THE LAST BALLAD | ナノ
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Intermezzo-罪深き背徳の-

――それは、今からはるか昔、約2000前の頃の物語。
 世界には「古代大国・マーレ」と言う大きな国がありました。栄華を極めたその大国と、二大勢力を分けるもう一つの大国「エルディア帝国」
 これは、後にエルディア帝国に生まれ幼少期より奴隷として育った幼い少女、ユミル・フリッツから始まる物語になります。

 今から1820年前のある日のことです。
 エルディア帝国の奴隷として育ったユミル・フリッツと名乗る少女は豚が逃げた犯人に仕立て上げられ、村を追放されてしまいました。
 楽園を追放されたユミルは奴隷としての身分から解放され、自由を手に入れました。
 ですが、その自由とは名ばかりの自由あり、やがて、ユミルは自分を追い立てる弓矢の雨から命を狙われました。
 命を狙われ、追いかけ回されたユミル。弓矢の雨を受け、彼女は命からがらその場から逃れ、1本の大きな木の中へ逃げ込みました。

 まるで命の全てを模したような。大きくそびえたつ大樹の中で休んでいた彼女は、自分を追い立てる追っ手の声に驚いた拍子に足を滑らせ、そのまま深い水の底へと、ゆっくりゆっくりと、沈むように、落ちていきました。

 その深く、そして暗い水の底で。彼女は今まで支配されてきたこの世界にもお別れだと、そっと目を閉じたのですが、そんな彼女にそっと忍び寄る気配がしました。
 聴こえた声に耳を澄ませれば、それは、この大地に根付く悪魔でした。
 悪魔は囁きます。「自由が欲しいか、なら、力を与えよう。この力をもってすれば、お前を縛るものは、誰も居なくなるのだと」

 ユミルは心の底からの、自由を本心では渇望して求めていました。手にした自由とは名ばかりで本当の自由ではないのだと。誰に支配される事もない、後ろ指を指される事もない、そんな自由を求めていました。

 ユミルの伸ばしたその手を取った悪魔は、ユミルへ力を授けたのです。それはまるで一つの果実を手に、ユミルはその果実を頬張りました。
 その果実は、悪魔のもたらした強大な「巨人の力」でした。
「巨人の力」は偉大でした。
 大樹を突き破り、大きな悲鳴と共に彼女は無敵の力を持つ巨人へと変貌を遂げしました。
 その日を境に、ユミルは巨人化できる力を持ってエルディア帝国に貢献しました。
 ユミルはその力で道を開き、街を豊かにしてエルディア帝国を発展させ、荒れ地の多かった大地の繁栄に大いに貢献しました。ユミルは心根の優しい少女でした。
 荒れ地を耕し、峠には橋を架けました。そして、その力に目を付けた王は彼女を兵器として迎えたのです。
 そう、王の目的は栄華を極めた古代大国マーレ国を滅ぼす為。王は次第にユミルの持つ不思議な巨人の力を利用するために目を付けたのです。
 王の命を受け、それでも優しい彼女は必要とされることに意義を見つけて、戦果をあげていきました。

 戦果をあげる度にユミルは王にとても喜ばれ、褒められ、彼女は褒められる度にまた戦果をあげていきました。今まで蔑まれてきた少女は初めて誰かから必要とされるその喜びを、思いを得たのです。
 王はユミルに対しある一つの提案をしました。それは、褒美として王の子種をもらい受けると言う事でした。ユミルは王の子種を享受し、戦いの最中に三人の子供を授かりました。
 生まれた三人の娘の名前は、それぞれ、マリア、ローゼ、シーナと名付けられ、それはそれは大切に育てられました。

 愛を知らないまま、王様との間に次々と三人もの娘に恵まれたユミルは、それが「愛」だと。
 最初はわかりませんでしたが。生まれた我が子を抱いた時に感じた言葉には出来ない温かな感情、芽生える母性は確かに自分から溢れる愛なのだと、ユミルは知るのでした。
 その感情は自らとの間に生まれた我が子を抱くフリッツ王に対しても、愛しさを密かに抱いていました。
 それは、今までに感じた事のない感情で。それは、紛れもなく「恋」そして、「愛」でした。
 穏やかで確かなその愛に包まれて、共に過ごした日々はとても穏やかに満ちていました。

 そんなある日。
 王へ復讐の機会をうかがっていた兵士が突如槍を手に王に襲い掛かりました。
 その槍が今にも王の心の臓を貫くその瞬間、ユミルは、とっさに身体が動いていました。
 彼女の身体を太く鋭い槍が貫き、その場に倒れ込んだユミルを見た王は確かに、驚きと、深い悲しみを帯びた表情を見せました。
 ですが、それはたった一瞬で。ユミルはそれでも王様を庇い自らの痛みを背負い槍を受けた事に後悔はありませんでした。
 巨人化しても受ける痛みは同じ、だけど、慈悲深い心を持ち誰よりも優しいユミルは心の底から王様を、愛していたのです。

 あの日、絶望の中で大地の悪魔と契約し、巨人化の力を得たユミルは13年後にその悪魔の呪いを受け、静かにこの世を去りました。
 ユミル・フリッツが亡くなり彼女の肉体はそのまま王の命により娘たちへと受け継がれました。
 三人の遺された娘は、母親の肉体を食べる事で同じように巨人化の力を得ました。
 王はその血を絶やさないように、娘から孫へ、自分が亡き後も、延々と子供を産ませました。
 そして娘が死ねばまたその肉体は食べられ、そして孫が死ねばさらにその肉体はその孫からまた肉体を摂取することで受け継がれていきました。

 ユミルの遺したその魂はやがて九つの魂へ分裂し、エルディア帝国はこの大地を巨人で支配しようとしたのです。それぞれのエルディア帝国の上位の位を持つ一族が九つの巨人が持つ能力を持つようになりました。

 その連鎖は次第に広がり、ユミル・フリッツの持つ全ての巨人の頂点でもあり、歴代の継承者の記憶を持つエルディア帝国の人間に飲み進化を発揮するカール・フリッツにより封じられた不戦の契りとしてその能力を自ら封じた「始祖の巨人」から派生した九つの知性巨人が生まれました。

 枝分かれした九つの魂に分かれた巨人のうち「始祖の巨人」を除き八体の巨人はそれぞれ異なった能力を持っています。
 ・ひとつは、未来の継承者の記憶を持ち、自由の名の元に戦った巨人。
 ・ひとつは、60mもの巨体と高熱の蒸気で周囲を焼き尽くす超大型巨人。
 ・ひとつは、硬質化で全身を鎧のように覆った頑丈な鎧の巨人。
 ・ひとつは、女性の肉体に汎用性のある体躯と無垢の巨人を呼び寄せる能力を持つ女型の巨人。
 ・ひとつは、全身が獣の様な体毛で覆われた人語を話す獣の巨人。
 ・ひとつは、強力な顎と爪を持つ小柄な体躯で俊敏性のある巨人。
 ・ひとつは、巨人化持続力と高い機動性を持ち人語を話す四足歩行型の巨人。
 ・ひとつは、巨人体の生成・操作に特化した能力を持ち、硬質化で様々な武器を生成する巨人。

 ユミル・フリッツの死後「始祖の巨人」を中心とした知性ある「九つの巨人」に魂を分け帝国を築いたエルディア帝国はユミルの血を受け継ぐユミルの民の力によって、エルディア帝国が発展する前に繁栄していた古代大国マーレをついに滅ぼし、大陸の支配者となったのです。

 エルディア帝国は、いろんな方法でより巨人化能力を持つユミルの民を増やし、エルディア人を増やすためにマーレなどの他国の女性を戦争で勝ち捕虜にして連れて来ては「ユミルの民」と名付けた子供を産ませるという民族浄化をおぞましい行為を約1700年、繰り返しました。そうする事で「九体の知性巨人」と、知性の無い「無垢の巨人」を従えるようになったのです。

 しかし、その栄華は長くは続きませんでした。滅ぼされたマーレの生き残りたちは密かにその反撃の機会をうかがっていました。国家が内側から力を無くして、そして滅びる事を望んでいました。

 その中で、ある少女がマーレから自らの意志で捕虜になり、エルディア帝国へやってきました。自分の女の証を、幸せを奪ったエルディア帝国打倒の為に、勇敢にも自ら女を捨て、その長い髪を切り落とし、自らの命を賭けユミル民として生きる事を決めました。
 エルディア帝国の民族浄化により産み落とした男児を引き連れ、彼女は情報収集に奔走しました。諜報活動を続ける中で、彼女はエルディア帝国の王家の側近に近づき、エルディア帝国内では、九つの巨人の力を巡って内戦が起きていた事を知るのでした。

 エルディア帝国の傾国を狙うマーレにとって、この状況を狙わない手立てはありませんでした。その内戦に少女は便乗し、勇敢にも女である身を捨て、自らの命を賭け、勇敢と大胆さと知恵を持ってエルディア帝国を打ち滅ぼし、さらには「九つの巨人」の内の七つを手駒に従え、80年前の「巨人大戦」に勝利したのです。

 彼女の活躍により、エルディア帝国が持つ巨人の力を7つも奪還することに成功したかつての大国マーレはエルディア帝国を支配下に置き、これにより、1700年間増長し、大陸を支配したエルディア帝国はこの時の「巨人大戦」の影響で知性巨人の半分以上を失ったことで次第に追い詰められ、巨人化能力を持つ一族であるエルディア帝国はそのまま弱体化し、静かにその歴史に幕を閉ざし、消滅していきました。

 巨人大戦で生き延びたマーレ側の王族に対し、145代目エルディア帝国の王であるカール・フリッツはその勇敢な出で立ちで内側からエルディア帝国を打ち滅ぼした英雄である「彼女」を、それは酷く恐れました。
 後にマーレに勝利をもたらした「巨人大戦に勝利した巨人を討ち滅ぼした女神」・英雄として今もマーレの伝説として語り継がれています。

 カール・フリッツ王はマーレの事実上の支配者となった彼女と約束を取り交わし、もうこれ以上の望まぬ争いは行わないと自ら戦う意思を捨て「不戦の契りを」交わしたのです。それは最強の巨人である「始祖の巨人」の能力を使わず、建設した壁の中で静かに暮らすというものでした。

 残された国土である小さな島国。パラディ島。そこに、巨人の硬質化能力で三重の壁を築き、ごく少数の国民と共にその世界で巨人に囲まれ悠久の時を生きる。
 それが王が出来る、これまで祖先がマーレに行ってきた非情なる行為への贖罪。
 王は自らの持つ始祖の巨人の力を差し出しました。エルディア人の記憶を改竄し、「壁外の人類はすべて滅んだ」と思い込ませました。
 ですが、記憶を改竄できるのは純粋なエルディア帝国の人間だけ、共に島に渡った非エルディア人には高い地位を与えることでその真実を今日まで黙認させたのです。
 しかし、その中で二つの民族はその行いに異を唱え、王と袂を分かつことになり、やがて絶滅まで追い込まれていく道を選んでまでも事実を黙秘することを強い意志で拒みました。

 その後、カール・フリッツ王は始祖の巨人と「不戦の契り」を交わし、王家の継承者による始祖の巨人の能力を封じ後に名を改め、偽りの王を即位させ、自分達は真の王家であることを隠し、レイス家と名乗るようになります。

 王に見捨てられ、マーレに取り残されたエルディア人たちはマーレに残り、マーレ政府の管理の元にエルディア人の証である腕章をつけ、設置された収容区で厳しくもその長く苦しい迫害を受け続ける人生を過ごす事になるのです。

 ユミル・フリッツ。彼女は生まれながらに奴隷として育ち、そして村の犠牲となり、追放されようやくこの苦しみから終われるのだと噛み締めたのでしょう。
 ですが、彼女は死んだ今も、始祖ユミルとして、2000年間の孤独の中、エルディア帝国時代の奴隷のまま死んでも尚も、自由もなく、生きています。

 彼女の半生を思うならば、彼女は村を追われ大地の悪魔と契約をした事で巨人化したあの日から、自由などまるで無い、子供を延々と産まされ、そして、不自由に縛られたその世界で彼女は最期を迎えた今も、囚われたまま、なのです。

 彼女は、本当に、心からとても優しい少女でした。奴隷として育った彼女は愛された事も愛したこともありません。ですが。それでも彼女は誰よりも愛に満ちていて、そんな心優しい少女にはとてもではありませんが、この世界は、とても生きにくい、世界だったのかもしれません。

 そして、彼女は今も、1人閉じ込められたまま、待ち続けているのです。
 その道の先でいつか迎えに来てくれる、幻想の王子様を。

 パラディ島へ渡る際にエルディアの王は、マーレ大国にこう言い残しました。
「今後我々に干渉するなら、壁に潜む幾千万の巨人が地上のすべてを平らにならすだろう」
 そうして、80年が居経過した今も、その沈黙は貫かれ、守られたままなのです。

 その沈黙が破られた時、再びこの大地は、巨人によって攻め滅ぼされる。
 パラディ島に一番近い大国マーレが一番先にその脅威を目の当たりにするのだろう。
 例外はありません。
 この国は、世界は、いつか、終焉を迎える。
 今はただ穏やかなる凪のような時代の中でたまたま、生きているのです。
 長い沈黙を保つのはそのためでした。
 その約束は真実です。何人たりともあの島は、楽園は、侵してはならないのです。


「長い、もっと簡潔にまとめろって。なぁそう思わねぇか??」
「まぁ! 何をおっしゃるのですか!? これは大切な歴史なのですよ、カイト様!!」
「へいへい、その英雄が俺達ジオラルド家の末裔ってことで。いいや、今日の勉強は終わり、出かける」
「また一人で抜け出そうなんて、そうはいきませんからね!! あなたは将来ジオラルド家に女児を……」
「だから、歴代の生まれてくる人間は皆、男だからいいんじゃねぇか。それ聞いたら尚更女の子なんて絶対産ませたくないよ、俺娘には普通に結婚して普通に好きな人と幸せになって俺はその結婚式を泣きながら見つめるのが夢だからな、マーレの為に食わせるなんて、したくない」

 2020.09.15

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