰ってきたことにすればどうにか…ていうかどこに出張言ってたか聞かれたらどうしよう。そう考えながら、今更嘘をついていることに罪悪感を覚えた。返信を書こうと出した画面はまだ真っ白だ。
何度も書き直し、やっとのことで返信した。



20XX/1128 23:17
To:吉田さん
Sub:Re

寝る前でした〜
明日には帰りますよ^^
でもお迎えは大丈夫です
チェックアウトが早いのでもう寝ますね
おやすみなさい^^



なんてシンプルなメールだ。私絶対女子力無いな。そう考えて少しネガティブな気分になりながら電気を消し、目を瞑った。



携帯 メール



寝息を立て始めて数分後、再び携帯が光ったことに、気づいたのは翌朝だった。






名前変換が皆無なことに書き終わって気づきました(
そして連載を最初から見直すと、一話あたりがずいぶん長くなったなあ…
11.1203 メールの日付こっそり変更。夏にインフルは、そうない(


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