何よりも単純に、(1/1)

「お邪魔します」

「良く来たね、名前」



玄関をノックすると銭婆が私を迎え入れる
促されるままに椅子に座ると、紅茶とチーズケーキを振る舞われた



「ありがとう、でもあの、私急いで帰らないと…」

「あの竜が心配かい?」



銭婆は私の向かいに座って静かに聞く
私が頷くと深い溜め息をついて首を振った



「あの欲深な妹は、お前を雇うことで油屋と自分を守ろうとしたね
誰かの恨みを買うような事をしても、お前がいるあの油屋に攻め込む事なんて出来ない
お前程の魔法使いがいれば、返り討ちにされちまうからね」

「…そうね、湯婆婆は私が油屋を離れる事を何よりも恐れてる」

「そして、お前とあの竜が恋仲になると、妹は竜を使って悪さをするようになった
あの竜を傷つけるような奴が現れれば、お前が黙っていないからね
私も今までは何か盗まれても黙っていた
だけど今回ばかりは、そういう訳にもいかなくてね」

「ハクはまた、銭婆から何か盗んだの…?」

「魔女の契約印さ」

「っ、魔女の契約印…?!」

「そうさ、お前ならそれがどれ程大事な物か分かるだろう?
私もいつかあの判子が盗まれるんじゃないかと思って、前々から守りのまじないをかけておいたのさ
盗んだ奴が死ぬような、強力なやつをね」

「死…?!駄目よ銭婆、ハクは湯婆婆に無理矢理従わされてるだけなの!
お願い、ハクを助けて…!」

「お前ならそう言うと思ってたよ
だけど私がここでおめおめとあの竜を許したら、妹が調子に乗ってまた悪さを繰り返す
そこで、交換条件だ」

「交換条件…?」

「今からお前に呪いをかける
明日の日の出までに判子が私の手元に返ってくれば呪いは解けるし、返ってこなければお前は死ぬ」

「…っ、私に呪いがかかれば、ハクは助かるの…?」

「ああ、あの竜の呪いがお前にかかるだけだからね、竜は無事さ」

「良かった…!」



ハクが助かると聞いて、私は思わず笑顔になる
そして両腕を広げて立ち上がった



「早くかけて!ハクをこれ以上苦しめたくないの」

「下手したらお前が死ぬ事になるんだよ」

「いいの、ハクを失う方がよっぽど怖い」

「…良い瞳だね、あの竜は幸せ者だ」



銭婆が私に触れると、一気に身体中が熱くなって心臓が悲鳴をあげる



「お前の優しさに免じて、油屋まで送ってあげる」



その銭婆の言葉を最後に、私は完全に意識を手放した


何よりも単純に、
(ハクが助かれば、それで良かった)
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