夜に沈む(1/1)

「釜爺、こんばんは」

「おお、名前か」



ボイラー室の扉を開けると、釜爺が忙しく手を動かしながら私を見た



「何だ、風呂の調子が悪いか?」

「ううん、あのね、仕事ないかなーって思って」

「仕事?お前さんにか?」

「人間の女の子なんだけど…」

「人間?」



ぴた、と釜爺は手を止める




「やけに上が騒がしいと思ったら、そういう事か」

「うん、きっとみんな気付いて私とハクを探してるんだと思う」

「ふむ…名前の頼みとなれば聞いてやりたいが、生憎人手は足りててな」

「そうだよね、この子達がいるもんね」



私は足元を見る
私の周りにはスス達が集まってぴょこぴょこと飛び跳ねていた



「人間となりゃあ湯婆婆に会わせた方がいいだろう」

「やっぱりそう思う?」

「湯婆婆と契約さえしちまえば、此処の奴らも人間の存在を認めざるを得なくなるからなぁ」

「そうだよね」



ーきゃああああ!



「千尋?!」

「あ、おい名前!」



ふ、と千尋の叫び声が聞こえる
急いでボイラー室を出ると猛スピードで階段を駆け下りてくる千尋が目に入った



「良かった、無事だったんだね!」

「名前!会いたかった!」



千尋を受け止めると、ぎゅうっと腰に抱きついてくる
油屋では、ハクが上手くやってくれてるだろう



「私、ハクという人に言われて釜爺さんに会いにきたの」

「うん、一緒に行こう」



千尋の手を引いてもう一度ボイラー室に入る
すると釜爺の傍にリンが立っていた



「名前、こいつに頼めばいい」

「リン!丁度良かった!」

「げえ、本当に人間じゃねえか!今油屋ですげえ騒がれてるんだぜ!」

「えっと…」

「千尋、今からリンにあなたを油屋の最上階まで連れて行ってもらうから、そこで湯婆婆にここで働きたいと頼みなさい
断られても粘るのよ。ここでは仕事を持たない者は、湯婆婆に動物にされてしまうの」

「湯婆婆…?」

「会えばすぐに分かるよ。嫌だとか、帰りたいとか言わせるように仕向けてくるけど、働きたいとだけ言うの
辛くても、耐えて機会を待つのよ。そうすれば、湯婆婆には手は出せない」

「うん、分かった」

「大丈夫、千尋なら出来るよ。リン、悪いけど千尋をよろしくね」

「よろしくお願いします!」

「ったく…名前様の頼みなら断れねえか。ほら、こっちだよ!」

「は、はい!ありがとうございました!」



千尋は私と釜爺に頭を下げてリンを追いかけて行く



「釜爺、ありがとう」

「礼には及ばねえ。それより、行くんだろ?」

「うん、湯婆婆が簡単に人間を雇うとは思えないからね」

「名前、グッドラック」

「ふふ、ありがとう」



ぐ、と親指を立てる釜爺に手を振ってボイラー室を出る
千尋より先に湯婆婆の部屋に向かうため、私は小さく息を吸って床を蹴った



夜に沈む
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