部屋にひとりぼっち


私の紹介が終わり、食堂はエースさんの一声で大いに盛り上がる。
しかし宴だ、宴だ!と盛り上がるエースに対し、マルコさんが呆れた顔でため息をつく。

「お前らまだ昼だろうよい。それにまだ***は親父に紹介してねーんだ。」
「なんだ、そうだったのか。じゃあ親父に聞いてからか。まぁ家族が増える分には親父も許すと思うけどなぁ」

女はナース以外にいねーしな、と付け加えエースさんがこちらにくる。その解答を聞いて残念そうなクルーのほとんどが、それぞれの持ち場に戻るため食堂を後にする。
通り過ぎる度に、恰幅の良いクルー達から口々によろしくなお嬢ちゃん、と言ってもらえた。エースさんより年上でも、クルーのほとんどが自分よりも大分年上であるからか、お嬢ちゃん扱いには変わりはない。

「飯も食ったし、今度こそ休憩にするかよい?」
「はい、そうします」

エースさんはまだ遊び足りなさそうであったが、マルコさんからの仕事しろ、一言でしぶしぶ食堂から出て行った。
私とマルコさんも食堂を後にし、広い船内を歩く。マルコさんについて一緒に歩いていると、そこかしこで作業しているクルーを見かける。先ほどのサッチさんのようにコックや食堂でご飯を作る人や船大工、なにやら重そうな樽を運んでいる人。医務室からの道のりでは会うことはなかったが、本当にたくさんの人がこの船では働いているのだと実感する。

「・・・あの私少し休憩したら、なにかお手伝いしますね?」
「ん?なんでだよい?」
「助けてもらって、お風呂にご飯まで頂いてますし、お手伝いもしないわけには。働かざる者、食うべからず!です!」
「あいかわらず***はおもしろいやつだよい。・・・でもそうだねい、それで気が済むなら、いずれ頼むよい。」
「あ、見てのとおりの筋力なので、あんまり力仕事は無理ですけど、掃除とかなら!」
「そうだねい、なにか考えてみるよい」
そういうとまたマルコさんはくつくつと喉を鳴らし、笑う。
ぽん、と私の頭に手を置きそう言ってくれた。助けてもらってから、そんなに時間は立っていないのに、マルコさんが優しく笑いかけてくれると、とても安心する。・・・大人ってこういう人の事を言うんだろうな。
しばらく歩いていると、最初の医務室とは違う部屋の前に着いた。
「***、悪いんだけど寝るならここを使ってくれよい」
部屋に入ると、机とベッド、ソファーとそれから本棚。とてもシンプルな部屋だ。間取りはシンプルであるものの、本棚にはぎっちりと難しそうな本がたくさん入っており、広い机の上は書類で溢れている。
「俺の部屋だよい。この船、血の気が多いやつが多いから、医務室にはしょっちゅう人が運ばれてくるんだよい。今日は***だったよい」
「そ、そうなんですか・・・」
「だから医務室じゃあ落ち着けないだろうよい。夜までには別の部屋用意するから、それまで我慢してくれな」
「ありがとうございます。あ、でもマルコさんはいいんですか?」
「俺はまだ仕事があるから、大丈夫だよい。ゆっくり休んでくれよい」
そういってゆっくり扉を閉めてくれた。・・・男性の部屋に泊めてもらうのは初めてなので少し緊張してしまう。(本人はいないけどさっ)
さすがにベッドに寝るのは申し訳ないので、ベッドの傍にあるソファーで寝ることにした。
「そういえばマルコさんのジャケット借りっぱなしだったな」
確かに少し肌寒いため、食堂でのジャケットはありがたかった。マルコさんシャツ一枚だったけど、大丈夫かな。そんな事を思いながら、ジャケットを脱ぎ、布団代わりにする。
(あ、この部屋・・・)
ジャケットを脱いたとき、そして部屋に入ったとき。
ふわりと感じた香り。マルコさんの後ろを歩いている時も、頭に手を載せてくれた時も漂った香り。
「マルコさんの匂いかなぁ・・・」
お風呂で使ったせっけんと、少し柑橘のような爽やかな香水の香り。
「・・・落ち着く。」
この世界にトリップし、命を助けてくれた人。こんな見ず知らずの奴に優しくしてくれる人。

「恩返し、なにができるかな。」
そんな事を考えながら、瞼を閉じた。

(部屋にひとりぼっち)

(でも、なぜか不安ではないのです)





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