クロコダイル

メンヘラ:自傷
*流血表現あります*


傷跡なんて残ろうが残るまいが、戦ってつくもんだからしょうがねぇ。さして気にも止めない。
この世界にいる限り切っては切り離せないものではあるが、痛いとか、出来れば付けたくないとかは思った事はなかった。あいつのあの顔は見るまでは。

「クロコダイルさんっ、また、ひどい傷・・・!手当てしますから、こっちに!!」

「あァ・・・」
         *

あの白ひげと海軍の決戦の後、身を潜める為に滞在していた小さな町。俺は自分の野望を果たすために力を養う必要があった。そのためにはもちろん住む場所も金も必要だった。まァ、適当に海賊襲ってもいいんだがある程度の規模にならねぇと金は持っちゃいない。だから、懸賞金目当てに名のある海賊どもを潰す事にした。

あの戦い以来、何故か血を見ると色んな事を思い出すようになった。
ロジャーの処刑、バロックワークスでの仕事、アラバスタ・・・思い出したくねぇ過去なんて、自分には無いと思っていたが。ある日、雨が降っていたと言う事もあり、ヘマをやらかしたことがあった。
冷たい大雨が降る日。町に入り、路地裏で固いレンガ作りの家に背を預けてしばらく休んでいた、その時。
傘を差したあいつから声をかけられた。

「あのっ!大丈夫ですか・・・?」

大雨が降っているせいで、通りは人はほとんどいない。その音のせいで最初はあいつが俺に話しかけてくれているのも気がつかなかった。気がついたのは、体に強く当たっていた雨が止まったから。上を見ると傘が差されていた。

「すみません、ずっと腕から血が流れているので・・・」

傷はコートで隠していたが、流れる血だけは止められずにいた。

俺は黙ったまま、腕を押さえた。痛みはないが、こんな側まで人がいた事に気づかない自分に苛立ちを覚えた。

「失せろ」

「あの、でも・・・」

「失せろ、といっている」

「あ、の・・・」

そういって小さい女は黙った。こんだけ脅せば、立ち去るだろう。そう思っていた。しばらくして傘が揺れた。ようやく、どこかに行くか・・・そう思った時。ビリ、と布が裂ける音の後に
コートの下にあいつの腕が入ってきて、怪我をしている所に布を巻いた。

「お前・・・っ?!」
触られて痛みを感じた。どうやら怪我の部位を止血したようだった。
「あの!お願いですから、ちゃんと治療をさせてくれませんか・・・っ!!」

そう大声でいったあいつの、スカートは不自然に破られていた。


      *

あの日にあいつの家に行って治療してもらって以来、怪我をしてはあいつの家にいくようになった。・・・最初は。

「クロコダイルさん、私素人ですから、やっぱりちゃんとした病院にいった方がいいと思うんですけど」

「・・・行けるなら、最初からそうしている」

「そうですよね。すみません。何も聞きませんから」

そういって慣れた手つきで包帯を巻く。
「にしても、医療器具だけはあるな。お前医者か、看護師か」

「人には聞くなっていうくせに、クロコダイルさんはいいんですか?・・・家族で病院をやってたんですが、事故で亡くなりまして。私が小さい頃に。親がそんなだから見て覚えたんです。お金なくて、医療の道には進めませんでしたけど」

「そうか」

「だから、器具はいっぱいあるんです。でも私が出来るのは消毒と、縫うのと、包帯を巻くくらいですよ」

「クハハ、上等じゃねぇか。・・・俺は、それに助けられた」

「でも、もっと病院にいけばこんなひどい傷跡にはならなかったかも・・・ごめんなさい」

申し訳なさそうに謝るそういって最初に治療してもらった腕の傷に触れる。ひんやりした小さな指が腕に触れ、ふつふつと自分の黒い部分が顔を出す。

こいつの、この顔をもっと見たい。

そう思い、****に会うためだけに傷をつけるようになったのはいつからだろうか。

「最近、傷出来ても同じ所をやられることが多いですね・・」

当たり前だ、自分でそうなるように、付けている。

「ここまで深いと、また傷跡残っちゃうかなぁ・・・本当、ごめんなさい」

歪んだ愛情なんて、とっくにわかっている事だった。それでも口実をつくるために刀、ナイフなど。出来るだけ深い傷が付くものを選んで自傷する。あいつに、****に会うために。

「クロコダイルさん、血が!」

「大丈夫ですからね、痛いかもしれませんけど、きっと、治るからっ・・・」

「だい、じょうぶ・・・ですからね」

傷が大きく、流れる血が多い時に見せるその表情が、
泣きそうで、俺を心配するその表情が。

俺を堪らなく興奮させる。
今日も、あいつが巻いた包帯の上からナイフを下ろす。







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