「シュバルゴ、出かけるよ!」
『そうか、分かった。……ん? ボールには入れないのか?』
「あ、ボール? えへへ、今日はシュバルゴと一緒に歩きたいなぁと思って」
『珍しいな』
「まぁ、気分だよ。それにシュバルゴと一緒だと景色がゆっくり見れるしね!」
『……どういう意味だ』
「なーんちゃってー……とか……」
『悪かったな、動きが遅くて』
「えっ、あ、お、怒っちゃった!?」
『それは俺の短所だ、言っても仕方は無い。だが……』
「ごめんシュバルゴ! シュバルゴの事を貶すつもりとかそんなのじゃなくて」
『…………』
「その、ごめん!」
『ん? おいおい、慌てすぎだ。すまん、少し考え事をしただけだ……冗談だろう? 分かっている』
「ごめん!」
『落ち着け。謝らなくていい、ふっ……そんな顔をするな』
「……ちょっと、今私の顔見て笑ったでしょ!」
『ばれたか』
「もう!」
『すまん』
「……許してくれる?」
『許すも何も、最初から怒っていない』
「本当!? よかった、ありがとう!」
『……ただ、仕方無いと言ってもこの機動力がお前を守るための足枷になるのは……心苦しい、そう感じただけだ』
「でも私ね!」
『……ん?』
「素早くなくったって、シュバルゴのどっしりして構えてるとこ、好きだからね!」
『…………』
「だから嫌がってるとか誤解しないでね!?」
『……どういうフォローの仕方だ』
「え、シュバルゴなんで笑うの!?」
『ははは、感傷的になってこんなことを考えるのは野暮だった』
「何々、何言ってるのシュバルゴ!? ねぇってばー!?」
『俺は俺らしくお前を守る、それだけだな』
* * *
「見て! テレビでミュージカルの中継やってる!」
『華やかだな』
「わぁー、チラーミィがドレス着てる! 可愛いー! ほらあっちのチョロネコはタキシード!」
『……暑苦しくはないんだろうかな……俺にはよく分からない』
「…………」
『…………』
「ねぇシュバ……」
『着ないからな』
「まだ何も言ってないじゃない! 何で威嚇するのー!」
『お前の言いそうな事は分かっているからだ』
「ミュージカル用のカッコいいやつ、シュバルゴ着たらきっと似合うだろうなーって思っただけだよ!」
『やっぱりか』
「駄目?」
『俺は装飾なんて必要ない』
「……蝶ネクタイとか」
『どこの芸人だ』
「ねぇシュバ……」
『付けないからな』
* * *
「シュバルゴ! シュバルゴ! シュバルゴーッ!!」
『っ!? こら、形振り構わず抱き着んじゃない、腕が刺さったらどうする!』
「ここに居たんだぁ、よかったー!」
『……聞いていないな。それよりどうしたんだ、そんなに慌てるなんて』
「だってシュバルゴ、ベッドの隣で寝てたはずなのに、起きたら居ないんだもん!」
『……そういうことか』
「……よかった……」
『すまん、朝日で日光浴をしていた。いつもより早く目が覚めたんだ』
「…………」
『……どうした』
「ど……どこかに消えて……居なくなっちゃったのかと、思った……」
『…………』
「な……なんて、その……」
『……わけないだろう』
「…………」
『お前を残して、俺が一人で何処かに消えるわけが無い』
「そう、だよね。本気で考えちゃうなんて、馬鹿だよね」
『そういう時もある』
「……ありがとう」
『……悪い夢でも見たか?』
「……実はね。ちょっと、嫌な夢見ちゃったんだ。……独りぼっちになる、夢」
『そうか。……普段よりやけに取り乱していたのはそのせいか』
「…………」
『……前を見ろ。綺麗だろう?』
「え……わぁ朝日、すごく綺麗だね」
『お前も日の光を浴びるといい』
「シュバルゴって日光浴するの好きだよね」
『ああ。心地良いからな』
「……ねぇ」
『なんだ』
「もうちょっと、こうしたまま……見てていい?」
『……もちろんだ』
「えへへ……ありがとう、シュバルゴ」
『気にするな』
『お前の傍に、俺は居る。安心してくれ』
(11.9.1)