君にありったけの愛を叫びたい | ナノ



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「ルーク、お前の身を案じてのことなのです。わかってくれますね」

「…わかりました母上。無理を言って申し訳ありません」



本で知識を取り入れようと、百聞は一見にしかず。実際に見た方が早いし、わかることもたくさんある。
夫人に城下町に下りたいと頼んだが、案の定駄目だった。確かに夫人にとっては大事な一人息子だし、前科がある分起こりうる危機は回避したいんだろう。それはわかる。わかる…がやはりずっと屋敷の中にいるのもひどく窮屈なのだ。


言うなればここは優しい牢獄。自由を代償に安寧を手に入れることができる。俺は原作と違い、ヴァンから剣技を教わってはいない。多少の護身術は知っているが、多分実際はあまり役にはたたないだろう。護衛も必要になってくる。そうなれば周りの人間にも迷惑がかかる。


「諦めるしかないか…」

「何をですの?」

「!ナ、タリアか…」



後ろから急に聞こえた声に振り返ると、そこにはこの国の姫君がいた。



「それで、何を諦めるしかないのです?」

「…まあそれははいつか話すよ。そういえば昨日ガイから美味しい茶葉もらったんだ。母上からナタリアの好きなケーキも頂いたから庭でお茶しよう。用事があったんだろう?」


さりげなく話題を転換し、ナタリアを庭までエスコートする。ペールが丹精込めて育てている色とりどりの花が綺麗だ。メイドにケーキとお茶の用意をしてもらい、下がってもらう。



「あら、お茶を淹れてもらいませんの?」

「俺は自分で淹れる方が好きなんだ。母上にも褒めてもらったしな」


慣れた手つきでカップにお茶を注ぐ。ケーキをうまく切り分けナタリアに差し出す。


「どうぞ、レディ」


ナタリアは少し顔を赤らめて「ありがとうございます」と呟いて、紅茶を一口飲んだ。だんだんと顔が綻んでいく。こういう瞬間を見るのが一番嬉しいんだよなぁ。


「美味しいですわ…」

「それは良かった。
…で、何の用事だったんだ?」

「いえ…その…約束は思い出していただけました?」


約束。俺ではなくオリジナルルーク、アッシュと交わした約束のことだ。ゲームをプレイした俺はもちろんその約束は知っている。でも…


「悪いなナタリア…まだ思い出せないんだ」


そういうとナタリアは少し寂しそうな顔をした。ずきりと心が痛む。
「早く思い出してくださいね」と気丈に笑う姿は少々痛々しい。
約束を知っていてもそれはナタリアとアッシュのものだ。俺が踏み入っていいものじゃない。


「そういえば昨日ガイがな…」


そして話題はとりとめもない話なる。ナタリアが笑う。俺が笑う。途中でガイがやってくる。そして三人で笑う。屋敷から出れないのはもちろん残念だけど、こんな日々が幸せだった。




しかし月日は止まることなく動いてゆく。





ND2018 レムデカーン・レム 23の日
時はやってきた。


ヴァンに中庭で護身術を教えてもらっているところだった。


トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ


旋律と共に襲ってくる眠気。とうとうこの時が来た。
落ちそうな瞼を必死で開け、崩れそうになる脚を木刀で支える。



「ようやく見つけたわ。……裏切り者ヴァンデスデルカ。覚悟!」

「やはりお前か。ティア!」


ヴァンの攻撃をかわし、ティアが俺の前に来る。


「っこの!」


一応建前としてティアに木刀を向ける。ティアの武器と木刀が交差する。



―――やはりお前は…この道を行くのだな―――


頭に直接ローレライの声が響く。ああそうだ、こうするしか、ないんだ。


―――         ―――


ローレライの言葉を聞き取る前に俺の身体は光に包まれた。
そして意識が途絶えた。







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