花霞に消えていく(1/1)

「帰ってきた!」



リンの声とともに空を見上げると、ハクに連れられた千尋がふわりと地に足をつけた



「ああ、名前!」

「千尋!」



千尋が涙を流しながら駆け寄ってくる



「良かった、元気になったのね…!」

「千尋のお陰よ、ありがとう!」

「ううん、いいの!」

「じゃあ、最後にもうひと頑張りね」

「え?」



千尋の手を引いて油屋の入口まで連れて行く
そこには湯婆婆と12頭の豚が待ち構えていた



「この中からお前のお父さんとお母さんを見つけな
チャンスは1回だ、ぴたりと当てられたらお前達は自由だよ」



千尋は1頭ずつ豚を見つめた後、困惑した表情を浮かべる
私は思わず息を飲んで、千尋の言葉を待った



「…おばあちゃん駄目、ここにはお父さんもお母さんもいないもん」

「いない?!それがお前の答えかい」

「うん!」

「大当たりぃ!」



千尋がそう頷くと、湯婆婆が手にしていた契約書が音を立てて破ける
湯婆婆はつまらなそうに鼻を鳴らした



「行きな、お前の勝ちだ、早く行っちまいな!」

「お世話になりました!さようなら!」

「千尋!」

「名前!ハク!」



油屋のみんなに見送られながら、千尋は左手をハクと、右手を私と繋いで走り出す
トンネルの見える場所まで着くと、私達は足を止めた



「わあ、水がない…」

「私達はこの先へは行けないの」

「千尋は元来た道を辿ればいいんだ、でも決して振り向いてはいけないよ、トンネルを出るまではね」

「名前とハクは?またどこかで会える?」

「ええ、きっと」

「きっとよ」

「きっと」

「さあ行って千尋、振り向かないで」

「名前、ハク、ありがとう、さよなら!」



千尋が私達から離れて、走り去って行く
とても寂しい気持ちになって隣を見ると、ハクもトンネルを見つめていた



「千尋、行っちゃったね」

「ああ、そうだね」

「寂しいね」

「ああ」

「…千尋が羨ましい?」

「え?」

「元の世界に戻れて」



ハクの目を真っ直ぐ見て尋ねる
ハクは少しだけ視線を彷徨わせた後、躊躇いがちに頷いた



「私もいつか、戻れるだろうか」

「ハクなら大丈夫だよ…ねぇ、ハク」

「どうしたの?」

「大事な、話があるの」



花霞に消えていく
(大好きなあなた達へ、私が出来る事を)
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