プロローグ(1/1)

油屋



そう看板を掲げる紅の大きな建物
人間から隔離されたこの世界で、湯婆婆が経営する油屋には毎夜癒しを求めて神が集う
日が暮れ始めた今、従業員達は差し迫った開店時間に追われて慌ただしく駆け回っていた



そんな中、父役の悲鳴にも近い叫び声が廊下に響き渡る



「名前様!何をなさっているのです!」

「何って…厠の掃除よ?」



名前と呼ばれた少女は至極平然とブラシを片手に答える



「おやめ下さい!名前様が皆と同じ仕事着を着て厠の掃除などなさったと湯婆婆様がお聞きになったら…!」

「平気だよ、誰かの仕事を奪った訳じゃないもの。」

「しかし…!」

「もう、私がやりたいんだからいいの!それより、早くしないともうすぐ開店だよ?」



さあ、早く行ってと半ば強引に父役を追い出し、再び掃除を始める少女
肩のあたりでゆるくまとめた髪は黒く輝き、整った顔立ちに白い肌とまるで作り物のような容姿は誰をも魅了する





少女の名前は苗字名前
彼女はこの油屋で唯一湯婆婆に名前を奪われていない存在
かつてあの湯婆婆が頭を下げてまで油屋で働いてほしいと頼み込んだこの店の看板娘である



プロローグ
(不思議な町の、とある少女のおはなし)

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