近さ故に遠く、遠さ故に痛く(1/1)
「名前」
「ん…どうしたのハク」
まだ日が登らない早朝
すっかり夢の世界にいた私にハクの声が届く
眠い目を擦って起き上がると、既に身支度を整えたハクが小さく笑った
「ほら、寝癖がついてるよ」
「む、だってまだ起きる時間じゃないもん…」
「はは、名前は本当に朝が苦手だね」
ふわあ、と間抜けな声とともに欠伸をするとまたハクに笑われる
ハクは自分の額に私のそれをくっつけると、指を絡めて目を閉じた
「今から湯婆婆様の遣いで2日程留守にする。油屋と千尋をよろしく頼んだよ」
その言葉に、私の頭は一気に冷静になる
「また、危ない事をするの?」
「名前が心配するような事じゃない。必ず戻ってくるから、ね?」
今までハクが湯婆婆の遣いで油屋を留守にする事は何回もあったけど、その殆んどは怪我をして帰ってくるから私は湯婆婆がハクを遣いに出すのが堪らなく嫌だった
力づくで湯婆婆からハクを引き離す事は出来るけど、これは湯婆婆とハクの契約で私の出る幕じゃない
だから私は、いつも油屋でハクの無事を祈る事しか出来ない
「絶対、絶対無事に帰ってきてね…」
「うん、約束する」
「今度怪我して帰ってきても、もう治してあげないんだから…!」
「それは困るな、じゃあ今回は怪我をしないように気をつけないと」
「ハク…、ハク、大好きよ」
「私も、そなたが好きだ」
触れるだけのキスをして、ハクは竜の姿で飛び立って行く
その姿が見えなくなるまで、私はただただ窓際に立ち尽くしていた
近さ故に遠く、遠さ故に痛く
(ああ、私は何て無力なの)
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