THE LAST BALLAD | ナノ
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#143 決別、終結へ4日目

 アヴェリアとミカサとアルミンがサシャの父親に呼び出されると、そこにはガビの姿があった。かつてレベリオの地を戦場に変えた恐ろしい島の悪魔たち、そう誤解し、そして彼女は蹂躙されていく自分の街に激しい憎悪をパラディ島の自分達に抱き、単独で乗り込んで来たのだ。
 その先に待っていたのは、終わらない悲しき憎悪の連鎖。その憎悪の果てにサシャは彼女に撃ち殺された。
 だが、これが戦争なのだ、そしてマーレはこんな幼い少女にまでライフルの扱い方を教え込み、その芸当はパラディ島でも随一の狙撃手であったサシャと同等なほどに。
 そんなガビは同じこの島へ向かう飛行船へ乗り込んだ際に彼女と共に乗り込んで来たファルコを探していた。

「ガビ……!」
「待って!! アヴェリア!!」

 アルミンとミカサを守るように立ちはだかりガビに刃を引き抜こうとした神速の速さで切りかかりかねないアヴェリアを止めるように、もう争う気は無いと打ち明けるガビの目は飛行船で自分達を蔑むようにマーレの洗脳教育の果てに植え付けられた憎悪は感じられなかった。

 ただ、ファルコを返してくれたらどこかに消えると訴えるガビへアルミンはファルコは知性巨人「顎の巨人」を継承したことで人間にまた姿を取り戻し、その彼が4年前のジークの実験で巨人にされた「ラガコ村」出身のコニーの故郷でそのまま巨人にされた今も動けないまま生きている母親に食べさせるために攫ったと話す。

 ガビはショックを隠し切れずにアルミンに詰め寄る中でアルミンはエレンが巨人化した際に全ての硬質化が解かれた事を理解し、そして、その「すべての硬質化」と聞いて最初に思い出したのは……今も地下深くで思いを閉ざし沈黙を続けたように眠り続けるアニの存在だった。
 どうすればいいかわからないと尋ねるミカサを珍しく怒り口調で突き放し、どうすればいいのか自分さえもはっきりしない、「やはり、生き返るべきなのは自分ではない、エルヴィンではなく自分が死ぬべきだったと」ベルトルトの「超大型巨人」を引き継いで今があるアルミンはアヴェリアとガビと共にコニーを連れ戻しに向かうことを決めた。

 そして、一人残されたミカサは自分が先ほどの戦いの前に置き去りにしたマフラーが忽然と消えていたことに気が付くのだった。
 そして、消えたマフラー最後に対話した人間、ミカサはある一人の少女を思い出していた。

「母親のためとはいえ……まだ幼い少年の命を引き換えにする事をコニーは深く考えためらうはずだ。きっと間に合う」
「ありがとう、ブラウスさん」
「アヴェリア、お父さんを迎えに行く間は妹や弟たちは心配しなさんな」
「すみません、何度も任せ切りにして。でも、頼れるのはもうアルトゥルさんだけでしかいないんで……。すみませんが父さん、母さんと俺が戻ってくるまで、お願いします」
「あぁ、必ず、必ず家族全員じ帰っち来ちゃ。誰一人としち欠けたらだめだど」
「はい、よろしくお願いします。エヴァ。必ず戻ってくるからな、だから、お前はいい子にしててくれよ、――レイラの所には、行くな」
「どうして?」
「あいつは……何でもだ、」

 アヴェリアにとってはレイラは、自分達にとって母の存在はウミしかいないというのに、その抜けた隙間を埋め合う様に我が物顔でズカズカと割り込んで妻の不在のリヴァイの隣に居座っていたイメージが消えずに居た。

 レイラは今もトロスト区に居る。シガンシナ区の今のこの凄惨な現象など知らないだろう。
 リヴァイに失恋した所を慰めてくれたクライスとの間に生まれた自分の子も育てている中でリヴァイとウミが離れた間も、リヴァイの拠り所であり続けていた彼女がアヴェリアは心底気に入らなかった。
 もし、いや考えたくない、もしあの「地鳴らしの」代償に消えてしまった、エレンに食われて死んだ母親を取り戻せなくてそのままリヴァイはその欠けたウミの不在を求めてレイラを……。

「(違う。父さんは、そんな人なんかじゃない。母さんを連れ戻し父さんも元気になればきっと俺たちアッカーマン家は元通りになるはず、そうだよな、)」

 アヴェリアはこの最悪の現状を目の当たりにしても、聞いても信じた。
 嫌な予感にはまるで耳を塞ぐように、愛し気に妹を抱き締めた。次に再会する時はまた、彼女は一段と成長しているだろう。
 見目麗しい女性に、またひとつ、娘が成長するの程親は楽しみの瞬間は多いだろう着飾る事が多い娘で在れば尚の事、男とはまた違う楽しみがある。
 花が綻ぶように美しさを増すその意志の強い瞳はリヴァイの母親によく似ていると、父親のリヴァイは言っていた。

「必ず、父さんを母さんを連れて戻る、この島に。そうすれば、皆元通りだ。そうだろ、家族みんなで暮らすんだ、今度こそ離れずに誰も欠けずに」
「うん……私、本当のお母さんと暮らしたい、何となく覚えているの、とてもやさしい目で私を見つめてくれていた、大好きな、お母さん」
「あぁ。そうだ。これ、代わりに持っててくれ」

 そしてアヴェリアがエヴァに握らせたのは写真を入れることが出来るロケットペンダントだった。
 そのロケットペンダントにはまだ幼いエヴァを抱きそして微笑む慈愛に満ちた笑みを浮かべたウミの姿と、そんなウミに寄り添う自分と父親のリヴァイ。四人の家族写真だった。
 この写真よりも家族がまた増えて、本当にこれから子供たちがますます手が離せなくなり賑やかになるだろう、その賑やかな輪の中心に居るべき人が今はその家族を守るためにエレンに身を捧げて死んでしまった。
 だが、きっと、あのエレンのどこかの一部に取り込まれて生きているとしたら、助けて欲しいと望んでいるのなら、自分はあの「地鳴らし」に追いついてこの前代未聞の大虐殺が全てのこの島以外の生きとし生けるものを全て無に帰すのなら成さねばならない。

 この島に居る限り平穏は約束されたも当然だろうか、億銭もの巨人達がこの島以外の大地を平らにする、それはすなわち、この世から生きとし生ける全ての命皆すべて踏みにじられるという事なのだから。

「ミア……、元気でね」
「カヤ……あのね、私の本当の名前、ガビって言うの」
「え〜ガビって変、ミアの方がいいよ」
「はぁ!?」
「お前ら喧嘩すんのかよ、こんな緊急時に止めとけよ。もしかしたら、これが……お前、ガビは、マーレに帰んだろうが。もう会えないかもしれないし、」

 そして間に割って入って来たアヴェリア。2人の顔を見合わせ不機嫌そうな顔で二人の今にも火花散る空気に触れ反対を唱えればガビとカヤは互いに憎み合う一生消えない因縁を抱えながらもこれが最後だと思うと、そっと互いにこれが会うのが最後かもしれないと、名残惜しむように短い間で、お互いに本気で殺意を抱いた複雑な関係だが、島を越えた同じ民族同士だ。深く、抱き合うのだった。

「ニコロ、君はどうするの?」
「帰る故郷も待つ家族も、俺にはないんだ。俺は暫くブラウスさんの所で世話になるよ」
「うん、君たちも早くここから離れた方がいい」

 ブラウス家とニコロに見送られ、アルミンは馬を二匹用意してもらうと、馬に不慣れなガビにアヴェリアが一緒に乗ると、ガビは異性と言うものをこれまで意識してこなかったのもあり、ファルコからの思いがけない告白でファルコを意識し始めているからなのか、アヴェリアと密着することに躊躇いながらも、何を気にしているのかと首を傾げるアヴェリア。

 ラガコ村のルートを知るアルミンが先導し、四年前、ジークの脊髄液の悲劇が始まった上に巨人にされた母親を戻す為。
  コニーの唯一の支えである巨人体のまま横たわり動けない母親の元へ向かった彼の暴走を止めるべく馬を走らせるのだった。

 命からがらファルコを連れシガンシナ区を出て来たコニーはファルコに嘘をつき、馬を進め、その日の晩は野宿し体を休めながらも自分の半身へ語り掛ける。本当にこれでいいのかと、しかし、かつて共に戦いこれまで歩んできた大切な仲間であるサシャのいつも礼儀正しいが、たまに方言が飛び出すあの周囲を明るく照らしてくれる愛くるしい太陽の笑みは影に覆われ、もう見えなかった。



 誰もが不気味なほどの静寂の夜を過ごす中、この壁の外では今もエレンが発動させ行使させた「地鳴らし」の進軍は続いており、見えないがその中の一部としてアヴェリアは取り込まれている状況だ。
 リヴァイはその一部に取り込まれた宿敵で在り盟友のエルヴィンとの誓いの為、激痛で痛む身体をそれでも動かそうと、そして未だ囚われの身であるウミを救うために進む覚悟で自身の命と引き換えでも戦いの為に備え回復を待っていた。

 仲間達が変異した巨人共を一掃し静かになった月の浮かぶ夜、ジャンは耳を塞ぎ、聞こえてきた声に耳を傾けないようにしていた。

 自分はこの騒動を鎮め今回大いに活躍し、多くの民間人を救った。そして、自分達はエレンの「地鳴らし」を間接的に発動の手助けをした。
 だから、自分はウォール・シーナのセントラルの一等地の家で上等な酒を飲みながら妻子を持つという理想の暮らしを妄想していた。
 その美しい黒髪の女性は紛れもなくミカサである。今もジャンは変わらず彼女の心にエレンが居ても構わないとミカサに密かな淡い思いを抱き続けている。
 彼女の流れる長い髪に触れたあの日からその思いは変わらない。

「(嫁も子供も孫の代まで幸せに暮らせる権利がある筈だ。そうだろ? 俺達が命懸けで戦ったからこの島には未来があるんだ……だから……聞き流せ……「ジャン、私だ。外で待ってる」
「(俺はハンジさんの声に気が付かなかった、夢を見ていたから、何も聞かなかった……。行くな……。考えるな。このままじっとしてればセントラルの一等地が手に入る。このまま……)」

 と、レンガ造りの壁にもたれ、ハンジの呼びかけに気づかない振りをしようとしていた。
 しかし、ジャンは結局は耳を塞いでもハンジの声をはっきり最後まで耳にし、結局、ジャンはハンジの呼びかけに応じ、ハンジの元に出向くのだった。

「よく来たね。ジャン。ミカサから状況を聞いてたところだ。現場に居なくて申し訳ない……過酷な状況下でよくやったよ君達は。リヴァイは……無事ではないが生きてるよ、しばらくは……戦えないけど。そして……私たちは「車力の巨人」らマーレの残党と手を組んだ」

 そもそも、自分達がレベリオを襲撃したのは。全ての始まり。まず初めに自分達の島の「始祖の巨人」の力を奪うべく攻め滅ぼしに三重の壁の一番外の壁を破壊して侵攻してきた彼らマーレ軍率いる知性巨人能力者のマーレの戦士たちが原因ではないか。
 彼らのせいでこの島には甚大な被害が及び、それがきっかけでエレンはああなってしまった。そんな彼らの国はもうすぐエレンの報復ともいえる「地鳴らし」の壮絶な恩恵を受ける。が、そんな敵対勢力と手を組んだと会話の中でそう告げるハンジに黙り込むジャンとミカサ。
 しかし、どうして敵対勢力とハンジが手を組んだのか、聡明なハンジがただ的と手を組む筈が無いことを知る。

「エレンを止めるためだ。エレンの放送は聞いた、その上で、皆殺しは間違ってる」
「どうやって止めるんですか?」
「まず……協力者を集める。何ができるかは協力者次第だ。だが、君達や九つの巨人の力が無ければ何もできない。従来の兵団組織は壊滅して……もう私は君達の上官ではない。その上で聞くけど――「やります。エレンは、ウミを食べてから「地鳴らし」を発動しました。これ以上エレンに虐殺なんてさせたくありません……それが……私達やこの島を守る為であっても……エレンを止めたい。会って、伝えたいんです」
「ミカサ……」
「ハンジさん、もし……本当にエレンを止められたとしてどうするつもりですか? エレンが「始祖の力」を維持できたとしてもあと四年の命なら……そのあとこの島はどうなりますか? その後の何十年後の未来もずっと……世界から向けられる憎悪が消えないなら……エレンと止める事はこの島を滅ぼすことになります」
「……私が思うに、マーレからすれば島に奇襲を仕掛けた途端「地鳴らし」発動だ。少なくとも……今後しばらくはこの島に手を出せないと思う」
「「完全に島を滅ぼさないと、いつ世界が滅ぼされるかわからない」と……ヴィリー・タイバーの演説以上に世界を焚きつける事になりますよ!」
「それはもっともだろうが……いずれにしてもこの想定話には猶予ができるはずだ」
「でも!! そうやって可能性を探してるうちに時間が過ぎて何一つ解決できなかった!! だからエレンは世界を消そうと――「虐殺はダメだ!! これを肯定する理由があってたまるか!!!」

 ハンジは、どんな理由があれど敵味方関係なく、調査兵団に所属して今までその命の尊さに触れてきたからこそ、虐殺を許せなかったのだ。
 自分はエルヴィンのような非情さを持てなかった。リヴァイもハンジも、上官でありながら、本来の根付いた優しさを捨てきれずに、そしてこの結果をもたらしてしまった。この島だけに恩恵を与えられればそれでいいとは思わない。
 虐殺を肯定できる理由はない、それがハンジの良さでもあり、そして悪さ、甘いと思うかもしれない、だが、ハンジはどうしてもできなかった。
 島を守る手段ではないとエレンを見切らせてしまったのだが。

「ジャンの言う通り、エレンがこうなったのは私の不甲斐ない理想論のせいだ。それにこんなこと吠えておいて逃げようとしていたんだよ私は。リヴァイは戦闘不能で動けないし、もう以前みたいに戦えない。すべてを捨てて、すべて忘れて生きようって私は……でも……私はまだ、調査兵団の14代団長だ。人類の自由のために心臓を捧げた仲間が見ている気がする。大半は壁の外に人類がいるなんて知らずに死んでいった。だけど、「この島だけに自由をもたらせればそれでいい」そんなケチなこと言う仲間はいないだろう。虐殺を止める事ができるのは……今しか無い」

 誰かにこの会話の内容を聞かれぬように、半壊した民家の中で拳をテーブルに打ち付けてハンジはミカサとジャンに語り掛ける。
 そのハンジの背後には、これまでの戦いで心臓を捧げ犠牲になってきた多くの自由の翼を背負った仲間達が見ている気がした。仲間達が自分達の会話を聞いているような気がした。

 ジャンはその兵士の群れの中に居た自分の親友であるマルコを見つめながらハンジへ呼びかける。

「ハンジさん……俺は……まだ調査兵団です。もうあのまま耳を塞いで部屋に籠もっていたかった……。でも、それじゃあ……骨の燃えカスが俺を許してくれねぇんだよ……」と、マルコもきっと同じ行動をしていたと、誰にも理解されない燃えカスに対しての自分の決心をハンジとミカサに打ち明け、賛同するのだった。



 先に進んでいたコニーとファルコが馬に揺られながらてっきりこのまま意識不明で記憶も無くして倒れていた自分を助けてくれたコニーが病院に連れて行ってくれていると思ったのに。何故か廃村へ辿り着いた。
 ファルコは昨晩のコニーの独り言を聞いていたのかここが自分達のマーレ軍が実験としてジークの脊髄液入りガスを吸わせて巨人化させた村であると即座に理解した。

「昨晩あなたの独り言が聞こえてきました。サシャって飛行船でガビに撃たれた仲間の兵士ですよね? あなたはオレが誰かを知りながら知らないフリしてここまで連れてきた、どうしてですか? ――オレに復讐するつもりですか?」
「違う、あれは戦闘行為だったと弁えてる」

 コニーは復讐の為にファルコをこの村に連れて来たわけではないと説明したうえでカーテンを開け、閉ざされたカーテンから横たわったままの巨人となってしまった自分の母親の姿をファルコに露わにするのだった。
 仰向け状態のまま動く事も出来ず、4年間ずっとこのままだ。

「これをオレに見せて、どうするつもりですか?」

 その時、急ぎ一晩中馬を走らせ追いかけていたアルミンとガビとアヴェリアが追い付き、今にもコニーに促されるがまま巨人の歯磨きを手伝ってほしいという見え見えなコニーのへたくそすぎる嘘にも、お人好しのファルコはまんまと従いコニーの母親に自分を食わせようとしている事にも気づいていないファルコを呼んだ。

「ファルコ!! そいつから離れて!! あんたを巨人に食わせようとしてる!! あんたは「顎の巨人」を継承してるから!!」
「え?」
「コニー!! 止めろ!!」

 アルミンが手を伸ばした途端、コニーはファルコにブレードを突きつけたまま、家に押し入った暴漢に家を滅茶苦茶にされ、それを裏で差し向けたあの日のウミのように叫んだ。

「来るな!! お前らが離れろ!! 何も言うな!! お前にはわからねぇよ!! こいつを生かした方が得だって言うんだろ!? だから母ちゃんを諦めろって!! 正しいお前なんかに!! 俺みたいな馬鹿のことなんてわかんねぇよ!!」
「ファルコ!!「顎」の力を使って!!」
「……「顎」の力……? え? ガリア―ドさん、は……?」

 コニーはファルコを人質に取ったまま、彼を片腕で抱えてはしごで上に登っていく。

「チッ、……(うかつに動けねぇ……!! ファルコが傷つけられた瞬間巨人になったら、まだコントロールできねぇ筈だ……母さんみたいに暴れて手が付けられなくなったら、でも、ファルコが食われたらガビは、マーレ軍の生き残りは徹底的に襲ってくるはずだ)」

 アヴェリアもどっちを攻撃すればいいのかわからないし、どちらも仲間である。動きたくても下手に動けない。困ったように馬の上で停止して様子を見るしかない。
 ガビがファルコを食べさせないでくれと必死に懇願する中で、アルミンは沈みゆく夕日の下でかつてエレンを取り戻す為に自ら先陣を切って巨人たちとの混戦の中に突っ込んでいったエルヴィンの姿を思い出した。

――「総員!! 突撃!!!! 人類存亡の命運は今!! この瞬間に決定する!! エレンなくして人類がこの地上に生息できる将来など、永遠に訪れない! エレンを奪い返し即帰還するぞ!! 心臓を捧げよ!!」

 自分でも感じた筈だ。
――「何かを変えることのできる人間がいるとすれば、その人は、きっと…大事なものを捨てることができる人だ」そして、何か覚悟を決めたように、

「ガビ、コニーを許してくれ」と告げ、そして
「アヴェリア、エレンとミカサの事、後は、君に任せても……いいかな」
「は――何を、言ってんだよ……俺じゃわかんねぇよ」

 アルミンは目を見開き、突然意を決したかのように立体機動装置でコニーの母親の口のちょうど真上の梁に着地したのだ。

「オイ!! 来るなっつったのだろうが!! ――オイ……何するつもりだ? 何か言えよ!? アルミン!?」
「さっきしゃべるなって言っただろ!! だから、――行動で、示すよ」

 と、涙に震える足を叱咤し、アルミンは屋根の上に張り巡らされた梁から地を蹴って巨人の口に吸い込まれるように落ちたのだ。
 まるで自殺行為のような、アルミンのとっさの行動に誰もが目を見開き、「超大型巨人」の能力をベルトルトから受け継ぎ、エルヴィン団長ではなく自分を生かすと判断したリヴァイの選択により生き残り今まで動いてきた自分。
 だが、本来の自分は消え、今の自分は前巨人であるベルトルトに精神を乗っ取られただけの人間だと、エレンに指摘されたこと、今起きている兵団の混乱を見て、自分ではなくエルヴィンが生きていれば、彼の統率ならばこんな風にジークの脊髄液入りワインで混乱に陥ることは無かったのかもしれないと、そう感じるようになっていた。

 思い悩み、だが「地鳴らし」は発動、エレンはもっと多くへ行ってしまった。
 エレンが自分達を突き放すための嘘、傷つき、エレンの守護を使命にしていたミカサも自分がどうしたらいいのかわからないと縋って来たのを突き離して、こんな自分が生き残らなければよかった。
 そう悔やんでならない、ならば残された自分が出来ることと言えば、もうこれしか選択が無いと。せめてコニーの母親だけは人間に戻せることが出来れば、と、飛び込もうとしたアルミンを助けたのはコニーだった。

 村には記憶を失う前の事実を知り、最後まで離れようとしなかった兄の最期、そして自分が「顎の巨人」を継承したことを知るファルコの泣き叫ぶ声が響いていた。結局、コニーの母親は巨人のまま、息子を見つめている。

「俺が助けなかったら……、どうするつもりだったんだ?」
「君のお母さんが人の姿に戻ってた」
「「超大型巨人」を継承してな……そうなりゃ……母ちゃんを苦しめるって……考えりゃわかることなのに……母ちゃんには立派な兵士になれって言って送り出された。なのに息子は、子供と友達を殺すかもしれなかった……そんな兵士になっちまったんだ……俺は……」
「……僕もだよ。団長の代わりになれなかった……」
「アルミン、俺は……。母ちゃんに誇れる兵士になりたい。だから……、困ってる人を助けに行こう」

 お互いに本音をぶつけ合い、和解したコニーとアルミン。泣き崩れるファルコを見つめ、動かぬままの巨人の状態の母親。
 それでも、このまま背中を背けていてもきっとこの島は平穏だとしても「地鳴らし」を呼び起こした責任は自分達にもある、だからこそ、まず自分達が出来ること、生きた意味を、サシャとエルヴィンもきっと同じことを望んだだろう。
 その意志を引き継いだ二人は、コニーの困っている人たち、この「地鳴らし」で巻き込まれる人達を想い、止めに行こう、とお互いに決心するのだった。
 まずはガビを頼りライナーと合流してエレンを止めるならきっと力になってくれるはずだ。
 ――虐殺を止めるために。行動を開始したハンジ達と必然的に志同じに来た道を戻って街に戻るなり、エレンがもたらした自由に活気に沸く街は、自分達の気持ちとは真逆でお祭り騒ぎとなっていた。
 まずは準備の前に腹ごしらえだと、屋台で片っ端から食べ物をかっぱらってきたコニーたち。
 朝の腹ごしらえとしてライナーの元へ向かう前に食事をしようと席に着いたところ、アルミンはガビのライナーの「鎧」が剥がれたという事で壁の素材も硬質化で出来ている、「地鳴らし」が起きた事で壁が崩壊したのなら――つまりアニの全身を覆っていた硬質化で出来た結晶体も壊れている。
 つまりアニも目覚めたのだと、言った瞬間、隣に座っていた深くフードを被っていたウミと同じくらいの背格好の人間がいきなり食べていたパイを吹き出していたのだ。

「あ!? アニ!?」

 アルミンの驚いた声が上がる。アニと、確かに聞こえた名前に誰もが目線をそちらへ向けると、パイを両手に持ち、まるでげっ歯類のように頬いっぱいに詰めて普段クールな印象の彼女らしからぬ風貌でパイを貪り食っていたのだ。

「え……!!」

 これには戦士候補生でもありずっと死んだと伝えられていた「女型の巨人」を宿すマーレ戦士隊の人間でもあるアニの生存に驚きを隠せずにいる。

「(ああぁ……女型の巨人の本体か、母さんの大事な部下を殺した)」

 アヴェリアは実物のアニ・レオンハートを目の当たりにし、どこか冷めた目で彼女を見つめていた。アヴェリアが104期生の中でも特に気にかけていたらしい少女を。
 しかし、その正体は非情なまでの猛追で目的の為なら躊躇いも無く調査兵団を次々と惨殺した「女型の巨人」の正体でありこの島に仇なす敵。
 彼女がウミの部下を殺したのならリヴァイ、自分の父親が選抜したエリート兵士でもあり部下を殺した人間でもあるという事だ。
 今となっては争うだけ無駄だろうが。アニは突然のアルミンとの再会に動揺を隠し切れず、だが四年ぶりの飲食、ゆっくり味わいたい、混乱する思考の中一生懸命モグモグモグと口を動かしてパイを喉へ流し込んだ瞬間、コニーが盛大に笑いだした。

「だはははははははは!!! アニが!! ……パイを貪り食ってる!!」
「止めなよコニー!!」
「汚ったねぇ食い方!!」
「4年ぶりのパイなんだよ!!」

 4年ぶりの再会に積もる話、やとにかく数えきれないくらいアニに呼びかけていたアルミンに声を掛けられ眠るライナーと合流し父親と再会するために「地鳴らし」を止める事に反対する筈が無く、アニは急ぎここまで手配して連れて来てくれたルームメイトへ心ばかりの手紙を書くと、皆と共にエレンの起こした「地鳴らし」を止める戦いについていくことを決めた。

――「ヒッチへ、
 偶然アルミン、コニーと会い行動を共にすることになった。先を急ぐ、迷惑をかけた。
 4年間話しかけてくれてありがとう、さようなら
 陰湿なルームメイトより」

 と、書き記して。独りでは食べきれない量のパイアニの為に駆って来たヒッチは姿の無いアニと、残されたパイを見て、一人ではとても食べきれないと、ため息をつくのだった。

2021.11.20
2022.01.30
2022.04.16加筆修正
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