どなたか存じませんが


口の中に入る海水がこんなに苦しいと感じたのは、子供の時に海水浴場に行って以来だろうか。体はどんどん水の中に沈んて行くが、こんな時に焦ってはいけない、と頭の中は冷静だった。

うん、とりあえず苦しいけど落ち着かなきゃ、体の力を抜いて、それから、えっとそれから何かにつかまって、それから…

考えに反して体は新鮮な空気を求めて暴れてしまう。

苦しい、苦しい、息をしたい
というかなんでこんなことに?
歩いてたら急に海に落ちる何てことある?
たすけて、と声にならない叫びを上げる。
そんな時、急に浮遊感。濡れた体はとても重いはずなのにどんどん引っ張られる感覚。
・・・というより空中に浮いてる?
溺れなくてよかったと、おもいっきり呼吸をした。

背中で、かすかに鳥の鳴き声が聞こえた。


(どなたか存じませんが)
(あなたは命の恩人です)




前← top→次

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -