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26


 道場の縁側で、お茶を啜りながら一角と弓親と並ぶ。十一番隊の道場が、きっと護廷十三隊の中で一番賑やかだ。各隊に道場は備え付けられているけれど、六番隊のそれと比べるとその喧しさは段違いだ。あと汚さも。
やちる副隊長はついさっき飴を抱えて駆けて行った。更木隊長に自慢するらしい。一息ついたところで「今日は非番?」と弓親が言った。

「うん、お休みだから遊びに来たの」
「死覇装でか?」
「だって前に浴衣で来たらお宅の隊士に絡まれたんだもん」

 今日も結局絡まれたけど。心の中で付け足した。
 一角は白けた顔で「お前は威厳っつーか、オーラが無え」なんて言う。一応三席なんだけどな。そう返したいところなのだけれど、残念ながらその自覚は自分にもあった。
 手土産代わりに持って来た最中を頬張る。あ、美味しい。初めて買ったけど、甘さが丁度良くてお茶にぴったりだ。今度うちの隊長に出そうかな。
 背後では、竹刀の打ち合う音が聞こえる。あと怒号。元気だなあ、と思いながら聞いていると、一角がわたしの背後に置かれた瓶に目を向けた。大きな酒瓶は、主張が激しい。

「それは?」
「ん、ああ、これね。はい、あげる」
「うおっ、……あぶねえな!」

 一角と弓親が目を向けたそれを、一角に向けてぽいっ、と放り投げた。不意打ちだったのに重いそれをしっかり受け止めた一角に思わず感心する。いや、受け止めてくれるとは思っていたのだけれど、流石の安定感だ。
 一角の手の中の瓶には雨曝、と流れるような字がある。坂崎さんに先日もらった酒だった。

「これ、高いんじゃないの?」
「そうなの? 貰ったんだけど、こんなに飲めないから持ってきたの」

 弓親が目をちょっと見開いた。そんなに上等なお酒だとは思わなかった。坂崎さんのお酒はとても質が良いらしい。
 坂崎さんからお酒を貰ったあと、どうするか少し迷った。自分で飲むには量が多いし、普段酒を嗜まないわたしには度数が高い。しかし自分の隊にお酒を差し入れる、というのも。六番隊の隊士が隊舎内で酒を飲むことなど絶対にない。結局十一番隊で消費してもらうのが良いだろうとあたりをつけた。

「皆で飲んでよ、折角だから」
「皆って?」
「え? 十一番隊の」

 わたしの言葉にギョッとして、弓親と一角が嫌だと揃って言う。え、なにそれ。

「こんなに良い酒、もったいないでしょ」
「俺達で飲むに決まってんだろ」

 一角も弓親も、ちょっと薄情だ。そう思いながらも、笑いが零れる。この大量の酒を二人で飲むつもりなのか。
 けらけら笑っていると、弓親が「睦は飲んだの、これ」と酒瓶に目を向ける。わたしが首を左右に振ると、また二人がギョッとした。とにかく勿体ない、ということらしい。

「どうせなら今飲むか」
「え」
「いいね、開けよう」

 え、今度はわたしが目を見開く番だった。真昼間に、隊舎の道場で、この度数の高い日本酒を、飲む? 考えられない。
 しかし二人は俄然乗り気だ。お猪口を用意しようと弓親が立ちあがったので、慌ててその死覇装の裾を握った。

「昼間だよ!」
「だから?」
「ダカラ……?」

 変なのはわたしの方、といった風なので混乱してくる。あれ、わたしが可笑しいのかな。もしかして、皆普通に飲むの? 昼間から? 仕事中なのに?
 ぐるぐる頭を回して弓親の死覇装の裾を掴んだまま静止する。暫く神妙な顔で彼と見つめ合う。そうしていると、背後から「お疲れ様です!」とはきはきした声がかけられた。

「……あ、阿散井だ」
「はい、こんにちは! 睦さんは、仕事……じゃなさそうっすね」

 いつの間にか、紅い髪と刺青が特徴的な阿散井が立っていた。竹刀を下げているが汗をかいていない辺り、今来たばかりなのだろうか。阿散井は十一番隊の隊士で、実力は一角の折り紙つきだ。一角と弓親を通して知り合ったからか、わたしのことも姉のように慕ってくれている。正直ちょっと嬉しい。
 阿散井と話しているうちに、わたしの手は弓親から離れていた。その隙に弓親がここから離れようとしたことに気づいて「あ!」と声が漏れる。

「阿散井! 弓親たちがこんな時間からお酒飲もうとしてるから止めて!」
「っおい馬鹿!」
「酒……? あ!」

 一角から静止されたが無視した。遅れて口をふさがれる。お酒を飲むために必死過ぎじゃないか? もがもがと喋ろうとすると圧が強くなった。普通に苦しい。
 わたしから「酒」と聞いた阿散井は不思議そうに首を傾けて、そしてわたしたちの傍の酒瓶に気づいたらしい。

「雨曝じゃないですか!」

 阿散井が興奮したように叫ぶ。その声は道場いっぱいに響いた。
 わたしの口を抑え込んでいた一角が、くそ、と声を漏らしている。気づけば道場から音が止んでいた。先程まで打ち合っていた隊士たちに目を向けると、皆一様にこちらに目を向けていた。

「雨曝?」
「酒か?」
「え、班目三席、ずりいっすよ!」

 あちらこちらで声があがりはじめ、そうして縁側の方にわらわらと人が集まり始めた。わたしはさりげなくそこから数歩離れた。同じく逃げ出した弓親が頭を抱えて「美しくない」とぼやいている。

「そんなに美味しいの……」
「いいお酒なんだよ。本当に」

 結局「俺から一本取れたら酒が飲める」という約束で一角が稽古を再開し、途中でそれを聞きつけた更木隊長が参加して道場がめちゃくちゃになった、らしい。わたしは更木隊長の霊圧が近づいてきたところでさっさと退散したので後々阿散井に聞いた。十一番隊ってやっぱり面白いね、後日一角たちにそう言ってみたら普通に怒られてしまった。



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