THE LAST BALLAD | ナノ
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〜終わりなき旅路〜

 自由を知りたかった少年が自由を求めたあの戦いから――
 一人の女は愛し気に娘を抱き締め手紙をしたためていた。

「天と地の戦い」と呼ばれたあの日から3年。
 途方もない数の命が奪われ、生き残った人々も癒えぬ傷跡に苦しまれている事でしょう。
 喪失の最中にある世界が危惧する通り、エルディア国はイェーガー派が取り仕切る「軍」を結成し、軍備増強に力を注ぐ日々を送っています。
 海の向こう側で生き残った人類の報復を恐れて島は一丸となり声を上げます。
 勝てば生きる、負ければ死ぬ。
 戦わなければ勝てない。
 戦え、戦え、
 エルディアと世界、どちらかが消えるまでこの戦いは終わらない。
 エレンの言ったことは正しいのかもしれない。
 それでもエレンはこの世界を私達に託すことを選んだ。
 今、私達が生きている。
 巨人の居ない世界を――」


「ママ! ママ! 早く早く!」
「もう、そんなに慌てないで大丈夫よ、ユミル!!」

 女王として、島に残りエレンの願いの通りに巨人を継承せずに無事に小さな十代のまだ未熟な身体でそれでも立派な女の子を産んだヒストリア、すっかり大きくなり言葉もまだあどけないながらもいっちょ前に自分の口調の真似をしたりと、王都ではない普通の民家から出て来た自分と同じ髪をした幼女を抱きあげ、今日娘の三回目の生まれた記念日を夫と祝うヒストリアの姿があった。

 早いもので、あの戦いから3年もの月日が流れていた。
 ウォール・マリアの壁が崩壊したことで、この壁の外側を覆っていた一番大きな壁は消えた。
 大量の人間が「地鳴らし」により命を落としたあの日からそれでも生き残った者達は寄り添い手を重ねて生きている。

 パラディ島ではエレンの起こした「地鳴らし」の報復を恐れ、海の向こう側からいつかやってくる攻撃に備える為に結成された軍が力を増している中、ヒストリアが最初にした事は、虐殺を止めるべくマーレの戦士たちと手を組み、「地鳴らし」を止めに向かったミカサ達やアルミン、そしてジャンや人間の姿へ元に戻ったコニーの母親や彼らに協力した者達の保護、だった。
 そしてリヴァイとウミが確かに愛しあった証は消えない。この世界を、未来を生きる、大切な命たち。彼らはサシャの良心が引き取り育てて今では両親に似て立派に成長を遂げている。

 送られてきたヒストリアからの手紙を読み上げていたのは三年間でしばしヒストリアの替え玉や女性と間違われる程に中性的だった容姿はますます精悍さを増していたアルミン。
 そしてかつて104期生として共に過ごしてきた、ライナー、コニー、ジャン、達もその手紙に耳を傾けていた。三年の月日で少年少女だった彼らも無事に成人を迎えており、大人びた風貌にスーツを纏っている。その傍らにはピークもおり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 そこに姿を見せたのは、アニだった。
 世界から始祖ユミル・フリッツが成仏したことで、歴史は多く変化し、彼女は王ではなく子供達と共に生きる道を選んだ。
 そして寿命と共に彼女は死に、それにより彼女の娘から派生した一族であるジオラルド家は消え、マーレ人に生まれたジオラルド家でありながらエルディア人を愛しその罪を裁かれどちらからも裏切られて怨念を残して消えたウミの遺恨も全て消え去った世界、知性巨人は居なくなり、ユミルの呪いと言われた13年の寿命も全て消えた事で知性巨人で寿命が迫っていたアニやライナーやピークたちも今も存命で、アルミンも団長として今も彼の武器である対話を捨てず生きている。

「パラディ島が見えてきたよ。アルミン、本当に上手くいくと思う? 壁を破壊して、島を裏切って。エルディア国民が崇めるエレンを殺した連中が、和平交渉の連合国大使を務めるなんて」
「私はこの辺りで撃沈されても大して驚きはしないかな、」
「ヒストリアを信じろ。サシャの家族やジャンの親族と俺の母ちゃんを真っ先に保護してくれた女王陛下を。絶対に俺達を守ってくれる」
「か弱い私達を、ね」
「アニ、争いはなくならないよ。でも、こうやってマーレの戦士たちパラディ島の調査兵団だった僕らが一緒にいる姿を見たら、みんな知りたくなるはずだ。僕達の物語を。散々殺し合った者同士がどうしてパラディ島に現れ、平和を訴えるのか。これまでの、僕達が見てきた物語。そのすべてを話そう」

 アルミン達は長い月日の果てに今、ようやく船舶で故郷でもあるパラディ島に向かうのだった。その先では同じように彼女にもきっと届いているだろう、自分達のメッセージが。

 ▼

「エレン……もうすぐみんなが会いに来るよ。嬉しいでしょ?」

 そう、アルミン達がもうすぐ帰還する。その報せを受け取ったのは。パラディ島・シガンシナ区。
 幼いエレンがかつて居眠りをしていたあの丘の木の下で。一人座っているのは長い年月を経てすっかり、大人の女性へと成長したミカサだった。傍らの小さな墓に座り込んで、エレンへ語り掛けていた。
 あの後、一人マーレからパラディ島へ戻ったミカサはヒィズル国のキヨミの手を借りながらこうして愛する少年の生まれ故郷で今も暮らしている。

「ミカサおねぇちゃん!!」

 そんなミカサの元へ。嬉しそうに駆け寄って来たのは、かつて救世主としてこの地に変革をもたらした翼を産み落とした女に酷似した、漆黒の長い髪を揺らし歩みよって来たあどけなかった少女から微かに面差しが母に似て来たまだ愛を知らない、だが、愛の中で育まれていた少女だった。
 島の人間なら知らない人は居ない位有名人であるリヴァイの実の娘であるエヴァランサはミカサに引き取られ、二人はまるで年の離れた終いのように仲睦まじく暮らしていた。
 双子たちはサシャの両親たちが代わりに引き取り育てている。皆に見守られながら、この島で、リヴァイの子供であることを伏せ、いつか戻るその日を待ち続けて。

「……また、あなたに会いたい……」

 皆を思い出し、一人生きていたミカサ。アッカーマンの力が消えてからはすっかり普通の女性と何も変わらない体型へとあっという間に戻り、今は戦いとは無縁の世界で平穏な暮らしを続けていた。
 少し、いやかなり痩せた身体に巻いたマフラーが解けてしまいそうになっており、時折襲う焦燥感から涙を流していたミカサだったが、ふと、突如として上空から一羽の鳥が近づき、マフラーを嘴で引っ張りあげ。その後すぐに空へ飛び立ってしまったのだ。
 自由を誰よりも、愛していた、求めていた少年は本当の自由の身をなり、その背のかつて背負っていた翼は、今は、彼をどこまでも連れて行くのだろう。

 ――「私と……一緒にいてくれてありがとう。私に……生き方を教えてくれてありがとう
 私に……マフラーを巻いてくれてありがとう」
「そんなもん、何度でも巻いてやる」

「エレン……マフラーを巻いてくれて……ありがとう……」

 例え、その姿、形を変えても、エレンが自分と交わしてくれた約束は、永遠に消えない。
 そして、ミカサは、もう一人の声を聞いた。

「ウミ……あなたがいる世界で、これからも見守っていてね……うん、そう伝えておく、彼に、

 ――「あなたの笑顔が、私は、大好き、」

 ▼

「ここには、大事な人間が眠っているんだよ」
「おじいちゃんの大事な人? おばあちゃん?」
「いいや、おじいちゃんの大事な人じゃない……」

 青く広がる世界の、何処までも澄み渡る水平線を眺めながら……。
 一人の、高齢の割に鍛えているのか、腰のしゃんとした老人は幼い少女を小型の船に乗せて。何処までも広がる青の世界へ身を投げ、そして浮かびながらも沈んでいく意識に身を任せていた。

「この海、が、全ての宝物なんだよ、――この景色に焦がれて、誰もがこの海を目指して戦った」
「そうなの?」
「あぁ……今度、会いに行こう。だから、あんたが繋いだ命を、今も――どうか、見ててくれ」

 海面に漂う身体は空を見上げている。自分の父はあまり当時の「天と地の戦い」の事を話したがらなかった。自分が暮らすこの島は今も変わらずに静かな時が流れ続けている。そして、あの日から変わらない、リヴァイの記憶からも、そして、すっかり年老いて歩くのもおっくうになったアヴェリアからも。

「笑った顔が好きだって言うから、ずっと笑って暮らしたんだ、お前のひい爺さんは。島に帰ってきたら子供達を皆集めて、作物を育てたり、自由気ままに暮らした、母さんの目を貰ったから、いろんなものを見つめて色んなものに触れて行きたい、いろんな場所をとにかく歩いた、ただ一つの「愛すべき華」を、探して」
「そして、どうなったの?」

 そして、子供を育て、自分と同じ身寄りのない子供達もみんなまとめて面倒を見た。
 地下街の殺伐した世界から気が遠くなりそうな穏やかに包まれとても幸福な、人生を過ごした。

 これが最後。彼女に、自分の、生涯きっと忘れない、愛の旋律。
 そして、その先の道できっと、彼女は待っていてくれるから。
 ▼
 ――「頼む……お前の……名前を……聞かせてくれ……」
「私、は――」

 色とりどりの花が咲き乱れる場所で。彼女がその名前を口にした時、男は歩き出していた。そのまま倒れ込むように、「その名」を、間違いなくその形作ったその名前を口にした少女を愛しげに抱きしめた。
 細い腕を伸ばして、彼女が笑う。走り寄り捕まえて、弾む体を抱き締める。確かな感触。生きている。確かに、ここに。

「……お帰り……っ」
「リヴァイ、」
「そこで、俺が来るのを、待っていてくれたんだな……」
「当たり前でしょう? 約束、したから、ずっと待ってたの」

「「二人が出会ったこの場所から、もう一度、」」

 何から話したらいいのだろう。何から伝えたらいいのだろう。
 話したいことは数多く。
 だが時間は沢山あるから。

「私の事、覚えててくれたの?」
「いや、微かにだが、でも、はっきりと思い出せる。俺は、アッカーマンだから、俺は始祖ユミルの干渉は受けない、始祖ユミルは消えたが、お前と過ごした日々は、ずっと、残っていた。これからは、もうずっと離れる事無く一緒にお前といられるんだな、」

 THE

 LAST

 BALLAD

「世界は……今日も穏やかだな」
「え?」
「はい、おしまい」
「ねぇーおじいちゃん、このお話の続きは?」
「それはな、」

 そしてまた魂は巡る。繰り返す。
 愛した記憶と共に受け継がれていく。
 ここには確かに存在した、二人の愛の証を。
 片時も離れる事無く二人の築き上げた宝はこの先も消えない。
 美しい花と色とりどりの世界、かつて地下で人知れず歌われぬ歌があった。その歌は形を変え時を変え今も変わらず色褪せずに歌い継がれる。
 愛の系譜、時の歩み。紡いだ軌跡はいつまでも絶える事は無いのだと確かにここにあったことを、教えている。

 ここに居たのだ。
 寄り添い見つめあえるそれだけが約束された楽園である。と、
 その事実を知るものは二人きりの世界、抱き合い重ねた二人の軌跡だけが
 知っているのだ。


――リヴァイ・アッカーマン
 天命を全うし、老衰で子供たちに看取られその生涯を終える。
 彼は「天と地の戦い」の後、世界を巡る旅に出て、愛する人の姿を探し続けてどこまでも旅をした。自らの足で歩き、自らの手で触れて、長い旅路の果てに彼は生まれ育った島へ、愛する人の元へ、帰還を果たし、ジオラルド家の呪縛から解き放たれ別の人生を師まで歩んでいたウミとの再会を果たすのだった。

 2021.12.25/
 THE LAST BALLAD完結
 SAKUYA.
 Thank you for reading to the end!
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