影か夢にも似て

「名前ー!」

「わ、こんにちは」



橋の上を掃除していると、後ろから千尋が抱きついてくる
箒を置いてぽんぽんと頭を撫でると、嬉しそうに笑った



「見て、ハクが持っててくれたの!」

「良かったね、見つからないように大事に持っておくのよ」



千尋が大切そうに両腕に抱えていたのは彼女がこの世界に来た時に着ていた服
そしてそのポケットから小さなカードを取り出した



「千尋…私の本当の名前、忘れてたの。もう千になりかけてた」

「そうね、ここに来て3日も経てばみんな忘れてしまうの
あなたの名前は荻野千尋、普段は千でいて、本当の名前は大切にしまっておきなさい」

「でも怖いの、いつか本当に千になっちゃうんじゃないかって」

「大丈夫、私とハクがちゃんと覚えておいてあげるから」

「本当?約束よ!」

「うん、約束ね」



小指を絡めて指切りをする
そんな時、千尋の視線が私の背後に向いた



「…カオナシ」

「かおなし?」

「千尋、先に油屋に戻ってて?そろそろ開店よ」

「大変!じゃあ名前、またね!」

「うん、ばいばい」



千尋に手を振ってからカオナシと向き合う
カオナシは何も言わずに、ただ私を見つめて佇んでいた



「此処はあなたの来る場所じゃないよ、さ、お帰り」

「ぁ…、ぁ…」

「…いらないよ、そんな物」



カオナシが両手から出したのは大量の砂金
私が首を振ると、寂しそうな表情を浮かべた



「ほら、いい子だから、帰りなさい」




そう言うと、カオナシはすっと消えていく
それを見届けてから、私も油屋に戻った



影か夢にも似て
(彼の寂しさを、私はどうしてあげる事も出来ない)
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