握り締めると溶けるように儚く(1/1)

釜爺に呼ばれてボイラー室に来ると、竜の姿のハクが血まみれで横たわっていた



「ああ、ハク!」

「こりゃいかん、身体の中で何かが命を食い荒らしとる!」

「身体の中で?」



私は川の神様からもらったお団子をハクの口に押し込む
すると、ハクが苦しそうに何かを吐き出した



「…判子?」



ハクのお腹から出て来たのは不思議な形をした判子
それと同時に、ハクが竜の姿から元の人間の姿へと戻る
あんなに怪我をしていたのに今は傷一つなく、ただ眠っているだけのようだった



「良かった、ハク元気になったみたい!」

「だがおかしいな、呪いの気配が一気に消えた」

「呪いの気配?…、わっ!」



がたん、とボイラー室の一角から大きな音が立つ
慌てて駆け寄ると名前がぐったりと倒れていた



「名前!…大変、すごい熱!」

「名前だと?早く、こっちに寝かせるんだ」



釜爺と一緒に名前をハクの隣に寝かせる
その時、名前の背中にくっついていた変な形の白い紙がふわりと浮かんだ



「名前は竜の命と引き換えに自ら呪いにかかったんだ
明日の日の出までに竜が盗んだ判子を返せば名前は助かるが、もし一秒たりとも遅れればその子は死ぬ
いいね、明日の日の出までだよ」



そう言うと、びりびりと紙は一人でに破けて消えていった



「今の、湯婆婆?」

「いや、奴の姉の銭婆だ。名前の奴、いくらハクの為とは言え自分の命を投げ出すとは…!」

「でも、日の出までにあの判子を返せば助けてくれるって!
釜爺、私銭婆さんの所に行ってくる!」

「銭婆の所にか?あの魔女は怖いぞ」

「でも、名前はいつも私の事を助けてくれたの!今度は私が名前を助けたい!
お願い、銭婆さんのいる所を教えて」

「行くにはなぁ、行けるだろうが帰りがなぁ…待ちなさい」

「千!随分探したぞ!」



釜爺が棚を探してる間、リンさんがボイラー室に入ってくる



「湯婆婆がカンカンになってお前の事探してるんだぞ!
気前が良いと思ってた客がカオナシって化け物だったんだ!」

「あった、あったぞ千、これを使いなさい」



釜爺から手渡されたのは電車の切符
随分と古びたそれを、私は大事に握り締めた



「いいか、ここから六つ目の沼の底という駅で降りるんだ」

「沼の底ね、分かった」

「おい、湯婆婆はどうするんだよ」

「今から行く」



リンさんに返事をして、名前の手を握り締める
異様に熱いその手に、名前が死んじゃうような気がしてぎゅうと握る力を強めた



「名前、私が絶対助けてあげるから、死んじゃ駄目だよ
ハク、お願い、名前を守って…!」



名前の手を離して立ち上がる
一刻も早く銭婆さんの所に行くため、私は急いで湯婆婆の元に向かった



握り締めると溶けるように儚く
(私が出来る精一杯の恩返しを、今)
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