聞こえた鼓動が彼の全て(1/1)
「おーい、 名前様ぁ!」
「はーい!」
まだ日が高いお昼時、裏庭に咲く花に水をやっていると縁側からリンの声が聞こえた
「どうしたのリン」
「これ、兄役からハクに渡せって言われたんだけどさ、あいつ今すげぇ機嫌悪いらしいんだよ。名前様代わりに渡してきてくれねぇ?」
「うん、いいよー」
「ありがとう!じゃ、よろしくな!」
ほっとした顔で走り去っていくリンを笑顔で見送り、渡された書類を眺める
機嫌が悪い日のハクは、どうやらみんなにとってはとても怖いらしい
「そんな事、ないんだけどな…」
そう呟いて、私はハクの部屋に向かった
***
「ハク、入るよ」
声をかけてから、襖をそっと開ける
ハクは筆を動かす手を止めて小さく微笑んだ
「名前」
確かに、ハクの機嫌が悪い
本人は隠してるつもりだろうけど、雰囲気とか、ちょっとした動作とか、何となくピリピリしてる
「これね、兄役からハクにって」
「ああ、わざわざありがとう」
封を開けて目を通すハク
ある一文を読んだところで、その視線が一気に柔らかいものに変わった
「何が書いてあったの?」
「いや、名前には関係のない仕事の話だ」
「そっか、じゃあ邪魔しちゃ悪いから私は戻るね」
そう言って浮かせた腰にハクの腕が回り、私は再び床に腰を落ち着ける
「ハク?」
「名前、今日はとても良い日だ」
「?そうだね、良い天気だね」
「ああ、名前、愛してるよ」
「…っ、私も、愛してるよ」
すっかり熱を帯びた頬を両手で隠すとハクが笑う
お客様から私を買い取りたいという話が上がり、それを湯婆婆とハクが全力で阻止
あの書類にはそのお客が遂に私を諦めたという旨がしたためられていたという事を、私は知る由も無かった
聞こえた鼓動が彼の全て
(ほら、彼はこんなにも優しい)
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