君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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ルーク、起きて!



誰かがしきりに俺の名を呼んでいる。重たい瞼を開けると、ティアがこちらを心配そうに見つめていた。覚醒し切っていない頭に喝を入れ、重たい体を起こす。周りを見れば薄暗い場所に、白い花が咲いている。これがセレニアだろうか。



「ここは…」


「無事みたいで良かった…。まだ場所はわからないの。かなりの勢いで飛ばされたみたいだから…プラネットストームに巻き込まれたかと思ったくらい」


そういいながら、ティアは周りの様子を見つつ立ち上がった。俺もそれに倣う。ここはタタル渓谷で間違いないだろう。ゲームでよく来た場所だ。そう思うのと同時に、とうとう原作が進んでいくんだと実感した。『俺』という存在がある時点で、もう原作は歪み始めた。ならば他を歪ませても、いいのだろうか。失われてしまう命を救うことで、本来ならば起こるはずもないことが起こってしまったら。唇をかみしめ、深刻そうな顔をしていたからか、ティアが心配そうに話しかけてきた。



「ねぇ…本当に大丈夫?無理はしなくていいのよ」


「あっ、いや、済まない。もう大丈夫だ。…ところで君は誰なんだ?さっきヴァン謡将に刃を向けていたようだが…。年が離れている妹がいると聞いていたが、もしかして君か?」


そう言うと彼女の表情が強ばった。黙って肯定しているようなものだ。いくら軍人といえども、まだ16歳だもんな。だけど、彼女はは自分のしたことにがどれだけ重いものか理解していない。ここは心を鬼にしていった。


「…君がヴァン謡将を殺そうが俺には関係ない。だがしかし君は決行する場所を間違えた。俺たちがいた場所はファブレ家。王族とも関わりが強く、キムラスカを代表する貴族だ。いくら君が謡将を殺すためだけに訪れたとしても、周りから見れば、単なる侵入者に過ぎない」


そこまで言うと、自分の行いがどれほど無謀なことであったか気づいたようだ。強ばった顔がみるみる青くなっていく。


「…君も第七音譜術士だったんだな。飛ばされたのは超振動のせいだろう。もう起こってしまったことだ。悔やんでもしょうがない。君にも聞こえるだろう。水音がする。川があるんだろう。沿っていけば海岸線へ出れるはずだ。そこから街道へ出れば辻馬車もある。とりあえず、このけいこくから抜け出さなくてはね。話はそれからだ」


行こう、と手を伸ばすと、わずかに目を見開いた驚いていたが、少しして戸惑いながらも握り返してきた。暖かな感触を確かめるようにグッと握り締め、道を歩き始めた。落ちていた木刀を拾うのを忘れずに。





少し歩くと、草むらから黒い影が飛び出してきた。


「魔物っ…!」


これが魔物…確かサイノッサス。ゲームや本では何度も見たことがあるが、本物はやはり迫力があるな。いままでヴァンから護身術は教わっていたものの、実践するときなんてなかったからある意味これが初の実践になるんだろう。油断禁物。木刀を構えるが、手が若干震えている。ああもう、収まれ!


「来るわっ!」


ティアがナイフを構えながら叫んだ。突進してくるサイノッサスに、ティアが威嚇のためにナイフを投げる。一瞬ひるんだものの、そのままティアへの突進をやめないサイノッサスに、俺は横から突っ込んだ。サイノッサスがふらついているところに、もう一撃与え、間を取る。後ろからティアの譜歌が聞こえた。あと少しだ。サイノッサスの攻撃上手く防御し、譜歌を待つ。サイノッサスの角を、とっさで木刀で防御する。その時ちょうど、サイノッサスの押す力が弱くなった。いまだ!



「双牙斬!」


それが決め手となり、吹っ飛んだサイノッサスは動かなくなった。魔物ひとつ倒すのは、こんなに大変なんだな。ふうと一息付き、ティアの方へ駆け寄る。


「大丈夫だったか?」


「ええ、大丈夫。ありがとう」


フッと笑うティアに笑みを返す。だけど笑ってはいられない。


「ここの魔物は倒せないことはないが…ずいぶん体力を消耗する。できるだけ避けながら行こう」


また手を差し出すと、ティアは頷きながら、今度は躊躇せずに手を握り返した。その様子を少し微笑ましく思いながら、暗い夜道を歩いた。



家路は、まだ遠い。








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