追いかける群青(1/1)
「名前!」
千尋を見送って油屋に戻ると、ハクが橋の上で私を待っていた
「ハク、ただいま」
「急に出て行ったと聞いたから、心配していたんだよ」
「女の子…、人間の女の子が、迷い込んだの」
「人間が?」
私の言葉に、ハクは目を見開く
「それは大変だ、早く何とかしなければ」
「その子のお父さんとお母さん、こっちの食べ物を食べちゃったの。でもあの子はちゃんとトンネルに…っ」
言いかけたその時、油屋に灯りがともる
そして脳裏に、川の端で泣きそうな顔をしている千尋の姿が浮かんだ
「名前?」
「…駄目、間に合わなかった」
「じゃあ、その子はまだ此方の世界に?」
「うん、川の近くにいる。ハクお願い、あの子…、千尋を迎えに行ってあげて」
「この世界で働かせる?」
「帰れないならこの世界にいるしかない。この世界にいるなら、働かなきゃいけない」
「…うん、そうだね」
「私のせいだ、もっと早く気付いてあげれば良かった…!」
千尋はこれからきっと辛い思いをする
まだ幼いあの子にそんな運命を背負わせてしまうと思うと、自分の不甲斐なさに涙が溢れた
「名前、自分を責めるのはおやめ」
「でも、千尋が…っ」
「名前がいなければ千尋は今頃消滅してただろう、そなたのお陰で千尋は救われた」
「ハク…っ」
「とにかく、私は千尋を迎えに行ってくるから油屋のことは頼んだよ」
「うん、任せて!」
袖で涙を拭って笑ってみせると、ハクも安心したように笑う
走り去っていくハクを見送ってから、私は賑わいだした油屋へと足を踏み入れた
追いかける群青
_
[ 8/23 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]