◎ロ ッ ク マ ン
油断大敵


窓から差し込む気持ちの良い陽光に目を細め、洗濯物を畳終わったナマエは満足そうに外を眺めていた。
衣類と言ってもこの家(と基地に言うのも不適切だが、住んでいる以上家で間違いはない。)の主と、自分の分しか無いが、最近は以前よりずっと手際よくこなせるようになった。
と、携帯していた通信機が鳴った。
見計らったようなタイミングに少し意表を突かれたが、表示された通信相手の名を見てナマエはなんとなく納得した。
「はい、ナマエ」
『ナマエ、今日の予定は空いてるか?』
通信機の向こうから紅いロボットの音声が流れる。メタルマンだった。
「あー……」
キッチンが片付いているのを確認してナマエは続けた。
「おう、空いてるけど。どうした」
『今、俺の担当基地にいるんだが基地内トラップが不良を起こしていてな。診れるか?』
「ステージトラップか。大丈夫だ、すぐ向かえる」
通信機を肩と側頭部に挟み、積み上げた洗濯物を持って立ち上がる。
『そうか。頼む。ああ、あと』
「ん?」
『E缶持ってこい』
「パシリかよ、オニーサマ」
『くっはっはっ、もっと呼んでみろ』
「あーはいはい、E缶な」
取り合うのが面倒になって、ナマエは通信を切った。
大体ここのロボ達は人使いが荒い。
特にあの初造機にしろ4号機にしろ、赤いのは遠慮してこない。
全くどいつもこいつもエアーや末っ子の謙虚さを見習えよな。
頭の中でそう悪態をつきながら、彼は畳終えた洗濯物を抱えた。


飛行装置を使って、メタルマンの居るステージへ到着した。
寂れた工場の内部にはワイリーとメタルと部下のロボット達と、そして何より自身が綿密に造った仕掛けがぎっちり組まれている。
全ては外敵を阻むため。それはこのくらいを突破してくる強者でなければ、取り合ってはやらないという意思表示でもある。
「着いたぞメタル。入り口に居るから通路開けてくれ」
繋げた通信機の向こうからメタルが行った。
『了解。だが故障しているのは入り口付近のやつだ。俺がそこに行く。ちょっと待ってろ』
「分かった」
通信を切って、ナマエは上を見上げた。
この場所で最初に待ち受けているトラップは、頭上の鋭利な刺のついた重りだ。
それが一定の時間で上下し、地面に落ちる仕掛けになっている。
さらに、ここの内部は床がベルトコンベアで出来ている。
進む者は自分の意思を否定されながら歩くしかない。気でも抜いていたらあっという間に足を取られてしまう。
意思と相反して流れてきた獲物は、もれなく落下してきた針の山に貫かれ、そしてぐしゃりだ。
(……性格わっりぃよなぁ)
大雑把そうに見えて、ナンバーズの中でも特段頭が切れる。
油断大敵、よくもこう主の性格を体現したステージが出来上がったものだ。

観察していると、一番手前のトラップが全く作動していなかった。
ついでに、そこまで獲物を誘導するベルトコンベアも止められているのか否か、ともかく動いていない。
故障しているのはあれのことか。
近寄っても動く気配はないので、そう暫定してナマエは持参した大型のケースを開いた。
中には機械で出来た、取り外し式のショルダーパーツとロボットアームが入っている。
それを腕部、肩部に装着したなら、人間のアッシュにも並の作業用ロボットと同じ人外的な馬力を与えてくれるというわけだ。
衝撃を吸収、緩和し、重量を分散するショルダーパーツもあるおかげで金属塊でも肩に担ぐことも出来る。
機械整備とステージ修繕に使う重量級の材料を運んだり加工したりするのには欠かせない。
それも元々、ワイリーがナマエをこき使うため片手間とは言え専用に開発したものだ。おかげで並外れた性能が憎くなるほどナマエの仕事ははかどってばかりだった。
ただ人間よりロボットの方が多く触れ合う今の生活では、作業時以外でも便利が良いのでナマエも多目に見ている。


パワーアームを装着して、重りの下を覗き込む。
オイルのこびりついた針が、飢えたように鈍く光っていた。
下に下ろせないものかと思ったが、制御の管理機器をいじるべきでこれを無理にどうこうすべきではない。
「メタルが来るまでやっぱどうしようもないか」
目視で確認事項を頭に連ねてゆく。本体整備に加えて針の研磨も必要だ。

と、足元が一瞬揺らいだ。
反応をしかけた次の瞬間には、不意に目に映る景色が流れている。
ベルトコンベアが予期せず動き始めていた。
「っうわ!」
ベルトが途切れるそこで、行き場がなくなった推進力に体がいうことを聞かない。
頭上で金属の擦れる淀んだ音がした。
目に入った、針の先が怪しく振れた瞬間。
認識したと同時に、トラップが凶暴な音を立てて、頭上に針が降りかかった。

「ーーっ!?」



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